第45話、千刃剣
『なあに、落ち込むことはない。貴様の一撃は誇るべき奥義じゃ。これまで幾千の時を生きてきたが、たった一撃でワシを100回も屠った者は誰一人おらんのじゃからな』
「ウラボスと言ったな。貴様の命はいくつあるというのだ?」
『ワシの命は…………何個じゃったかのう?』
とぼけているのか、とが抜けてぼけているだけなのか。
しかし部屋を覆うほどの巨大なドラゴンが目を見開くと、その圧力に押されかける。
「ドギャアアアアアス!」
「100では足りぬというのなら、1000の刃をくれてやろう! 出でよ四十七剣! 今宵選ばれし剣は、その巨体に相応しい千の剣だ!」
詠唱によって生じた暗黒空間に『千』という言霊が吸い込まれる。
闇から生まれ掌に収まった武器は、仰向けになった犬のような武骨な形の物体。剣というより鎌に近い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。
「
『千葉県は日本の関東地方に位置する県。県庁所在地は千葉市。訪日旅客数は全国第3位であり、アジア地域有数の国際見本市会場である幕張メッセ、国際線旅客数・就航都市数・貿易額で日本一の成田国際空港、水揚げ量日本一の銚子漁港、集客施設来場者数日本一のディズニーリゾートなどがある。また2020年1月17日には日本で唯一の国際標準模式層断面及び地点として認定され、77.4万年前から12.9万年前までの期間が千葉時代ことチバニアンと命名された。県の木はマキ。県の花は菜の花。県の鳥はホオジロ。県の魚はタイいいいいい!』
再び脳内に断末魔が響き渡り、ウラボスは消滅する。
しかし周囲を漂っていた塵が集まると、巨大なドラゴンの身体が再形成された。
『まさか宣言通り、本当に1000回も殺されるとは思わんかったわい』
「これでも駄目となると、九大魔剣を使うしかないようだな。出でよ――――」
「魔王様?」
ふと背後で聞き覚えのある声を耳にして振り返る。
そこにいたのは珍しく驚いた表情を浮かべている、ゴスロリメイド服を着た従者だった。
「コマ。下がっておれ」
『おおおおお! コマちゅわあああああん! 待っとったぞおおおおお!』
「…………何?」
脳内に間抜けな声が響き渡る。
どういうことかと思っていると、暗闇に包まれていた部屋が一気に明るくなった。
どうやら普通に照明があったらしく、スイッチを入れたコマは深々と頭を下げる。
「魔王様。今まで隠していたことを深くお詫び致します。しかしどうかこの子の命を奪うことだけはお許しいただけないでしょうか?」
「そのドラゴンは一体何だ?」
「ペットでございます。シリアスとの戦いによって崩壊した城の復旧中、魔王様の玉座の下に隠し部屋を見つけました。ご覧の通り、大人しくて良い子です」
「ドギャ♪」
コマが頭を撫でると、ウラボスは猫撫で声ならぬドラゴン撫で声を上げる。
この図体で大人しく良い子と言える感性は疑問だが、害となる存在ではないらしい。
「…………好きにするがいい」
「感謝致します」
『ワシの声が聞こえし者よ。貴様は愛しのコマちゃんの主だったようじゃな』
再び脳内に声が響くが、どうやらコマには聞こえてないようだ。
器に出されたドッグフードならぬドラゴンフードをボリボリと貪りながら、威厳のないウラボスは余に向けて偉そうに語りかけるのだった。
『もひもワヒの力ふぁ必要にふぁった時ふぁ、コマひゃんに免ひへ助けふぇやふぉう』
魔王様は技が欲しい! 守田野圭二 @sutanokeiji
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