第5話

 鬼――ガゲツが捕らえられている牢屋の扉を開けた。

 壁際に、鎖で雁字搦めにされたガゲツが眠るように横たわっていた。


「……ガゲツ?」


 カグヤは静かに声をかけた。

 それ以前に眼を覚ましてはいたのだろう。彼はゆっくりとまぶたをあける。その瞳はやはり金色の満月のようで、カグヤは笑みをうかべる。


「メシを持ってきたぞ。食べるか」


 そう声をかけると、ガエツはゆっくりと身を起こした。そのまま壁に身体をあずける。


「喰う……」


 ガゲツはただそれだけを呟いた。

 カグヤはガゲツのそばに腰をおろし、料理がのった盆をわきにおいた。料理は質素なものだった。干し肉をやわらかくなるまで煮込んだスープと、干し葡萄だ。


 これは先ほどオキナが彼女に用意した食事だ。それを食べずに持ってきたのだ。

 もちろん、ガゲツは鎖で縛りつけられているため、カグヤが食べさせる。


「美味いか?」


「ああ」


 ガゲツは驚異的な回復をみせていた。火傷の下にはすでに新しい皮膚が出来始めている。

 食事はすぐに終わった。ガゲツは満足そうにげっぷをもらすと、獣があくびをするように眼を細めた。


「それだけ食べても、まだわらを喰いたいか?」


 カグヤがそう訊くと、ガゲツは即座に頷いてみせた。


「喰いたい。おまえはいい匂いがするからな」


「……それは喜んでいいものか?」


「美味そうだ」


 カグヤは苦笑した。


「だが、わらはおぬしに喰われてやるわけにはいかぬのだ。この前も言ったが、先約がおる」


 そう言うと、ガゲツは大好物をとりあげられた童子のような顔をした。


「先約とは誰だ?」


 そう問われて、カグヤは高い天井に申し訳程度についている窓に視線をなげた。

 そこには、生命の父である火輪――太陽が地上のすべてのものを照らしていた。


「原初の火だ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る