第4話 ゆがんだ王子
「殿下。ご命令通りに、ルーナ様を抹殺してきました」
俺は
「ご苦労。馬車は確かに爆発したんだな」
「はい。幽閉予定の塔の近くで、魔力爆発が起きました。強力な爆発でしたので、一瞬にしてすべてが粉々です。証拠も何も残りません」
「さすがは、アレンだ。よくやってくれた」
「もったいなきお言葉」
「しかし、ここから忙しくなるぞ。まずは、伯爵家に替わる新しい後ろ盾が必要だ。金持ちを
「
私は、気が重くなる命令を受けた。
王位継承権を争う王子たちの骨肉の争い。幼少期から、その陰謀の世界に身を置いていた殿下は、ゆがんで育ってしまった。
金と権威しか信じない人間。それが我が主だ。
「殿下、ひとつだけよろしいですか」
「なんだ。俺は忙しいんだ。手短に頼むぞ」
「ルーナ様に、愛情はなかったんですか?」
4歳の時から16年間も婚約者だった女性だ。
「アレン? お前は、使ったらなくなるコインに愛情を抱けるのか?」
「……」
私は絶句してしまう。もう、この人は人間じゃない。魔物か悪魔だ。
天才的な政治力と調整力。人を惑わすほどの
今回の火山噴火の失政も、亡くなった伯爵一家にすべてを背負わせて、自分の身を守ることに成功している。対外的には、自分の身内でもミスがあれば断固対応するヒーローのように自分を見せているんだ。
だからこそ、国民の人気も高い。
「次回の元老院までに、今回の災害の報告書が必要になる。穴を作るなよ。下手なものを作れば、俺の首が飛ぶからな」
「わかりました」
将来的には、王国ナンバー2の宰相になって、そのまま国王になろうとしている野心。
そして、長く自分に尽くしてくれた恩人ですら、簡単に切り捨てる冷徹さ。
まさに、
「新聞にはこちらからリークしろ。伯爵家当主で婚約者のルーナを、王子は正義のために泣く泣く処罰した。ルーナは、王子の将来を考えて、自ら命を絶って、俺に
自分がどうすれば、支持されるのかもよくわかっている。
「俺は国家のために長年の婚約者を処罰して、自殺に追い込んだことを後悔していることも付け加えろよ。そうすれば、新しい婚約者が見つかりやすくなるし、同情票も集まりやすくなる。叔父上もいつまで宰相をやるつもりだ。いい加減老害は引っ込んでいろ」
彼は頭の回転がものすごく早い。
どんな状況でも利用して、自分の追い風にしてしまう。
「できる限り派閥は増やすぞ。いつかは、叔父上の派閥も乗っ取ってやる。つじつまを合わせるために、俺はしばらく
「御意」
婚約者を暗殺して、一切の感慨や罪悪感を感じていない。
そもそも、王子様がここまで
イブール王国の王室は完全に実力主義だ。
幼少期から兄弟たちと激しい競争を繰り広げる。生まれた順で、王位継承権は決まるが、あくまでも
だからこそ、各王子とその取り巻きは、激しい政治抗争を繰り広げていく。
15歳になれば、王子たちは貴族の枠で、元老院議員となり、さらに成果を求められるんだ。王族たちは、王党派を母体とする保守党に入り、政治を実地で学んでいく。
そして、その元老院でも最も活躍したものが次期国王になる。
国王になるための最短ルートが、元老院内の選挙で選ばれる国家のナンバー2宰相就任だ。
宰相は、国王を除く王族を上回るほどの権力を持つ。
自分が気に入られない施策は、決裁を拒否することで、問答無用で廃案に追い込むことができるからだ。
また、王族以外でも選挙に選ばれれば、就任することが可能な最高位の役職でもある。理論上は、たたき上げの平民でも、選挙に選ばれれば、宰相になれるのだ。
実情は、王族と論功行賞的な意味合いで大貴族の当主しか就任したことはないんだけどな。
現宰相は、現国王陛下の弟君であるクワトロ=イブール大公が務めている。
国王陛下と弟君は例外的に兄弟仲が良く、仲良く地位を分け合った。
そうであれば、こんな骨肉の争いで、王子様たちの性格がゆがむこともないのにな。
「それでは、殿下。私はこれで失礼します」
「ああ」
この人に彼女が生きていることは絶対に発覚してはいけない。
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