第2話
最終妨害ラインを突破されたのは、アーリたちが第二線に転がり込んだとほぼ同時であった。
苛烈な砲撃と射撃を加えるが、巧みな連携によって効果的なダメージを与えているとは思えなかった。
「配属された頃よりも戦い方が慣れてきたな、ひよっこ共。」
「ちゃかさないでくださいよ!」
「なんで軍曹殿は余裕なんですか…」
軍曹 ディルソンは幾度も最前線に駆り出された経験があり、彼が指揮した部隊は軍の中でも特に生還率が高いことで 有名だった。
「俺の初任地はここよりもひどかった。あそこに比べれば、ここはまだ生き残りやすいぞ、油断すれば死ぬが。」
そう言うとすぐに周りを警戒する。
上官が彼でなければ何度死んでいたことか、アーリは心からそう思う。
「後退できたのはいいですが、このままでは危ないのでは?」
「あぁ、だが奴らはすでに勢いっいてしまっている。一気に半分ぐらい殲滅しないと彼奴等は止まらないだろうな。」
「軍曹、先程言っていた焼き払う…とは?」
「先程、司令部から魔女が動いたと連絡があった。文字通り、戦場を焼き払う…とな。」
「魔女ですか?」
「俺も一回しか見たことがないかすごいぞ、魔女の力だ。」
魔女
それは人知を超えた力を持つ存在として代々、人類の守護者として語り継がれてきた。人間が産業革命を起こす前は多く魔女は生活していたが、科学技術の発展やそれに伴う科学による魔法の解明が進むにつれ、次第に魔女は少なくなっていった。
力を直接見るのは初めてで、魔女そのものを見るのも初めてであった。
「どんなおっかないやつが来るんだろうな。」
「さぁな……っと、魔女様が魔法を使うようだぞ、頭をふせておけ!」
「なんだ……あれは!」
上空に大きな魔法陣のような、光る輪っかが浮かんでいた。
ホログラムのように映し出されるソレは、やがて激しく光り、うねり、たわみながら円中央部から一筋の光線が放たれる。
今まさに敵が雪崩うって侵入してくるところへ光線が降り注ぐと、ガソリンをぶちまけたかのような炎が広がった。
あまりの勢いにその熱波はアーリたちの頬を焼いた。
「うおおおおお…!これが魔法!?」
「………確かにこれはすごい…」
「総員弾を込め!現在放たれている炎が収まり次第、第二線より追撃に入る!ここでヘマして死んだやつは俺が直々にもう一度殺してやるから、気張れよ!!」
「お見事です、さすがは1000年に一人の逸材…ですね。」
「当たり前よ、私は『緋色の一族』セドナ・ヴィクトーリアなんだから。」
戦場を直接見渡せるよう、護衛に囲まれながら前線へ出向いていた。
セドナは、今回の戦場に引っ張らされたのは貧乏くじであると考えていた。
天才である彼女は、周りの魔女たちが最前線へ赴く中一人で待ちぼうけを食らっていた。
ようやく実戦と思いきや、前任の魔女が戦えなくなったということで、それも他の戦場と比べ遥かに安全な場所へ配属されたことを強く不満に思っていた。
しかし、ようやく自身の力を見せつける時が来たのだ。
正直、目の前の戦場なぞその踏み台でしかない。派手に火を巻き上げれば、人間なぞ恐れ慄きすぐに逃げていくだろう、と。
「セドナ様、なぜ直接魔法を撃ち込まないのですか?これでは当初の作戦とは大きく違いますが。」
「ふん、わざわざ殺す必要はないわよ。それより、あんな感じで目の前に火柱を立ててやったほうが効果的じゃなくて?」
物体へ火をつけることなぞたやすく、それよりも誰一人怪我をしないように火をは操るのはセドナしかできない芸当であった。
高度な魔法技術は同年代の魔女たちと比べやはり隔絶していた。
「……!セドナ様、伏せて!」
「え、きゃぁぁぁ!!」
まるで狙いすましたかのような砲撃が周囲を覆った。
幸い、爆発は大きくそれていたため被害はなかったが、大きく動揺させるには十分であった。
「どうして!?」
「セドナ様、敵は炎を抜けて攻めてきています。もう一度魔法の準備を!」
「な、なんで……怖くないの!?」
いくら天才と呼ばれる少女には想像もつかなかった。
人間は死を間近にすると感覚が麻痺し、たとえ火の中であろうと勢いづいた兵士たちは恐れずに飛び込んでいくことを。
ヘクセンクリーク @LO_RO_HAN_
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