21.「反撃の狼煙」
校庭から道にでる出口の前に、子供たちを置いて共にあたふたと慌てている男がいた。
「落ち着いてください。この学校の先生ですか?」
「え……あ、そうですが……あなた方は」
「俺たちは、あの怪物が何かを把握しています。いない生徒の人数、怪物が発生した時の細かな状況を教えてください。」
真紘は落ち着いて、先生と思われる男に尋ねる。
男は焦りからか、尋常ではないほどの汗を流しながら状況を説明し始める。
「今いない生徒は合計3人です……女子が1人、男子が2人……いつも通り、職員室で授業をしていました。今日は参観日で……それで、私は教頭なのですが各教室を見て回ろうとした時、いきなり上の階が騒がしくなったんです…慌てて行きますと、2年生の担任の頭から何か訳のわからない物体が膨張していたんです……そのまま、担任の体が膨れ上がって、私の二倍くらいの体躯の怪物が現れました」
教頭と名乗る男は、拙くぎこちなく話す。よほどトラウマだったのであろう。時々、言葉を詰まらせながら目には涙を溜め、言葉を絞り出していた。
「わかりました。校舎に残っていると思われる生徒は3人。怪物が突然現れて校舎を壊し回っている…」
「行こう、真紘くん。こうしてる間に、葵ちゃんが殺されちゃうかもしれない」
「待て、三澤。綺羅さんから聞いた話だけど、おそらく敵には狙いがある」
三澤に、先程綺羅が話していた敵の計画をそのまま伝える。
「それじゃ、余計に早く行かなきゃだよ!葵ちゃんと明石くんが連れ去られちゃう」
「まってください! それだけじゃないんです……」
教頭が突然大きな声を出す。そして、急に弱気になったように顔を伏せる。
「怪物が現れた瞬間、生徒も親御さんも外へ駆け出して行きました。私は力が入らなくて、なんとか一階に降りた時……もう一体の怪物が現れたんです」
「は⁉︎ それじゃ、真骸は今校舎の中に二体いるって……しかも、綺羅さんがやばいって言うほどの敵が二体……?」
状況は悪くなる一方だ。それでも、葵を救うために行かなければ。
「三澤はここに残れ! 残ってる三人は、俺が連れてくる!」
「真紘くん……舐めないでよ」
いつもの口調らしからか三澤に、思わず振り返る。見たこともないような表情の三澤は、眉間に皺を集め、今にも食らいつかんとする目は赤く光っている。
「私だって戦える。葵ちゃんに…私の家族に、手を出したこと。絶対に許さない」
「……わかった。絶対に無理はするな」
2人は、校舎の入り口に向けて歩みを進めた。
校舎の中は、外装ほど破壊されていなかった。階段や教室の形は残っており、なんとか上の階までいけそうだ。
問題は、真骸がどこにいるのか。それと、葵と明石、もう1人の少年の救出だ。
そっと足跡を立てないよう、階段を登る。
「……ここだよ。二年生のクラス」
この事件が始まった全ての元凶である教室は、破壊し尽くされ、この校舎の中で1番ひどい状態だった。
「葵ちゃん、どこ?」
「明石くーん! いるかー?」
名前を呼んでも返事がない。あまり大きな声を出すと、真骸にバレてしまうので声が出せない。
一旦教室を後にし、廊下に出る。ふと、何もない長い廊下の先に気配を感じ、身構える。
ト、ト、ト、ト。だんだんと足音が近づいてくる。
角から、影が見えた。心臓の音が大きくなる。汗が、滲み出てくる。
隣では三澤が、目を見開いて一ミリたりとも動かない。赤く目が光る。
ガシッ
手が角を掴んだ。2つの人影が、角から現れる。
「あ……お姉ちゃん……!」
「葵ちゃん……!」
その影の正体が葵と分かった瞬間、三澤は全速力で駆け寄っていく。真紘が、ホッとため息をつく。
三澤があと一歩で葵に辿り着く瞬間、床に亀裂が入り、爆発した。
「きゃぁぁぁぁ!」
「葵ちゃん!」
粉塵が舞い上がる。煙が上がり、中から巨大な真骸が現れた。
直後、後方から足音が聞こえ出した。巨大な影が、低い唸り声をあげて、現れる。
三澤と真紘を中心に、真骸が挟み撃ちの状態になる。
「お姉ちゃん! 私たちは大丈夫だから逃げて!」
「そんなことするわけないでしょ! 絶対助けてあげるから!」
ズドォン!!
三澤がそう叫んだ直後、葵たちへの道を塞いでいた真骸が頭から地面にめり込んだ。
「え?」
「……使うなって言われてるけど」
葵の隣にいた男の子が、真骸の頭を掴んで思いっきり地面に叩きつけたのだ。
「こちらは大丈夫なので、もう一匹を相手してください」
冷静に眼鏡の位置を戻し、明石真羅は敵を見据えた。
さらに、真骸の体が地面にめり込んでいく。その不可思議な現象は、青い光に包まれた葵の重力操作によるものだ。
「だいじょーぶ。いける」
とんだ最強小学生タッグの誕生である。
真紘に向かい合うのは、細長い体躯に死神のような鎌状の武器を持った真骸だ。
思考停止能力を発動する。が、一瞬停止するだけですぐに動き出す。
「あまりにも実力差がある場合、きかないのか…」
あの綺羅さんがやばいという相手だ。一筋縄にはいかないと思っていたが、能力が通じないとなると勝機がない。
「とにかく、今は時間稼ぎか…」
手を伸ばし、骸刀を作り出す。刀を構え、睨み合う。
背後から三澤が宙を舞い、真骸の頭にひと蹴りお見舞いする。
「運動神経どうなってんだ⁉︎」
「言ったでしょ? 戦えるって!」
戦うって物理なのか……。想像していた戦い方と少し違い、驚いたがすぐに体制を立て直す。
渾身の蹴りは、真骸には全く効いていないようだった。
「真紘くん! 次攻撃くるよ! 右から横に鎌の大振り、そのあと縦に大振り!」
三澤が叫ぶと、その通りに鎌が横から迫ってくる。
なんとか攻撃を受け流し、縦からの攻撃を骸刀で受け止める。
「私の能力は未来予知! 少し先の未来なら、鮮明に見えるよ!」
「ナイスだ! 三澤!」
だが、決定的な攻撃手段がない。防戦一方では、こちらの体力だけが奪われていく。
「は⁉︎ なにこれなにこれ」
「どうした三澤⁉︎」
突然三澤が頭を抱えて困惑しだす。こちらといえば、骸刀が悲鳴を上げ始めていた。真骸からの攻撃を受け、内側が折れ始めているのだ。
「真紘くん! 五歩下がって!」
「五歩下がればいいのか?」
言われたとおりに五歩さがる。唐突に、元いた位置の真横の壁が、砕け飛んだ。
豪快なエンジンが粉塵の中で吠えていた。
「真紘くん! 三澤さん! 無事⁉︎」
そこには、バイクごと校舎に突っ込んできた綺羅さんがいた。
骸 ミミズ腫れミミズ @ryo20001120
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