第11話

 眼が覚めたとき、ガゲツは手当てをされ、遺跡の奥にある石牢のような部屋で横になっていた。


 ここは、自分が閉じ込められたいた場所だ。

 いったい誰が自分をここに運んだのだ。手当てまでして。

 ガゲツは身を起こし、そのときやっと人の気配に気づいた。


「気がつきましたか」


 それはしわがれた老爺の声だった。

 ガゲツは彼を見たことがあった。カグヤを襲ったとき、彼女を護ろうとした者のひとりだった。

 そう彼は長老でカグヤからオキナと呼ばれていた老爺だった。


「なぜオレはここにいる?」


「姫さまがあなたが生きることを望まれました」


「カグヤが? あいつはどうなった?」


「姫さまは原初の火に身を捧げました」


 そう言って眼の前に差し出されたものは布に包まれた『灰』だった。

 まだかすかにカグヤの匂いがした。


「これは?」


「姫さまの『灰』です。あなたに差しあげます」


「なぜ?」


「姫さまがそう望まれました」


 ガゲツは眼を細め、『灰』を見据えた。

 ゆっくりと手をのばし『灰』に触れてみる。普通の灰だ。それでもわずかに、カグヤの匂いが残っている。

 その匂いに誘われて、指についた『灰』を舐めてみた。


「……まずい」


 ガゲツは喰うのをやめた。

 そして、なにかに突き動かされるように、まだ力のはいらない身体に鞭をいれ、外にでた。


 世界は、以前と変わりなく、生命力に満ち溢れていた。

 空には、燦然と太陽が輝き、すべてを見守っていた。


 あそこにカグヤがいる。

 ガゲツはもう一度だけ、カグヤの匂いの残る『灰』に眼を落とし、手から力を抜いた。


 布から『灰』がこぼれおちる。指の隙間をさらさらと流れていき、風に吹かれて飛んでいく。


 それを眺めながらガゲツはすでにいない彼女に呼びかけた。


「四百年、待っててやるよ。だから――逢いにこい」


 それが、炎にまつわる贄と鬼の物語の終わりだった。

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