ヘクセンクリーク
@LO_RO_HAN_
第1話
戦争とは、本やテレビの中でしか見たことがなかった。
いとも簡単に人は死に、殺すことができるのだと。
これがアーリが抱いた最初の感想だった。
彼が軍へ入隊し正式配属が決まったときに隣国から宣戦布告を受けた。厳しい訓練のあとに休暇を与えられる。新人たちはそう考えていたので突然の前線配備にかなりショックを受けたことだろう。彼もその一人だった。
最初は単なる挑発で戦争になることはない。魔法技術を疎ましく思っているかの国はいつもどおり、緊張感だけ高めて帰るだけだ。
どこかの誰かが最初に言い出したか、まだ私達は楽観していたのだ。
戦争の足音はいつも静かだというのに…
数カ月後
前線左翼・山岳地域
『数ヶ月前に始まった戦争は今なお膠着状態で止まっており、国民の中には…』
「またそのニュースか、最近は反戦的な報道ばかりだな。」
「そう言うな。まだ国民に戦争の手が迫ってないんだ、仕方ないよ。」
戦争当初こそは祖国戦争だの盛り上がっていた世論は、進展がない戦争にいつの間にか静かになっていた。今の関心といえば、はやりのファッションだの、スイーツだの、そういうものばかりだ。
「とはいってもよ、中央部では塹壕戦に発展してください毎日人が死んでるようだぜ?」
「そういう面ではこの山岳要塞に配備されたのは幸運だったかもな、なぁアレン。」
「とは言っても、塹壕近くのトーチカだがな。」
先程から軽口を叩くアレンは、同期でありそして能力者だ。
生粋の人間でありながら魔法を使う者達……確率的には1000/1という決して低くはない割合で誕生している。
この国では隣の席のやつが能力者なんてことはそんなに珍しくはない。
アーリは、能力を持たない普通の青年であった。
「後30分で交代だ。機関銃の手入れは終わってるか?」
「しまった、忘れてた。…まぁ、敵は来ないしいっか。」
「隊長が来たらまたどやされちまう、『まともに整備すらできないのかっ!』ってな。」
「ははは!それはやばいな。」
どうせ敵は来やしないさ…
来たとしてもこの要塞を抜くことはできない。
そう慢心していた。だが、戦争というのは慢心したものから先に死んでいく。例外は無い。
突如要塞内に警報が鳴り響いた。
『敵機接近、高射部隊は至急配置につけ。戦闘要員は速やかに戦闘配置…』
「ちっ、噂すれば…ってやつか。」
「うわっ!…何だ一体!」
要塞全体を強く揺らされた。
何度か航空機による空襲は何度かあったのだが今回はあまりにも警報が発令されてからの攻撃が早い。
ここでようやくいつもと違うことに気がついた。
「これは準備砲撃か!」
「あいつら、ここを落とす気か…!?」
断続的に続く振動で砲撃されていることが確信に変わった。二人は外を除くと、砲弾の軌跡と、そして大量の航空機が迫っているのを確認した。
「戦闘配置!敵はここを落とす気だぞ!」
「隊長、とうとうここが…!?」
「アーリ、アレンはここの機関銃陣地を担当しろ。俺は、他の奴らと塹壕で応戦する。」
なんてついてないんだ!
悪態をつく。
しかし状況良くならない。
指示されたとおり、機関銃に弾が装填されていることを確認し、外へ狙いを定める。
その間にも砲撃が要塞全体を揺らしていたが、幸いにも自分たちのいる場所には当たらなかったことが唯一の救いだろう。
先程よりも更に強く振動が響いた。
おそらく、敵の空爆が始まったのだろう。
味方の攻撃音は今も続いている。
「味方の戦闘機はまだ来ないのか?」
「それよりも聞こえるか?………どうやらお出ましのようだぜ?」
いまだ燻る煙の中から、雄叫びを上げて軍国の兵士たちが突撃してきた。
「総員、撃ち方始め!」
号令と共に敵兵が、弾丸の雨に降られる。
前面にいたものは皆悲鳴をあげる暇なく撃ち倒された。
残りのものは地に伏せるか、後ろから続いたと思われる装甲車が盾となるべく割って入る。
「アレン、装甲車!」
「わかってる、後ろに立つなよ!」
装甲車の姿が見えると、アレンはロケットランチャーを構え放つ。
弾頭は逸れ付近の敵兵を巻き込んで爆発したが、別の砲弾が直撃した。
「今回は、これぐらいで引いてはくれないかな?」
「わからん、前方にロケット兵!」
「しまっ…!」
装甲車に意識を持ってかれていたアーリは、ロケットランチャーを構えた兵士に気が付かず、彼らのいるトーチカには撃ち込まれる。
「アレン、頼む!」
「【能力開放:シールド展開】!」
激しい爆発と振動が二人を襲う。
だが怪我の一つもおっていない。
薄く二人をまとっている"ソレ"はかすかに波打っていた。
「…助かったぜ。」
「ったく、俺がこの能力持ちじゃなけりゃ何回死んでたことか…」
アレンの能力は物理攻撃の無効化、つまりはシールドを彼を中心とした範囲で張ることができる力だ。
開戦、以来幾度となくこの力で二人は生き残ってきた。
「あ、機関銃が壊れた!」
「おっと、一緒に守るのを忘れてた。」
先程の敵兵を片付けると予備の機関銃をセットする。
しかし、徐々に押されているのか味方が後ろに下がるのが見える。
「右方向に歩兵!」
「さっきの爆発で弾がだいぶイカれちまった。弾の補給を要請しないと…」
『本部より前線部隊へ、現時点を持って第一線を放棄、第二線へ後退せよ』
突如の後退命令に動揺がはしる。
敵がそこまで侵攻しているのか?
味方はどうなった…?
様々な疑問が頭によぎるが、先に行動したのはアレンだった。
「味方を援護だ、すぐに下がるぞ!」
「あ、あぁ」
外に出ると、既に大部分は撤退したようで既に人の姿はない。
「アーリ、アレン!何をしている!」
「隊長殿!」
「もうすぐ焼き払われるぞ、急いで下がれ!」
「焼き払われる?それは一体…」
「死にたくなければついてこい!」
「最終妨害ライン突破されます。」
「第一線の兵士の後退を確認。」
「さて…そろそろかな。」
要塞司令はそうつぶやく。
今回の敵侵攻は予想外といえばそうではなかった。おおよそのタイミングと数は予測していたが、想定よりも早く突破された。
「ふん!やっぱり私がいなければやっぱりだめね。」
「あと3分後に…」
「そんな時間はないわ、今やる。」
困ったものだ…
眉をひそめる。
いかにもおてんぱ娘というのが似合う少女の子守をするための場所ではないのにと、おそらく皆思っているだろう。
今回の状況を打破する秘策が、彼女とは…
「では、任せてもよいかな?」
「当たり前よ、あなた達はここで見ていなさいな!」
鼻を鳴らし、部屋を出ていく。
もしかしたら自分の孫ぐらいの年齢だろうか。
複雑な思いをいだきながら背中を見送る。
「とはいえ見せてもらうかの…本物の魔女の力を。」
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