第1話 蛍火の季節。 03章
雨はすっかり上がって、濡れた草の匂いが辺りに広がっている。体育館前に新歓のために集まったのは10人もいなかった。ホタルが見れる沢までは歩いて移動する。背中にギターを背負った部長を先頭に、大学生数名がのそのそと練り歩く様子は、傍から見たら異様だろう。
10分ほど歩くと周りは林と田んぼになってくる。大学から駅までは学生用アパートや商店街などが並び、人通りも多いが、今向かっているのは駅とは反対方向。遠くの町の明かりがぼんやりと空を照らしているのが見える。後は持ってきた数本の懐中電灯の光が道の先を照らすだけで街灯すらない。
「部長ーーーっ! 近所迷惑ですよーーーっ!」
「誰もいないから平気!、平気っーーー!」
聞こえてくるのはそれぞれが話す声と、先頭で陽気に歌う部長たちのあまりうまくはないアカペラだけだった。
それからしばらく歩くと橋が見えてきた。橋といっても小さな小川に鉄板を渡しだけのお粗末なものだ。その先は木と木が重なり、トンネルのようになっている。
「到着っ! ここから肝試しスタートなぁ!! ––––––やっぱ夜になるとなかなかいい雰囲気じゃないか!?」
「部長? ここ来たことあるんですか?」
「昼間に仕込んできましたっ! この先に沢があって、そこにあった丁度いい岩の上に何本か缶コーヒーを置いてきたから、それを取ってきてもらう! このあみだくじで順番を決めるから! 男女で同じ番号のやつがペアなぁ!!」
そう言って部長が紙とペンを出した。わざわざ準備をしておくなんて、どこまで気合が入ってるんだっと思いつつも、心なしか浮かれていた。
全員の順番が決まり、俺は3番手で1つ上のショートヘアの先輩とペアだ。サークルで何度か見たことのある人で、たしか壁際でギターを弾きながら、最近流行っている曲をいつも歌っていたと思う。
「––––––よろしくお願いしま~す!」
「よろしくねぇ! あたし結構な怖がりだから置いていったりしたらキレるからね!」
「はいっ! 善処します!!」
「・・・・・・っ善処って・・・マジで置いてくなよ~!?」
ペアの相手がこの人で良かった。佐藤なんて女子がひとり足りないからってことであの部長とだ。
* * *
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