第3話 傘越しに見る雨。 07章
夕方まで降っていた雨が、青々とした草木の香りをより一層強くする。春先からだいぶ暖かくなったとは言え、今晩は少し風が冷たい。大学からの帰り道、まだ濡れているアスファルトを歩くペタペタという音だけが辺りに木霊する。
今日は俺にとって、ここ最近の中で一番の収穫があった。1つ上のサークルの先輩である、白石さんの連絡先をゲットしたのだ。早速メッセージを送ろうと夢中になりすぎて、いつも一緒に帰っている友人に置いて行かれた。そのため今日はひとりスマホとにらめっこしながら、少し傾斜のきつい坂道を下っている。
(落ち着けオレ! 最初が肝心だっ! とりあえずお礼だ。 今日色々と教えてもらったお礼をしなくてはっ!! こんなに緊張するのは中学の時、初恋の人へのラブレーを書いた時以来だぁ~)
同じような文章を書いては消して、消しては書いてと一向に送信できない。気がついた時にはいつも通っているコンビニの前まで来ていた。相変わらずここはお客さんが少なく、外から中の様子がよく分かる。その時ちょうどレジで会計して出てくるところの緑川を見つけた。向こうもこちらに気がついたようで、遠慮がちに手あげて歩いて来た。
「お疲れ~! 緑川もこのコンビニ良く来るの?」
「いや、牛乳切れてたの思い出してたまたまー っていうかお前今日も来るの?」
俺は毎日の様に大学から彼のマンションへと通っていた。霊感について色々と教えて貰ってる。最近ではそれ以外にも普通の大学生っぽく、友達としての会話も多くなった。
「どうしよっかなぁ~ 今日さぁ~、サークルの白石さんに連絡先教えて貰ったんだよねぇ!」
「・・・・・・白石・・・? あぁ、あのいつも壁際でギター弾いてる先輩?」
「そそっ! んで早速メッセージを送ろうと考えてるんだけど、イマイチかっこいい文章が思いつかなくてねっ けどまぁ~モテる男は困っちゃうよ~!」
「いやそれ、お前がしつこく聞いて来たから仕方がなく教えたんだろ?」
「見てた⁉」
「見なくても分かるだろ。 普通ー。」
俺には何が可笑しいのか分からないけど、緑川は目を細めて笑った。
「・・・・・・ってことで~ 今日はそれで忙しいからパス! 明日また行くからよろしく~」
「おう! 来る前に連絡だけ入れといてー」
緑川が小さく手を降って、コンビニ前に停めてあった自分のバイクに跨がろうとする。そこで俺は彼に話したいことがあったことを改めて思い出した。慌てて駆け寄り呼び止める。
「––––––緑川ごめんっ! 話したいことがあったの思い出したっ! まだ時間大丈夫?」
「おぉー? まだ大丈夫だけどどした?」
「・・・・・実は今日サークルで、その~、白石さんと部長が話してるのを偶然聞いちゃって・・・・・・」
俺はギターを教えて貰ってる途中で、タバコを吸いに立った部長がなかなか戻らないことにしびれを切らして、体育館を出てすぐのところにある喫煙スペースまで様子を見に行った。そしたらそこで部長が誰かと話しているのが分かり、悪いとは思いつつその話を隠れて聞いてしまった。その相手は白石さんで、どうもこの間の新歓の時に俺と入れ違いで林から逃げてった女の子が、幽霊に取り憑かれと思ったらしく、今日一緒に怪しい男に除霊をして貰ったという内容だった。
「・・・・・んでその白石さんと一緒に除霊して貰った女の子の話がおかしいんだよっ!」
「ん? なんで?」
「・・・・・・前にも話したけど~ オレが林の奥まで行った時に、男子と女子がいて、2人とも幽霊に憑かれてる様子はなかったんだよっ! その後すぐ皆の所に走って逃げてったし・・・・・・。 それにあの時にもし他に幽霊がいたら、緑川も気が付かないはずないだろ?」
「・・・・・・それは確かにー ・・・・・・だとしたら俺達が知らない別の所で憑かれた? いや、むしろ除霊自体が嘘? ・・・・・・・んー・・・・・・ けれどそうなると・・・・・・」
そのまま緑川は色々と考えている様子で、跨ったままのバイクにエンジンを掛けると、ぶつぶつと独り言を言いながら俺を残してどこかへ行ってしまった。
「・・・・・・えっ? 緑川ぁ~⁉」
俺は誰もいなくなったコンビニの駐車場で、ひとり立ち尽くしていた。けれど直ぐに白石さんにメッセージを送らなければならないことを思い出して、ひとまず今日の晩ごはんを調達するため店内と向かった。
第3話 傘越しに見る雨。 完
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