第7話 友達の家
「ねぇ、ルーナお姉さん!! せっかく友達になったんだから、今日は夕食を食べに来てよ!」
「えっ、でも、突然でご迷惑じゃない? 大丈夫かしら?」
「それなら大丈夫だよ。さっき、イモを取りに行った時に、お母さんに言っておいたから! スープもたくさん用意してもらっているよ!」
「そうなの? なら、お
「うん!!」
「わかったわ。ありがとう。ちょっと、忘れ物を取ってくるから、待っててね」
私は、急にルイちゃんの家に行くことになったので、慌てて準備をする。
ずっと、畑仕事をしていたので、顔にまで
井戸の水を汲んでおいてよかったわ。私は慌てて、泥を水で落とす。さすがに、初めての友達のおうちに、泥だらけで行くのは、怪しまれてしまうもん。
そうだ、ルイちゃんにはずっと手伝ってもらったんだし、イモまでもらってしまったのよ。なにかお土産でももって行った方がいいわね。今後は、ずっとご近所付き合いがあるわけだし!
アレン様が、私のために村長さんにあずけておいてくれた袋の中から、私はお土産になるようなものを物色する。
干し肉やピクルスはちょっとあれよね……
そうだ、袋の中に乾パンとドライフルーツが入っていたはずだわ。
これなら甘いお菓子みたいなものだから、お土産向きよね。
たしか、4人家族と言っていたから、少し多めに持って行った方がいいわね。
本当はオシャレなドレスとかを着ていった方がいいけど、服はアレン様が用意してくれたものだけ。
できる限り、清潔感がある服を選ぶ。
「こんなものでいいかな?」
まるで、恋人とデートするみたいに、私はそわそわしていた。変な女だと思われたくないもの……
「どんな時でも、誠意を伝えればいいんだよ」
昔、お父様に言われたことを思い出す。お父様も、
だから、王子に利用されてしまったんだけどね。
でも、私に好意を向けてくれる人には誠意をもって対応しなくてはいけないわ。
そうすれば、向こうもわかってくれるはずよ。
そう自分に言い聞かせて、私は外に出る。
「お待たせ! じゃあ、行こうか!!」
「うん!」
私たちは、手を握りながら、彼女の家に向かった。
※
「お、おじゃまします。はじめまして、近くに引っ越してきたルーナです。よろしくお願いします」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。私は、ルイの母のメアリです。よろしくね、ルーナさん」
ルイのお母様が、丁寧に挨拶してくれたわ。お母様は、少しふくよかで笑顔がカワイイ女性だった。
「あのこれ、お土産です。ルイちゃんに、畑を手伝ってもらったから、その――たいしたものじゃないんですけど……よかったら、食べてください。あと、さっきのおイモとても甘くて美味しかったです!」
私は緊張で、頭がおかしくなりそうだったわ。
「あらあら、ご丁寧にありがとうね。まぁ、ドライフルーツ? こんな高価なのもをもらってしまっていいのかしら?」
よかった、喜んでもらえた。
ドライフルーツって高価なんだ……知らなかったわ。
「ええ、本当にルイちゃんには助けてもらってばかりで……ほんの気持ちです。食べてください!」
「なら、お言葉に甘えて! みんなでデザートに食べましょう! さて、夕食ももう少しでできるわ。今日はゆっくりしていってね、ルーナさん」
「はい、ありがとうございます!」
なんとか、私のご近所付き合いデビューはうまくいったみたいね。よかったわ。
※
「たくさん、作ったから、いっぱい食べてね」
お母さんは、そう言って笑った。
「うわ~ごちそうだ! ね、お兄ちゃん!!」
「うん、すごいな!」
子供たちふたりもとても喜んでいた。
チーズがかかったパスタとトマトのスープ、そして、焼いたベーコンとピクルスの4品。
庶民にとって、肉は貴重品で、私のためにわざわざ用意してくれたんだ……
その事実がとても嬉しかった。
「とても美味しいです。野菜がとっても甘くて!」
「でしょ~みんなで作った野菜だからね」
「そういえば、お父様はどこに?」
「ああ、パパは、出稼ぎに王都に行っているんだよ。だから、帰ってくるのは、2カ月後くらいかな?」
マリアさんはそう言って、少しだけ寂しそうに笑う。
「出稼ぎですか?」
「そうよ! やっぱり、王都の方が稼ぎがいいからね。畑が忙しくないときは、そっちで働いているのよ」
「大変ですね……」
「ええ、もちろん寂しいわ。やっぱり、家族みんなで生活した方がいいもの。でもね、家族のために、パパが頑張ってくれるのも嬉しいのよ? ね、ふたりとも?」
「「うん!!」」
ふたりは元気に笑った。
そうか、それが普通なのね。私が貴族として、生活できていたのも、こういう風に働いてくれる人がたくさんいたからなのよね。
何も知らない自分が少しだけ恥ずかしくなった。たぶん、あんなことがなければ、ずっと知らないまま生きていたのよね……
「ベーコン美味しい!!」
「あら、よかったわ」
子供たちと一緒に食べる食事は、みんな自然に笑顔になって、私を幸せな気分にしてくれる。
噴火の時から張りつめていた私の心を、みんなが癒してくれたわ。
※
「今日はありがとうね、ルーナさん」
子供たちふたりを寝かしつけたお母さんは、私が待っていたリビングに戻ってきて笑う。
「いえ、こちらこそ、ごちそうになってばかりで……」
「いいのよ、気にしないで! 子供たちがあんなに楽しそうに笑っていたんだからね」
「やっぱり、お父さんが出稼ぎに行っていて、寂しいですよね?」
「そうね。でも、あなたほどじゃないわ」
「えっ?」
「ごめんなさい。村長さんから聞いているのよ。あなたが、伯爵領で起きた火山の噴火で、ご家族をみんな失ってしまったって」
「そう、でしたか」
自分からどう伝えればいいのかわからなかったから、たぶん村長さんが気を利かせてくれたのね。
「無理をしなくていいのよ。あなたは農業なんてやったことないでしょう? だから、わからないことがあったり、困ったことがあったら、私たちに頼っていいのよ?」
その言葉を聞いた瞬間、私の視界はにじんでいく。
「あ、りがとう、ござ、います」
「うん。困ったときはお互い様よ。それにルーナさんは、本当にいい子よ。きっと、ご両親が素晴らしかったのね。あなたには、人を引き付ける魅力があるわ。だから、娘もすぐに懐いたのよ。ずっと、我慢していたんでしょう? 無理はしないで。つらい時は、泣いたっていいんだから……」
どうして、私は、今日あったばかりの人にこんなに心を許しているんだろう。
本当に、慰めて欲しかった人には、裏切られた。すべてを奪われたのに……
自分に不利なことになるかもしれないのに、体を張ってまで私を守ってくれたアレン様……
私のことを温かく受け入れてくれた村長さん。
農業を教えてくれる先生でもあるルイ。
そして、こんな私を包みこんでくれるお母さん。
私は、そんな優しい世界に、甘えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます