第6話 初めてのお友達

「えっと、あなたは?」

 10歳にならないくらいの元気な女の子が後ろにいたわ。


「私は、ルイ!! お姉ちゃんが、近くのおばあちゃんの家に引っ越してきた女の人だよね?」


「ええ、そうよ。もしかして、あなたがご近所に住んでいる女の子?」


「そうだよ。私は、お父さんとお母さんとお兄ちゃんと一緒に住んでいるんだ!!」


「よかった。今、挨拶あいさつに行こうと思っていたのよ」


「そっかぁ。でも、お姉ちゃん。もしかして、畑とかいじったことないひとかな?」


「そうなのよ。私は元々商人の家でね。この前起きた火山の噴火から、逃げてここに住むことになったんだけど……畑をいじるのって、どうやるのかわからないの」


「やっぱりそうだぁ。なら、ルイが教えてあげるよ!! 何を育てるの~って、イモだよね」


「うん、そうよ。もしよければ、教えてくれる? イモを育てられないと、私、すごく困るの」


「いいよ。イモなんて、4歳の時から育てているからね。私は、先生になれるよ」


「お願いします、ルイ先生!!」


 うう、年齢が半分くらいの女の子に頭を下げるなんて、我ながら情けないわ。でも、そうしないと生きていけないからしかたない。


 まずは、生きることに集中よ!!


「じゃあ、まずは雑草や落ち葉を集めるところからはじめよう!」

 彼女は元気いっぱいに私にそう提案する。


 なんで、イモを育てるのに、雑草や落ち葉が必要なのかしら?

 農業って難しいわ。


 ※


「たくさん、集めたわね」


「お姉ちゃん、まだ最初になのに、疲れすぎだよー」


「仕方がないじゃない。やったことがないんだもん」


「変なのー! 草刈りもしたことないなんて~じゃあ、火を起こすよ~」


 そういって、ルイちゃんは、雑草の上に松ぼっくりをのっけて、火打石をカンカンと鳴らしている。


 こんな小さな女の子に火を使わせて大丈夫なのかしら?

 私はそう心配しながら彼女を見ていたわ。


 もちろん、彼女は慣れていた。私よりもはるかにうまく、火を作り出していた。


「これで大丈夫だね! やっぱり、松ぼっくりはよく燃えるね! そうだ、おうちからイモを持ってくるよ。お姉ちゃんと焼き芋しようよ~」


「ええ、それは嬉しいんだけど、私は芋を植えたいんだよ?」


「わかってる、わかってる。準備にはまだまだ時間がかかるからね。それまでのひまつぶしだよ~」


 そう言って、彼女は走って家まで帰っていく。私はもう一歩も動けないほど疲れているのに、元気すぎるでしょう!?


 もう、田舎怖い!!


 ※


「美味しいね~」


「うん。悔しいけど、すごくおいしいわ」


「なんで悔しいのよ~変なお姉ちゃんだね~」


 彼女は、家から石とイモが詰まった鍋を持ってきてくれたわ。

 それをたき火で温めて、1時間で美味しい焼きいもが出来上がった。


 私がたき火の中に、直接イモを入れようとしたら、「それじゃあ、せっかくのイモが灰になっちゃうよ~」とルイちゃんに笑われた。


 私、何も知らないのよね。本当に……


 でも、この焼き芋は本当に甘くておいしい。

 村に来てから、シンプルな味付けなのに、美味しいものばかり食べているわ。


 やっぱり、産地で取れたものをすぐに食べるのが一番なのよね。はっきりそれがわかったわ。


「じゃあ、お腹もいっぱいになったし、そろそろ種芋の準備をしようか、お姉ちゃん?」


「はい、先生! 教えてください」


「じゃあ、このまな板と包丁でイモを切ってね!」


「えっ、イモってそのまま埋めちゃダメだの?」


「そうだよ~種芋は切って植えるんだよ~じょうしき、じょうしき~」


「ぐぬぬ」


 私たちは、イモを切っていく。イモを切り終わったら、ちょうどたき火が燃え尽きて、灰になっていたわ。


「ちょうど、いい感じに用意できたね! じゃあ、この灰が冷めたら、切ったイモにつけてね!」


「えっ!? 灰をつけるの? どうして?」


「そうしないと、イモが腐っちゃうんだ~灰がイモを腐りにくくしてくれるの!!」


 私が学校で習ったこともない知識を次々と披露してくれるルイちゃん。

 私にとってはもう、魔法使いも同然よ!


 すごいわ。まだ、10歳くらいなのに、農業のことなら何でも知っているのかもしれない。百聞ひゃくぶん一見いっけんかずって言うけど、やっぱり実際にそうなんだわ。


 知識と経験が一致しているって、こんなにすごいのね。


「先生、一生ついていきます!!」


「もう、お姉ちゃんはおもしろいな~! じゃあ、ふたりで頑張って、植えちゃおうよ~」


「はい、ルイ先生!!」


 こうして、私はこの村に来てから初めての先生ができたのよ。

 年下の先生だけどね!


「ねぇ、そういえばお姉ちゃんの名前、まだ聞いていなかったよね?」


「そうね。私はルーナ。ルーナ=グレイシアよ」


「ルーナさんっていうんだ! 素敵な名前だね」


「ありがとう。あなたは、天性の女たらしね、きっと……」

 先生は女の子だけど……


「何を言ってるのぉ~ でも、ルーナお姉さん!! 私と友達になってよ!」


「えっ?」


「だ・か・ら、友達になってよ。ご近所さんだから、いいでしょう。友達になってくれたら畑のこととか手伝ってあげるから~」


「いいの!!」


「うん! だから、これから一緒に遊んでね!」


「よろしくね、ルイ!」


「うん、ルーナお姉ちゃん!」


 こうして、私にとっての、新しい人生が始まったの。

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