第44話、死河剣
「まさかこんな物が存在していたとはな……」
誰もいない玉座の間で一人、思わず声に出して呟く。
ここのところは侵入者も少ない平和な日常。今日は久し振りの休日として指の上を転がすようにコインを移動させるコインロールの練習をしていた時に事件は起こった。
うっかりコインを落としてしまい、転がった先は玉座の真下。仕方なく玉座を移動させると床の感触の違和感に気付き、絨毯を捲ってみれば以前までなかった筈の地下へと続く階段が口を開けていたのだ。
「シリアスとの戦いの際に崩壊して、隠し部屋が現れたということか?」
燭台の一つを手に取ると、明かりのない地下へと続く階段を下りていく。
進めど進めど暗闇しか見えてこない、地獄へと導くような長い道。一切物音がしない静寂の空間で余の足音だけが響く中、玉座の間の光すら見えなくなった時だった。
「む?」
辿り着いた先に待ち受けていたのは、いかにも何かありそうな大きな扉。大層な錠があるもののぶら下がっているだけで、鍵は掛かっていないらしい。
そっと大扉に手を掛けると、重苦しい音を立ててゆっくり開き暗闇の部屋が出迎える。
『遅かったではないか………………といっても、ワシの声は届かぬか』
中に足を踏み入れた途端、脳内に声が響き渡った。
燭台の明かりによって映し出されたのは、硬そうな鱗の肌と鋭い鉤爪。
更に歩を進めると、そこにいたのは全身が見えないほどの巨大なドラゴンだった。
「貴様、何者だ?」
『ワシは…………何者だったかのう?』
ドラゴンの口は閉じられたまま、声だけが不思議と脳内に聞こえてくる。
間抜けな発言とは裏腹に、相対するだけでその強さがビリビリと伝わってきた。
『おお、そうじゃそうじゃ。ワシの名前はウラボスじゃった』
「ウラボスよ。貴様は何故ここにいる?」
『む? ワシの声が聞こえるのか? いや、待て。そもそも誰じゃ? 何故ここにいる?』
「それはこちらが聞いている。ここは余の城の地下だぞ?」
『ええい! 飯の時間かと思えばワシの睡眠を邪魔しおってからに!』
どうやら話を聞く耳はないらしい。
閉じられていた口が大きく開くと、威嚇するように大きな咆哮が地下全体に響いた。
「ドギャアアアアアス!」
「戦いを望むというのならよかろう。相手にとって不足あるまい。出でよ四十七剣!」
『四十七剣じゃと?』
「そうだ。これぞ貴様を葬る、魔王最強にして究極の奥義。今宵選ばれし剣は、どうやら貴様を一撃で死へと誘い三途の川もとい葬頭河へと送る剣となるようだ」
詠唱によって生じた暗黒空間に『死』『河』という言霊が吸い込まれる。
闇から生まれ掌に収まった武器は、何かに表現することすらできない武骨な形の物体。剣でもなんでもなく長方形に近い四十七剣は、その名の宣言と共に振り下ろされた。
「
『滋賀県は日本の近畿地方に位置する県。県庁所在地は大津市。面積の6分の1を占める日本最大・最古の湖である琵琶湖が県のシンボルであり、その面積は669.26平方km、貯水量は275億トンで日本一。また築城400年で天守が国宝指定された5城の一つ彦根城があり、マスコットキャラクターであるひこにゃんはゆるキャラブームの火付け役となった。県の木はモミジ。県の花はシャクナゲ。県の鳥はカイツブリいいいいい!』
脳内に断末魔が響き渡り、巨大なドラゴンは消滅する。
一体ここは何の部屋なのかと燭台を手に取ったところで、再び脳内に声が響いた。
『まさか一撃でワシの命を100も持っていくとは驚いたぞ』
「!」
慌てて振り返ると、そこには消滅した筈のドラゴンが復活していたのだった。
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