好きな人
優燈Side
「に、兄さん……今日はごめん。なんか悪いことしちゃった……かも」
二人が帰るまで、稲荷とずっと兄さんたちを見ていた。どうやら、進展はなさそうだ。兄さんが帰ってしばらくして僕も帰った。
ほとんど同時に帰って怪しまれたら困る。その後すぐに、兄さんの部屋に行った。
「……別に、優燈が謝ることじゃない。たまたまいただけなんだし」
たまたまいたわけじゃなくて、兄さんを追跡してただけなんだけどなぁ……絶対にこんなこと言えない。
「あ、そうそう。今日会ってたのって……稲荷のお姉さんでしょ?」
「よく知ってるな。ああ、そうか。優燈も稲荷の妹さんに会ってたのか」
「うん。勉強教えて貰ってて……」
「優燈が誰かと勉強するとか珍しいな」
「それを言ったら兄さんもでしょ。まさか女の人と会うなんて思わなかったし」
自覚してからよく分かった。好きな人が異性と仲良くするのを見るのって、ムカムカするんだな、ってことが。
別に光紀さんが悪いわけじゃないけども。
「光紀さんと何話してたの?」
そう言うと、兄さんが目を見開く。と同時に、少し怒ったような顔もする。
「優燈って、稲荷のこと名前で呼ぶんだな」
あ、そういうことね。……ん?待て待て。もしかして兄さん、光紀さんに気があるんじゃ……?え、もう僕の恋、終わったじゃん。
「い、稲荷が……私と分かりにくいから姉さんのことは名前で呼んでよ。って言ってたから……」
「……なんだ、そういうことか」
「……何でそんなに焦ってたの?」
「いや……優燈が色々ヤバイことしてたのかと思って……」
兄さんの僕に対する思い、結構酷すぎない?弟にその発言はダメでしょ!?
「兄さん、酷い」
「ごめんって」
僕がわざとプク顔をすると、兄さんはよしよしと僕の頭を撫でてくれる。嬉しいので、素直に従っておく。
「優燈が素直に頭を撫でさせてくれるなんて、珍しいな。というか、今日は珍しいことだらけだ」
確かに今日の僕は、珍しいことだらけかも。人……しかも、女の人と会う兄さんも珍しいと思うけどね。
「あ、そういえば、光紀さんと何話してたの?っていうか、何で待ち合わせしてたの?」
「優燈のところと同じって言えば分かりやすいと思う」
「あぁ……なるほどね」
さすが姉妹。言い訳の理由が似ている。
「あ、そうそう。そういう話は置いていて……優燈って、稲荷の妹さんが好きなのか?」
「へ!?兄さん何言ってッ!!」
「今日、店で妹さんと優燈に会ったとき、優燈の顔が真っ赤だったからてっきりそうなのかな?って思って」
あれは!!稲荷が変なこと言うからそうなっただけで……!!
「好きとかそんなことないから!」
「ホントに?」
「ホントに!」
「どうかな~。優燈のことだし」
ニヤニヤした顔で僕の顔を覗き込む。え、もしかして、僕が稲荷を好きだと思われてる?違うって!僕が好きなのは兄さんだけで……
「稲荷じゃないって!ホントに!だって僕の好きな人は、に……」
ミスった。つい、兄さんと言いかけた。言ってはないけど、僕に好きな人がいるのは完全にバレた。
「『に』?『に』から始まる名前の人?あ、でも、名字も可能性もあるな……どんな系?可愛い?美人?」
「だから違うって!」
「否定は良いから。可愛い系?美人系?」
「……美人」
もう、答えるしかない。兄さんは、僕の好きな人が自分のことだなんて、微塵も思わないだろうし。
「年は?同い年?それとも年下?」
「……二個上」
「へー。なんか意外。彼女は先輩かー」
「彼女じゃないし。好きなだけだし」
あれ、兄さんってこんなに恋愛の話好きだったっけ?てっきり嫌いかと思ってた。
「好きになったきっかけは?」
「……いつの間にか好きになってた」
「そういう系の恋か」
何勝手に納得してんの。僕が好きなのは兄さんなんだけど。
「あ、出会いは?」
「言えない」
出会いなんて、僕が産まれた時でしょ。
「ふぅん。ま、良いけど。二個上ってことは、高校一年生か。中学校は同じだった?あ、後、その彼女と同じ高校に行きたい?」
「中学校は同じ。……高校は行きたいけど、たぶん行けない。偏差値高いとこだもん」
「頭良いんだな、その彼女」
だから、彼女じゃないから。もし、兄さんと付き合っても、彼氏になるし。いや、立場的に兄さんは彼女なのかも。
「頭良いよ、ものすごく。運動神経はあんまりだけど」
兄さんは自分のことって気づかないのかな?共通点ばっかなのに。自分が美人とは思ってなさそうだけども。
「優燈が好きになった相手は幸せだな。優燈に好かれて」
「……そう、なのかな……」
「そうだよ。俺がもし優燈の好きな人だったら、絶対に告白OKする」
「……本当に?」
「本当、本当。いい子に育ったもん。俺のおかげじゃないけどね」
じゃあ、少しだけ。少しだけ、期待しても良いかな?僕と兄さんが両想いになると言うことを。
だって兄さん、僕の告白、OKしてくれるんだよね?その言葉、忘れないから。
僕は正反対の兄に恋をした。 @kakaomma13
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