第3話

毎日気絶するまで魔法を使っていると、一つだけ気づいたことがあった。


魔力総量が爆発的に増えているということであった。




この世界は、レベルという概念が存在しない。


だから、この世界では魔法を使えば使うほど増える...のか?..




この現象には正直に言ってしまえばまだ、信憑性に欠けるため、あくまで推測ではある。


だが、ファイヤボールを2回使えば気絶していたのに対して、今では30発程度まで使えるようになった。




剣術は、リ二アスのおかげですべての流派を初級を取得できた。


まぁ、練習が魔法と比べて、とてつもなく辛いのがあれだが..




まぁ、魔法と剣術が使えればかなり便利だろう、あることに越したことはない。


今のところ俺の魔法のランクは、召喚魔法以外はすべて初級という状態だ。




この家には、召喚魔法以外の詠唱が書いている本しかなったため、召喚魔法が取得できなかった。


こんな風に本しか読んでいないため、周囲からはさらに不思議そうに見られる。




不思議というより、不気味だろうか?


----


今日も午前は父さんの剣術指南、午後は魔法の研究、研究が終わり次第、限界まで魔法を使う。


いつのまにか、これが俺の日課になっていた。




朝は庭で剣術指南を受ける。


最初は素振り100回、走り込み20分、それらがすべて終われば、お父さんと模擬戦を行う。




素振り100回は結構キツイ。


一回でもやめてしまえば、最初からというペナルティもある。




腕がなくなるような感覚に陥る。


それでも俺は、木剣を振り続ける。




「97!98!99!100!」


途中でやめることなく素振りを続けることができた。




まぁ、これを毎日やれば、俺は筋肉ムキムキのイケメンになれるのだろうか....


ん?確か、若い頃に筋肉をつけすぎると、身長が伸びにくくなるって聞いたような...




まぁいっか、筋肉は必要だし。


「よし!よくやったぞ!アル!それじゃ、次は父さんと走り込みだ!」




走り込みは、その名のとうり、肺活量を強化するために、庭を走り回る。


一応、父さんと一緒に走るという形式でやってはいるのだが、俺は全然父さんに追いつけない。




しかも、休憩なしで20分間走るという鬼畜練習。


慣れれば何ともないと言っていたが、俺はいまだにこれが一番やりたくない。




「よ~い...ドン!」


父さんの合図と同時に、走り出す。




早速父さんとの距離が空く。


ざっと5メートルぐらいだろうか、俺も負けじと足を速く動かす。




だが距離は空いていく一方、俺は毎日毎日このようにぼろ負けしているので、もちろん悔しい。


今日は一泡吹かせてやろう...




俺は左手を後ろに向け、風魔法を無詠唱で発動させる。


疾風ガル




初級の風魔法で、ちょっとした風を引き起こす。


だが、体を少し早くするには十分な風量ではある。




自分に追い風が来たことにより、じりじり父さんとの距離を詰めていく。


あと1メートル程になってから、父さんが俺が近づいてきていることに気づいた。




「何!?やるな!?俺も負けてはいられん!」


父さんのスピードが一層早くなる。




もしかして、手加減してたのか?...


距離はどんどん離れていくばかり。




このままでは、いつもどうりに負けてしまうと思った俺は、風魔法につぎ込む魔力を多くさせる。


少々バレる可能性が増えてしまうが、勝つにはリスクも必要だ、しょうがあるまい!




地面が少しえぐれてはいるが、あとで直してしまえばいいだろう。


「え!?おい、アル!?お前いつの間にそんな体力身に着けた!?」




父さんの顔がゆがむ。


そうだよ...その表情だよ...




やばい、上だった人を自分の意志で超すことって、こんなにも楽しいのか!


俺の今の表情は、子供の顔とは思えないほどのゲス顔になっているだろう。




残り10秒で、今日の走り込みは終了する。


今のところ、抜いたり抜かされたりを繰り返している。




残り5秒、俺は魔力をさらに強める。


だが、ここで問題が発生。




魔力を強く籠めすぎて、手の方向が少し斜めってしまった。


そのことにより、勢いが減少。




それを見計らた父さんは、


「惜しかったな!アル!」




最後の最後で俺のことを抜かす。


「ま...負けた...」




膝をつき、頭を下げる。


結構全力でやったんだけどな..




そうすると、父さんが近づいてきて、


「アル!がんばったじゃないか!ちょっと早すぎてビックリしたぞ!」




...初めて褒められたかもしれない、心なしか少しうれしい。


「ありがと、父さん、もう大丈夫だよ」




俺は、なんていい父親のもとに生まれてきたのだろう。


「よし、次は模擬線だな、少し休憩しようか」




「分かりました」


俺は近くにある庭木によしかかる。




そうすると、家からお母さんが出てくる。


「ちょっとあなた!さっき見たけど、アルに無茶させすぎよ!」




少し怒った態度で父さんに言いつける。


「い..いや..その違うんだ!アルがやってくれって言ったんだよ..」




父さんにしては、珍しく声が小さい。


なんだろう、この世界でもやっぱ、夫よりも妻の方が強いのだろうか?




「へぇ~、ブーストを使うほど全力でやってくれって言われたんだ~へぇ~」


ブースト?...なんだそれ?




「そ..それは...」


父さんが少し困っているな...まぁ、ある程度お世話になってるんだし、少し助け船を出すか。




「母さん、お父さんは悪くはありません、僕がやってくれないかと頼んだんです」


母さんは、きょとんとした顔で俺を見る。




「あら、そうなの!でも、無茶はいけないよ、分かった?」


「は~い」




母さんは家に戻ると同時に、俺の耳に顔を寄せる。


「魔法も、ほどほどにね」




......少しぞわっとした...


そのまま家に戻っていく。




...怖いなあの人。


俺の本能がそう言っていた。


----


「よし!気を取り直して、模擬線を開始する!」


木剣を地面に刺し、俺に対して言い放つ。




「相手に一回でも当てれば、当てた者の勝利、魔法は使ってもよし、分かったか?」


「了解です!」




父さんは俺に素振りの時に使っていた木剣を渡す。


俺は父さんから5メートル程離れたところまで歩いていく。




「準備はできました!それでは行きます!」


地面を蹴り、父さんのもとまで距離を詰める。




俺がメインとして使っている流派は突神流。


そのため、早いスピードで相手を翻弄するのだろうが、俺には欠点がある。




それは単純に、体力がないという点だ。


そのため、俺は剣術では短期決戦型に分類される。




俺は父さんに向かって、下から上に向かって木剣を振り上げる。


それはもちろんガードされる。




それを予想していた俺は、父さんの手首を蹴り、ガードを崩させてから距離を取った。


「おぉ..やるねぇ..」




結構全力で蹴ったつもりだったが、あまり効いていないようだ。


俺は、すぐに水魔法のウォーターバレットを父さんに向けて撃り放つ。




これは、俺が独自に開発した魔法。


水の密度を極限まで圧縮させた弾。




それを魔力の糸のようなもので高速移動させる。


本物の銃ほど威力はないだろうが、木剣に穴をあけるほどの威力はあるだろう。




父さんの胸付近まで飛んでいく。


当たった..そう思っていた。




「なんだこれ、ホイ!」


水の弾が真っ二つに割れていた。




えぇ...うそぉ....水って切れるの?..


いや、高密度だしあり得ない話ではないのかな?..




「そんじゃこっちから行くぞ!」


父さんが、こちらに向かって走ってくる。




俺は、防御をするために、冷神流の構えを取る。


相手の行動を読み取ることもできるが、カウンターなどの時にもつかうのが冷神流。




父さんは、木剣を横に振る。


俺はそれに向けて垂直に木剣を傾ける。




それにより、父さんの木剣がはじかれるが、そこからまたさらに上から斜め下に木剣を振り落とす。


これをガードすれば、手が傷んでしまうと思った俺は、後ろにステップを踏んで避ける。




だが、その隙を流すわけもなく、父さんは一歩前に足を踏み、下から上に向けて振り上げる。


俺はそれに向かって瞬時に木剣を横に傾けガードする。




手が少し痛い、だがそんなことを言っている暇はない。


ガードされた木剣の反動の方に移動させ、高速で一回転させてから、上から俺に向かって振り下ろす。




俺は、それに反応できるわけもなく、肩に思いっきりぶつかる。


「痛って!」




すぐに無詠唱で肩に回復ヒールをかける。


目の前を見ると、ドヤ顔で俺を見ている父さんがいた。




「どうだ!アル!参ったか!」


いや、子供に木剣をぶつけておいてそれはないだろ。




「はい、参りました」


ここは潔く負けを認める。


----


はぁ...剣術はやっぱり疲れるな...


剣術指南が終われば、部屋に引きこもり、魔法の研究をするのが俺の日課である。




だが、一人で研究するには少し限界が来ている。


そろそろ本だけではなく、師匠なども作った方がいいのだろうか?




いや..師匠というよりは、勉強の類も教えてくれる家庭教師の方がいいのだろうか?


よし、善は急げ、さっそく相談してみるか。




俺は、自分の部屋から出て母さんの部屋に向かう。


その道中で、水色の髪をした、メイドのエシリカが掃除をしていた。




「アルトラス様!、午後に部屋から出るとは珍しいですね」


「これから母さんに相談しようと思いまして」




「相談?..分かりました、ウリム様ならあちらの部屋にいますよ」


エシリカが指をさしたのは、リ二アスの部屋だった。




「分かりました、ありがとうございます」


頭をペコリと下げ、リ二アスの部屋まで歩いていく。




ちゃんとノックをして、部屋に入る。


昼間からお盛んなことはないだろうが、一応保険はかけておく。




「あら、アルじゃない!どうしたの?」


そこには、母さんしかいなかった。




ふう..よかった...


「少し相談がありまして..」




「あら。アルが相談なんて珍しいわね?どうしたの?」


首をかしげ、こちらを見る。




「家庭教師を僕に付けてくれませんか?」


「家庭....教師?....」


----


結果的には、その場で決定することは難しいということにより、夜に、家族会議をすることになった。




「それでは、第1回家族会議を始めます」


母さんが、会議の始まりのあいさつを始める。




「今回の議題は、アルに家庭教師を付けるか否かを決めることです」


「家庭教師ぃ~?そんなものはいらん!断じていらん!」




父さんが強めに主張する、


「あなたに対してではなく、みなさんの意見を聞いているのです、静かにしてください」




母さんが冷たい言葉が父さんを静止させる。


父さんはすぐにうつむいてしまった。




「意見がある人は手を上げてから発言してください」


そうすると、一人のメイドが手を挙げる。




それはエシリカだった。


「まず、アルミドラ様が家庭教師を付けたいという理由は何なんでしょうか?」




「魔法と、様々な事象について知りたいから、という理由らしいです」


「そうですか..リリはどう思う?」




エシリカが聞いた相手は、もう一人の黒髪のメイドであるリリだった。


「私は賛成です、現在アルミドラ様の魔法や知識は伸びしろがあると思われますし、世の中を知るよいタイミングかと思われますので」




今のところ、父さん以外は全員賛成ってところかな?


「あ!もちろん私は賛成だよ?アルちゃん!」




「ありがとうございます、母さん」


...で、父さんはどうだ?




「...............」


沈黙ですね、まぁ自分は思いっきり反対してたのに、みんなは賛成だし、そりゃ落ち込むわな。




だが、そんな状態の父さんが、少し動き出した。


「ちょっと待て...」




そのまま可決すると思っていたが、どうやら抵抗する気が出てきたようだ。


「なんですか?あなた?」




「家庭教師を雇うお金はどうするんだ?..」


..確かにそうだな、誰かを雇う以上、お金は絶対必要ではある。




だが、母さんはそれに全く動じずに、


「私が払いますが?何か?」




と、優しく父さんに語り掛けたのであった。


----


結果は、家庭教師を雇うことに決定された。


だが、そんな簡単に見つかるのだろうか?




この世界の物事について知っていて、魔法を俺に教えることができる人。


なんか金をすごいくらいとっていく人が来たら嫌だな。




さすがにそこまでして家庭教師を雇いたくはない。


だが、家庭教師という存在には少し興味がある。




給料はどれぐらいなのだろうか?


そもそもこの世界のお金についてはまだ知らないな?




大陸によってお金やその価値も変わってくるのだろうか?


いや、こんなことを考えるより、家庭教師の人が来てから聞けばいいか。




今は自分でできることをやろう。


今の俺の目標は、強くなるということだ。




あれ?待てよ?...


俺..家の敷地から出たことなくね?...




いや、どうでもいっか。


でも、友達とかほしいしな....




まぁ、家庭教師が来てからそれも考えよう。


楽しみだなぁ..家庭教師!

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