1.鉄躰召喚—3
クリアを載せたジープは悶えるドラゴンの隙を突き、爆走する。
狂才博士、シュタインが手際良く手持ち砲の発射準備を行いながらクリアに話しかける。
「貴様、名は⁉︎」
「クリア!クリア・ニューだ!」
「そうか!良い名だ!」
よし!と呟き彼は発射準備が完了したのか手持ち砲を下げ、クリアへと振り向く。
「詳しい説明はしない!儂がドラゴンの残った片目をブチ抜くからクリア・ニュー、お前はそれでドラゴンの攻撃を防げ!」
「はぁ?マジで言ってんのかよジジィ⁉︎」
「正気であればここにはおらん!お前に選択肢は無い!」
「ボロ切れ具合を見てよく言える……!」
理不尽かつ唐突な命令に困惑しつつも、鉄塊を再展開する。気グルのシュタインは鉄塊を無作法に撫で回し、ブツブツと呟く。
「足りんぞ!もっと大きくしろ!このヤワ鉄じゃあ全く足りんぞ!」
「こンの……!」
「いいか⁉︎バカにも分かるように言ってやる!お前のような小娘の力ではなく、鉄塊それ自体の質量で防ぐのだ!出すことだけを考えろ!」
「…………ああ、もう!もういいさ!分かったよ!黄泉路に道連れだ!」
クリアは吐血しながら啖呵を切り、守護獣を更に引き出す。人の半分ほどであった体積は見る見る内に膨れ上がり、巨漢3人分ほどにまで大きくなる。
「やればできるではないかっ!おい、キミ、ドラゴンにハンドルを切れ!」
「りょっ、了解ぃ!」
ジープは物凄い遠心力を生み出しながら急旋回し、再びドラゴンへと走る。ドラゴンはこちらをしっかりと見据え、残った片目に憎悪を激らせている。
「正直今の量でも全く足らん!」
「はぁ⁉︎じゃあ死ぬの⁉︎」
「そうだ!死ぬ!だからもっと出せ……と言いたいが、コツを教えてやる!」
「コツ⁉︎」
「今のお前は手の平を出口と思い込んで生成している!違うのだ!地面だ!それこそが出口だ!」
シュタインは手持ち砲を構える。叫びながらでもその所作は気持ち悪いほど丁寧で迅速あった。
「要するにデカい壁だ壁!分かったな⁉︎」
クリアは舌打ちしながらも悲鳴をあげる体を鞭打ちジープから身を乗り出す。守護獣を得て初めて、彼女は冷静になった。
(地面からせり上がる壁のイメージ。あの剛腕を押し返す、鉄壁……)
ジープがドラゴンへに肉薄する。鱗の1つまでくっきりと見えるようになる。ドラゴンはついに腕を振り上げ、ごうと振り下ろしてきた!
「来たぞっ!」
「分かってるっ!」
まるで山崩れだ。いくつもの大木と土砂が押し寄せてくる。小さな町なら呑まれかねない圧倒的質量に錯覚する。
「ただの壁ではっ!」
クリアは地面を睨みつけ、両手を振り上げる!
(城だ!)
恐ろしく巨大な鉄塊が地面から噴火めいた轟音と共に迫り上がってくる!鋼鉄の城が如くである!地響きでジープが揺れながら、面々はそれを見上げた!鈍く光る鋼鉄の壁、いや、城!
クリアはいつか見た近衛騎士のタワー・シールドをイメージした!先ほどまでの鉄塊とは比べ物にならない質量!
ドラゴンと相対するにふさわしい盾!ドラゴンの腕は強烈な擦過音を響かせ、火花を散らせながら弾かれる!咆哮!
鉄の城は震えるもビクともしない。ドラゴンはいらだち、胸の祈祷器官を妖しく点滅させる。ドラゴンの象徴、かつて世界最強の軍団をも一撃で焼き尽くした超強力な攻撃祈祷であるブレスの前兆だ。
それ故、ドラゴンは鉄壁の裏から飛び出したジープに対する反応が遅れてしまった。
シュタインは揺れるジープ上でありながらドラゴンの片目に照準を合わせ……引き金を引いた。
酒ビンに羽が付いたような奇妙な砲弾は飛翔しながら加速し、ドラゴンの頭、残った片目に突き刺さった!
そしてわずかな間を開けて炸裂し、ドラゴンは悲痛な叫びを上げる!
「やった……!」
目は脳に近い位置にある。いくらドラゴンといえど2度も眼球で爆発物が炸裂すれば無事ではすむまい。現に、ドラゴンはふらふらとよろめき今にも倒れそうであった。
……ならば、どうして責められようか。
眼前の死が離れていき、思わず安堵してしまった兵士とクリアを。
いつの間にか、ドラゴンの祈祷器官の点滅が止まり、煌々と輝いていた。
シュタインだけが、それを見逃さなかった。
シュタインは即座に手持ち砲を投げ捨て……クリアだけを担ぎ上げ、素早く車外へと飛び出た。
困惑の声をクリアと兵士が上げるその瞬間、ドラゴンの首が蠕動しながら向きを変え、ジープの前に思い切り開いたアギトを向ける。
兵士はすくみ、動けなかった。
ブレスが発動した。
あまりの熱量に空気が歪む。大量の熱そのものをぶつける、あまりに単純で、凶悪そのもの。
ジープのタイヤが溶ける。兵士の悲鳴が上がる。
座席が燃える。助けを呼ぶ声が聞こえる。
フロントガラスが歪む。おぞましい絶叫が響く。
タイヤとガラスが溶けきり、声が無くなる。
クリアは逃げるシュタインの肩の上でただ見ることしかできなかった。
呆然と眺めているうちに、いつしかブレスは止み燃え上がるジープだけが残される。両目を失い、血を垂れ流すドラゴンは明らかにこちらを見据えていた。
ドラゴンはそのまま無感動に腕を振り、燃え上がるジープをクリアとシュタインめがけて弾き飛ばした。
シュタインが慌てて防御を指示すると同時にクリアは鉄塊を構える。しかし質量は圧倒的に足りず、ジープの4分の1も無い。跳ねながら転がってくるジープになんとか鉄塊をぶつけ、威力を殺したと思った瞬間、衝撃でジープが爆発した。
シュタインとクリアは爆破に煽られ、地面を転がる。頭をぶつけたのか、シュタインはピクリとも動かない。
残されたのは、辛うじて意識を保つクリアのみ。
血塗れのドラゴンは首をもたげ、クリアに頭を寄せる。下卑た笑みが浮かんでいるように見える。アギトを開き、喰らわんとする。
ドラゴンのアギトに捉えられんとされたクリアは、笑った。
「待ってたんだよ」
膨大な質量が歪み、傾く異音がドラゴンの死角から響く。
盾だ。クリアが先ほど召喚した、巨大な鉄の盾の根本が変形され、脆くなっていた!
形状操作!
巨大な盾が横向きに倒れる。いつのまにか鋭く尖っていた側面がドラゴンの首を断たんとす!慌てて首を戻そうとするも、激痛がドラゴンの頭を走る!
クリアが鋭く尖った鉄塊を傷口に押し込んでいた!脳に達している!
ドラゴン咆哮する。どうにもならない現実に叫んでいる!
「皆も同じ気分だったのさ!」
目を血走らせ、喀血しながら、クリアも無念を叫ぶ。これがせめてもの報いだと言わんばかりに。
盾がドラゴンの首に影を落とす。ドラゴンはわずかに再生した目で呆然とそれを見上げる。
再び咆哮するその瞬間。
盾が、ドラゴンの首を断ち切った。
断ち切られたドラゴンの生首は無音の咆哮をあげ、ついに、終に生命を失った。
クリアはそれらを見届け、満足そうに目を閉じた。
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シュタインが目を覚ます。
青い空。何人もの声と足音。体のあちこちに巻かれた包帯。
鈍痛に喘ぎながら上体を起こすと、そこには一面の血の池が広がっていた。
赤くボンヤリと光る、伝説と言われてきたドラゴンの血。それが大量に。
ダラリと舌を垂らすドラゴンの生首。
頭が無くなった、ドラゴンの胴体。
それらを取り囲み、戸惑う兵士と研究者たち。
クックッ、とシュタインは笑う。気付いた研究者の1人が駆け寄る。
「博士、一体何が……?」
シュタインは担架に担がれていくクリアを横目に見ながら言う。意識は無いものの、確かに息づいている。
「見た通りだ。史上初の『ドラゴン殺し』だよ」
(……『機体』は手に入れた。)
「次は、『エネルギー』だ」
シュタインは南の空を見ゆる。まるで何が待ち受けるか知っているかのように……。
【『2.祷器絶叫』に続く】
鉄躰召喚ドラゴンゲン @alalalall
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