第4話

「う~ん...暇だぁ....」


テーブルの上で、土魔法の初級魔法、岩弾ロックバレットの元となる弾を大量に作りながらも嘆く。




結果を言えば、家庭教師を雇う金は問題はないが、その家庭教師がいないということだ。


当然といえば当然なのかもしれない。




こんなド田舎のところに、運良く家庭教師なんかいる訳がない。


俺が生まれてきた家は、貴族っちゃ貴族だけど下流貴族の分類にあたる。


それがヴァインハット家。




母さんがエルフで、父さんが人間族だから...


俺はハーフエルフになるのか?...


魔力総量が爆上がりしてるのも、種族のおかげなのかもしれない。




「ちょっと飽きてきたなぁ...」


もう、午前の剣術指南は終わったため、午前は魔法の研究なのだが...




その研究が行き詰ってるから、家庭教師が必要なんだよなぁ...


あと、初級魔法は地味なものが多いため、大変飽きるのが早い。




そろそろ中級魔法を使っても良い時期かもしれない。


かといって、家の中でぶっ放すわけにもいかないわけだから...


「外出か....」




出来れば、外には出たくない。


なにせ、外で八つ裂きにされて殺されたんだ、少しぐらいのトラウマにはなりうるだろう。




でも、やってみなくちゃ変わらない。


家の庭でやるのもいいかもしれないが、間違えて近くの建物を破壊でもしてしまったら、怒られるだけでは済まないだろう。


意を決して、自分の部屋から母さんの部屋に行く。


----


「え?それなら全然いいわよ?」


笑顔で返事をする母さん。




「え!?本当ですか!ありがとうございます!」


やっぱいい母親やなぁ...




「あ、でもちゃんと行先は言うこと、分かった?」


「は~い、じゃあ近くの森に行ってきま~す」




よっしゃぁ!楽しみだなぁ...中級魔法!


そそくさと部屋から退散し、必要な物をバックに入れて。




「よし!いざ出陣!」


頑固たる意志で、家から出る。


目的地はサンロイド森林!モンスターがいない特殊な森林だそうだ。




えっと~....東だったよな?...


俺は左手に疾風ガルを発動させ、東に向かって高速移動。




「ふぅ~気持ちい~」


全身に冷たい風が当たる。




黒服に八つ裂きにされた記憶が蘇ると思って、外出は拒否していたが、


「嫌なこともやってみるもんだな!」


実際のところは。こんなにも楽しい。




「よし!もっと早くしてみるか!」


左手にさらに濃密かつ大量の魔力を籠める。




すると、さっきとは比にならないほど風が吹く。


「うぉっと!?あっぶねぇ!だが楽しい!」






あとから聞いた話だが、周辺で、


「少し気持ち悪い奇声が聞こえたんですけど?..」


との苦情があったらしい。




....知らんな!


----


「ねぇあなた...アルってば大丈夫かしら?....」


長い耳をいじりながら、窓から外を見る。




「んあ?なんかあったのか?」


椅子に背中を預け、後ろに首を向ける。




「あの子ったら急に森に行ってくるって言ってたんだけど..」


「うん...それがどうした?」




ハァ..とため息をつき、


「西のジロンド森林に行く訳じゃないわよね?..」




リ二アスの顔が、突如として暗くなる。


「確か~....魔物がお盛んな森林だったよな?...」




       「「まずい!!」」




あいつは、7歳児の物とは思えないレベルの知識量があるが...


方向音痴ってことを忘れてしまっていた...




「いや...まぁ大丈夫なんじゃない?...魔法も使えるし..」


頭を掻きながらも、苦笑いを向けるリ二アス。




「ちょっとあなた!?何言ってるのよ!?大事な息子なのよ!?」


怒気を含んだ声で、リ二アスを責める。




「いや、そのだな...何事も過保護はよくないって聞くぞ?...」


しばしの間、この空間に沈黙が訪れる。




ウリムは、全身から力が抜け、近くにあったベットに座り込む。


「分かったわよ...行かせたのは私だし...」




さらに深いため息をつく。


「まぁまぁ、心配しすぎるのも良くないし..あと念のため言っておくけど..」




リ二アスは暗い表情になり。


「あいつ..魔法と剣術の級は初級のくせに、俺と対等に戦ってるんだよ」




「えっと~、それって本当?初級と上級って結構差があるはずだけど?」


首を傾げ、考え込む。




「いや、技術は初級のはずなんだけど、身体能力と魔力総量が多すぎるんだよ」


「う~ん...まさか先祖返りとか!」


にやにやと笑顔で答える。




「いやいや!ありえないだろ!いや..でも可能性はゼロじゃない..のか?..」


「先祖返りって...人間の方かな?それともエルフの方かな?ちょっと楽しみかも!」


----


「よっこらせっと」


長時間高速移動してしまったせいか、腰がちょっと疲れてしまった。




かかった時間は、ざっと10分程度だろうか?


徒歩では、約2時間程度だったはずだが...




魔力総量が上がってきているのは確かなんだが..量が増えるならまだしも、濃密になってきているのが現状...う~んあって困るもんじゃないし..


「まぁ...気にするな!」




ここがサンロイド森林!


思ってたより薄暗いけど。




うんうん!


森特有の生臭い血の匂い!




生臭い..血の..匂い?...


あろ?まさか、方向ミスった?




そんなわけがない!ちゃんと地図も頭の中に入れてあるし!


「よ~し、早速始めますか~」




バックの中に入れておいた魔導書を取り出す。


「えっと~、確かここらへんだったよな?」




ぺらぺらと紙をめくっていく、


「あった!」




森林内で火魔法を打つと、山火事になりかねないので、今回は土魔法の、大地操作アースオペレーションを使おうと思っているのだが...




中級魔法のくせに大地操作なんて言っている魔法だ...


少々威力が強かったなんてことがあるかもしれないため、籠める魔力は最小限にしなければ..




周囲に誰もいないことを確認し、地面に手を付け、魔導書に書かれている詠唱を行う。


「我は6つの契約の内、土の加護を司る者、我らに汝らの権限を執行させたもう、大地操作アースオペレーション」




イメージは地面から飛び出てくる奴!


ポ〇〇ンでいうストー〇エッジみたいな奴!




全身に流れるなにかが手に向かって一直線に集まる。


初級魔法とは圧倒的に量が違うのははっきりと分かった。




その瞬間に、地面が歪む。


そして、ものすごい勢いで地面が上に上がる。




「おぉ...これはなかなか、いいじゃないかぁ!」


あの魔力量でこんなに強そうな魔法が使えるのか..魔力はそこまで消費はしていないな。


ん~..でもこの世界ではこれが普通の威力なのだろうか?


だとしたら、この世界のトップクラスの実力者は、かなりインフレしているのだろうか?




「そんな事考えてても仕方ないかぁ」


そもそも桁違いの強さを持ってる人がいると限った話じゃない...よな?..




うんうん!この話はやめておこう。


夢がなくなる。




はぁ..また移動はあの高速移動ですか..


腰持つかなぁ..




そして、疾風ガルを使おうとしたとたんに、後ろから物音がする。


「ん?なんだ?」




後ろの草むらが大きく揺れている。


「えっと~どちら様~?」




そこから姿を現したのは、


「Wow!Unbelievable!」




なんと!そこには巨大なイノシシがいました~


「ぐるるる!」




しかも、とってもキュートな顔をしてますね!


とっても...ねぇ..




口から出ている大きな牙が、俺に向けられている。


う~ん...イノシシというより、小型のマンモスみたいな感じかな?




いや、でかいんだけども。


「さて、どうしましょう!」




自分の身を案じて逃げるか、


それとも戦うか。




答えは、もう決まっている。


「逃ぃげるんだよぉ~おっさ~きに~」




疾風ガルを使って後ろに向かって全力疾走。


自分の実力が、この世界ではどれほどの物かを把握していないのに、理性の無い生物に喧嘩を買うなどという行為は、まさに 愚の骨頂!




でも、自分の実力も知っておきたいしなぁ...


脳内で、この二つの意見で葛藤する。




だが、もちろん獰猛小型マンモス君は、俺が迷っている最中にも、容赦なく突進しているんですよね~。




前世のイノシシは、時速45㎞のスピードで動くと聞いている。


ウサ〇ン君も顔負けの速さだね★




安全にあいつから逃れる方法...


う~んこれしかないな...




魔法を使用していない、もう片方の手で地面に向かって、手を向ける。


無詠唱で、先ほどお使いした大地操作アースオペレーションを、少し遅らせるイメージで発動させる。




地面に接触していないが、大丈夫だろうか?


そして、硬いものが当たり合ったときの、独特の鈍い音が周囲に響く。




「おっとっと?」


魔法を停止させて、後ろを見やる。




そこには、歪んだ形をした地面に貫かれた、大きな動物がいましたとさ...


南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏....




前世では、動物をこのように殺してしまうなんてことはなかったためか、すこし動揺してしまう。


停止していた、魔法を再起動させ、我が家に一直線に移動していく。




「う~ん...魔物っていうのかな?それともモンスター?」


そんなことはどうでもいっか。


----


「ふぅ~...到着っと..」


身だしなみを整え、家に入る。




「ただいま~」


時刻は、少し日が落ちてきたぐらいだろうか。




そうすると、上から物音を立てながら誰かが来る。


「アル!」




来たのは、ウリムだった。


「心配したのよ?はぁ..はぁ..」




少し息が乱れているようだ。


う~ん、心配されるようなことをしただろうか?


心当たりは一切ない。




「なんで心配なんてしたんですか?」


俺は首を傾げ、まるで頭の上に疑問符を浮かべたかのような表情をする。




「なんでって..森に行ってくるって言ったでしょ?もしかしたらジロイド森林に行っちゃったのかと思って!」




「ジロイド森林?それって西でしたよね?僕は東のサンロイド森林に行きましたけど」


これでも地形は暗記している、間違えるわけがない。




「じゃあ~、ちょっと質問するから、素直に答えてね」


質問?




「まず、森は薄暗かった?」


「はい」




母さんの顔が曇る。


「血の匂いはした?」


「はい」




「え、えっと~、怖い動物はいた?」


「はい」


「それもう完全にジロンド森林じゃない....」


----


そのあとは、いろいろ怒られたが、母さんにも非があるということで、軽いものですんだ。


そして、ちゃんとしたサンロイド森林への道を教えてもらい、午後の魔法の研究や練習はサンロイド森林でやることが日課となった。




「今日は、いろいろチャレンジしてみるか」


今までは、一つ一つの魔法を別々に発動させていたが、今日は2つの魔法を混合させる。




今回は、単純に火魔法と水魔法を合わせて、大量の水蒸気を発生させる。


攻撃手段としては使えないだろうが、目くらましとしては使えるだろう。




中級魔法の、火炎爆弾フレイムボムと水槍ウォータースピアを別々に発動させ、火と水が発生させた後にぶつける。




おそらく、かなりの爆風が起こるから...


あ、威力あるやん。




そして、魔法を投擲する方法は今のところ3個ある。


魔力の糸をつかう…手と魔法の間にある糸を操り投擲。


腕を振りかぶる…そのまんま


形状を作りながら投擲…腕を振る最中に魔法を発動させ投擲




3個目の、形状を作りながら投擲は、最近見つけたもので、例えば水槍ウォータースピアを腕を振っている最中に発動する。




そうすると、魔法の形状を作成してる最中には、すでに振りかぶっているため糸が切れて、飛んでいく。




この場合だと、魔力の糸を使うよりは遅いし、精度も少し落ちるが、その分威力が強くなる。


慣れればかなりの技になるとは考えている。




両手に、無詠唱で魔法を発動させる。


両手の場合だと、体内魔力を意図的に移動させるのは結構難しい。




何回籠める魔力量を間違えて、俺がぶっ飛んだり、水浸しになったりもした。


その失敗を乗り越えた結果今がある。




よ~し、タイミングを合わせて~


いっせの~で!




両手を振りかぶり、その最中に魔法を発動させる。


今回は、遠い位置で爆発をさせるために、この投擲方法にした。




だいたい10メートルほどのところで、魔法は合わさる。


バン!と、激しい音と同時に強烈な爆風が起こる。




生まれて8年しか経っていない体を、吹き飛ばすのには十分すぎる風圧。


体中に、今まで体験したことのない圧力がかかる。




このままでは、木にぶつかってケガをすると思った俺は、後ろに向かって疾風ガルを発動させる。


「ッ!」




豪快に木に衝突してしまった。


どうやら魔法を発動させるタイミングが遅かったようだ。




物理学って苦手なんだよな~。


俺が所属していた学科は機械科だったため、物理の計算などは全く分からん。


そもそも、この世界は前世の世界の物理学が通用するのかも謎だ。




まぁ、こんなことを考えるのもあれか。


う~ん...ジンジンする...




頭に向かって、回復ヒールを発動させる。


「ふぅ~..ちょいとミスったな..」




これからは、細心の注意をしていなければ死んでしまうな、これ。


魔法の研究で死ぬなんてものはまっぴらごめんだ。


う~ん...どうしよ、今日のやりたいことは終わったけど、時間はまだまだある。




とりあえず、立つか..


そうして、俺は木によしかかっている体勢から立ち上がろうとすると。




「だ..だいじょうぶ?...」


と、少しおどおどとした態度で、目の前の子は俺に向けて手を伸ばす。




フードを深くかぶって、顔がよく見えない。


そのため、性別が判断できない。




俺は、その子が差し伸べている手を握る。


「ん...」




その子は、手を引き、俺のことを立たせる。


その反動で、フードが上がる。




その中から出てきた顔は、


「Wow..」


とても整っている顔をしていますねぇ..




赤い髪の毛のツインテール。


俺と同じように長い耳。




多分、俺と同じエルフだろう。


その子は、首を傾げて、


「わお?」




「あ、いやいやなんでもないよ...それより君は?」


そうすると、その子は、


「..す...」




もごもごして、聞こえないと思った俺は、その子の顔に耳を近づける。


「ふぇ!?」




顔を、俺から遠ざける。


「えっと~、俺なんかした?」




そうすると、その子は首を横に激しく振り。


「ち、ちがう..ちょっとびっくりしただけ..」




それにしては、やけに顔が赤いな。


「で?名前は?」




「フィーラン...その...君の名前は?」


「僕は、アルミドラ、その~君はなんでここに?」




「だって、いつもすごい勢いで森に行って、追いかけたらあんなにも楽しそうなことやってるから...気になって...」




ほほぉ...ん?待てよ。


俺についてきた?あのスピードに?




「どうやってついてきたの?」


「そ..それはその...アルミドラ君が使ってたやつを使って来たけど..」




何?この子は、さっきの発言だと、まるで魔法を詳しく知らないと思っていたが...


「それって、詠唱とか使ったの?」




そうすると、フィーランはキョトンとした顔で、


「えい..しょうって何?」




お?ほ?ん?ぬ?


この子は一体何を言っているんだ?


「詠唱ってゆうのはね....」


----


この後、ものすごいくらい魔法について話をしたが、


彼女は、魔力の流れが見えるらしい。




それで、俺の体内で流れている魔力の流れ、質、量などをパクって、疾風ガルを使ったらしい。


....なんか強すぎない?その能力...




俺も欲しいなぁ...強い能力...


そのあと、なんやかんやでフィーランとは友達になった。


ぐへへ....八ッ!俺は一体何を考えていた!?


そして、週3ぐらいのペースで、魔法を一緒に練習するようになった。


----


「ねぇねぇアル!さっきのやつやってよ!」


隣で俺が読んでいる魔導書を覗き込みながら、元気な声で提案する。




「えぇ...あれ結構きついんだよぉ?..」


さっきのやつとは、大地操作アースオペレーションの応用として、針の部分を圧縮しまくって、およそ1㎡程の範囲に30本程度の針を作成する応用魔法。




だが、この魔法はかなり集中するし、魔力も消費量が多い。


一応中級魔法の範囲内だが、威力では上級になるのかな?


上級魔法は、俺がチキって使っていない。




「お願いだよ!もう一回だけだから!」


上目遣いで、おねだりをする。




....やばい、吐血しそう(尊死)


「分かった、一回だけだよ?」




そうすると、パァっと顔を輝かせて、


「ホントに!ありがとう!」




...もうだめだぁ、おしまいだぁ...


「.....どうしたの?アル?」




「いやいや何でもないよ!?それじゃ、始めるよ!」


地面に手を付け、体内魔力の流れを意図的に移動させる。


一応、手を付けずに発動させることもできるが、精度が落ちるので手を付ける。




その瞬間に、俺から5m程離れたところに、大量の針が現れる。


「おぉ!やっぱりいつ見てもすごいね!」




キラキラした目で、俺を見る。


「消費魔力は化け物レベルだけどね」




あと100回ぐらいは発動できる魔力はあるが、集中することによる疲労はどうしよもできない。


はてはて、どうやって改善しようか...




いっそのこと、瞑想でもやってみようか?


う~ん...魔力を全身に纏いながら瞑想とかもいいかもしれない。




「あれ?そういえば気になったんだけど、フィーランはさっきの魔法は使えないの?」


フィーランは、魔力の流れを見ることができるため、消費魔力が魔力総量を越えなければパクることができるはず。




フィーランは、頬を指で搔きながら、


「そ、それがねぇ...どう真似しても魔力が足りないんだよね」




「なぬ?そんな消費魔力多いの?」


フィーランの魔力総量は俺には届かなくとも、結構多い。


なのに使えない?どゆこと?




「アルの場合は、その~なんていうんだろ、魔力がぎゅうぎゅうしてるんだよね」


「ぎゅうぎゅう?なんじゃそりゃ」




ん?待てよ?


それって、魔力の濃度のことか?




「そ、それでね!僕の場合はアルに比べてすっかすかなの!だから..その~あんな風に細かい魔法って難しいの!」




なるほど、そゆことか。


まぁ、ゴミが大量に入っている袋と、少ししか入っていない袋で殴られると、威力が全然違うって感じのことか。


説明にはなってない気がするけど、まぁいっか。(適当)

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社会不適合者の転生 ~二度目の人生でやり直す~ @oisii

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