恋のライバル

優燈Side


「これから大変そうね。でも安心して。私も協力するわ、もちろん釜崎に」


「……お姉さんの方は良いの?」


「姉さんが悲しむのは嫌だけど、釜崎のお兄さんには姉さんよりも釜崎の方が似合うと思うの。女の勘だけど」


女の勘ほど当たるものはない。昔の経験から、何となく分かる。もっと言うと、女ほど怖い存在はない。


きっとどの家庭でも、母親の方が父親よりも強いと思う。父親が強い家庭は稀だ。僕の家も、もちろん母親が強い。


「やっと二人とも移動したけど……釜崎は追いかける?」


「そりゃ、もちろん」


恋を自覚したからには、とことん追及したい。もう、ストーカーみたいなことになってる。そういうとき、「恋は盲目って言葉はしてきた本当だったんだなぁ」としみじみ思う。


「案外しぶといタイプね。女にはモテないわよ、そういう男」


「モテなくても良いからね。男……というより、兄さんにモテたらそれで良いから」


「……急に積極的になったわね。自覚すると、人って変わるものなのね」


それって誰でもそうなんじゃない?と思ったが、稲荷がその話は終了と言わんばかりの視線を送ってくるため、無理やり終わらせた。


「じゃ、追いかけるわよ。あ、お代はいらないから。特別サービスで」


「ん、サンキュ」


稲荷がウインクするが、僕は気に止めずに立ち上がる。稲荷がなぜか、こちらを不服そうに眺める。反応した方が良かった?


「もう、どんな女でも釜崎の心は奪えないかもね」


「それって褒め言葉?」


「褒め言葉よ、褒め言葉。後、私のおかげで自覚出来たんだから、感謝しなさいよ」


「感謝してるって」


ずっと過ごしていたら、いつかは恋だと言うことに気づいたと思うけど。僕だって、バカじゃない。


「ほら、行くわよ」


「どこに行くか、お姉さんから聞いてないの?」


「聞けるわけないでしょ!恋する乙女を舐めちゃダメよ」


ただ単に聞いただけで、稲荷に怒られた。別に、女を舐めているわけではない。情報なら一つでもほしいだけで。


兄さんは今、稲荷のお姉さんと一緒に歩いている。僕たちは後ろから、コソコソとついていっている。


「女心も分からなくちゃ、お兄さんにもフラれるわよ」


「……その、お兄さんって言うのやめてくれない?僕と稲荷が結婚したみたいになってんじゃん」


言い返せなかったから、そう言っただけ。なのに、稲荷は解釈を間違えて、勝手に納得している。


「嫉妬深すぎない?誠さんも大変ね。じゃあ、こっちからもお願い。姉さんのことはきちんと光紀(みつき)と呼んで」


「……分かった。光紀さんね」


変に納得したのは許さないが、仕方ない。僕もお姉さんではなく、光紀さんと呼ぼう。稲荷も、兄さんを誠さんと呼んでくれるらしいし、別に良いか。


「光紀さん、兄さんのこと好きらしいけど、まだ二人は恋人同士じゃない……よね?」


そこはちょっと不安になる。もしも恋人同士だったら、僕が入る隙間なんてなくなるわけで。


「違うわよ。ただの姉さんの片想いね。誠さんが姉さんをどう思ってるかは知らないけど」


つまり、二人は付き合ってない、ってことか。それはかなり嬉しい。光紀さんには悪いけれど。


「あ、ほら、二人とも曲がったわよ!見失わない内に、追いかけるわよ!」


稲荷が僕の手を繋いで走る。……稲荷って、無意識にこういうことやるんだな。気を付けた方が良いと思う。


「そういや釜崎って、誠さんみたいなタイプが好みだったわけ?」


「……元気でポニーテールで、頭はあんまり良くないけど、運動神経は良い、年下の女の子」


「真逆ね。元気と言うよりクールっぽいし、髪も短いし、頭は良さそうだけど、運動神経はあんまりっぽいもんねー。加えて年上の男だし」


確かに兄さんは僕の好みとは真逆。もしかしたら、無意識に兄さんを好きだということを拒んで、違うタイプの子を好きになろうとしてたのかもしれない。


「とにかく、今日は仕方がないから二人を見守るしか方法がないわよね……また二人で出掛けるとなったら、釜崎が頑張るのよ?」


「頑張る……ってどうやって?」


「決まってるでしょ。姉さんと誠さんが二人で出掛けるのを防ぐのよ。さすがに集団だと防ぎにくいけど……」


「……兄さんに僕を好きになって貰うしか方法はないのか……」


「当たり前でしょ!無理やりはダメよ、絶対。やめなさいね。逆に嫌われるわよ」


「りょ、了解しました……」


考えてることがバレてる。兄さん、ああ見えて押しに弱いから、無理やりヤれば出来ると思ったんだけどな……


「男に限らず、女も嫌よ。そんなこと。……あ、そうだ。連絡先交換しよ」


「OK。二人で会うってときは、知らせてくれない?兄さんはプライベートなことはほとんど言わないから」


「分かった。そうする。私と姉さんでコイバナすること多いから、たぶんすぐに知らせれると思う」


こんなところは、本当に稲荷に感謝だ。


「ちょっと照れ臭いけど……ありがと」


「良いのよ。……美味しい展開になりそうだし」


「……美味しい展開?」


「何でもないわ。気にしないで」



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