パラレルワールド・My life

天咲 白桜

第1話 「願わくば、物語の主人公の様なご都合主義な展開が待ってますように」

1、序章




「戦え!!残るのは生か死、ただそれだけだ!!意思も恐怖も同情もいらぬ!全てを捨てろ!

一人でもいい!生き残れぇぇぇぇぇえ!!!」


けたたましい、断末魔。空から恵の雨とともに鋭く光る刃が降り、泥が跳ねる。鈍く光る刃は一瞬で赤く染まる。赤い液体が舞う。それは花びらのように。

綺麗……。

そう思ってしまった。


世界がゆっくり進むように見えた。目の前にいる人間たちもゆっくりと武器を構えているように見えた。

あー、なるほど。私はここで終わるのか。

だから、神様が時間をゆっくりにしてくれているのだ。死ぬ覚悟ができるように。時間を作ってくれている。そう思ったんだ。

全く、余計なお世話だ。

目の前にいる人間たちの隙間から目が痛くなるほどの眩い光が見えた。

私は、悟った。

あー、これで終わりだ、と。


私の目に見えた世界は、透明だった。



ーーそれは、“もう一人の私”の世界の話。




『やあ!初めまして、あたし!』


暗闇。

その中で誰かが呼んでいる。






『あれ、寝てるの?』



……。

そう言えば、なんで暗闇何だろう?


あ、そっか私寝てるからか。



『おーい!!』



……。

一体誰?


『起きろー!』



……ぅ…



『おーい!おはようございます!!起きろー!!』


……。


…うぅ……。


…うる…さい……。



『おーきーてー!』



………。


……だれ?



『あたしだよ!あ・た・し!!』


…いや、オレオレ詐欺じゃないんだから。


『おーい、聞こえてる?』


………

……………。


…もう、うるさいな!起きればいいんでしょ?起きれば!!


と、耐えきれなくなった私は布団から飛び起きた、

ーーつもりだった。



『あれ?どうしたの?』



私は自分の目を疑った。

なぜなら、


『やーとっ、起きてくれたー』


目の前には“私”がいたから。



「はぁぁぁぃぃぃぃいい?!!」




ーーーーーーー



『あのね、あたし、どうやら死んじゃったみたいなんだーー』


何にもない白い世界で、同じ姿をした人間が二人。

もはや異様である。

腰まである長い黒髪が光り、林檎のような赤い瞳と目が合う。


「なんで、そんな呑気?」


私は、首を傾げる。


死んだ?

誰が?

私が?

え?

私が??

いや、目の前の私か……

私?!



『いや、混乱するのもわかるよー。

でも、しゃーない。死んじゃったもんはしょうがない!!』


「なんて潔い」


『いやー、それにしても、びっくりだよね。よく分からない真っ白な光が目の前から迫ってきたと思ったらそのまま死んじゃってさ!』


てへぺろっと舌を出して笑う“もう一人の私”。

いいの?そんな死因で!!


と、内心ツッコミを入れつつ、私は閃いた。



「あ、これ。夢か」



まあ、普通に考えてそうだよねー。



そう考えた私は、また寝ようと思い布団に潜ろうとする。それを止めるもう一人の人物。私と同じ姿をしている人物。



そして、私は、ため息をひとつついて、口を開く。


「あのね、私は寝不足なの。昨日は、百年に一度のしか見られないって言われてる流星群を見たんだから。とっても綺麗で感動しちゃったんだよ。それで、気がついたら、“ここ”よ!

これは、夢でしかないでしょ?だから、おやすみなさい」


そう言い、寝ようとするも目の前の人物は目を丸くしてぱちぱちと瞬きをしている。

それを見て、ちょっと面白いと思ってしまう。



『あ!ちょっと待って、とにかく、あたしの話聞いてよ!ねえ!?』



必死に寝ないで、と訴えてくる。

その様子を見て少し可哀想かもと思い姿勢を整え聞く体勢をとる。



『ふー、驚くのもわかるけどもう時間が残されてないの。だから、よく聞いて欲しい。

もう、あたしたちは二度と会えないのだから』


と、真剣な顔をする“もう一人の私“。

なんだか、ちゃんと話を聞いてあげなければならない雰囲気になったぞ。

二度と会えない。

何言っているのだろう?

夢なのだから当然なのでは?

それにても、夢なのにすごいリアル。

色々な考えが頭の中でぐるぐると回る。


そして、目の前の人物が口を開く。


『そもそも、あたしたちは“パラレル世界”の人間なの。』


一呼吸おき、


「やっぱり、夢か……」


そそくさと布団に潜り込もうとする私。

そもそも、この何も無い空間に布団だけあるのもシュールな絵面だ。


『ちょ、ちょっと、さっきと同じ展開はいいから!!』


と、私の布団を奪おうとする“もう一人の私“。


『ゴホンッ。とにかく、本来なら同じ人間が同じ世界になんていたら不味いわけなの。なんか、色々、やばいらしい』


目の前の人物は腕を組みながら難しい顔をする。


自分で言うのもあれだけど、適当すぎない?


それに、パラレル世界って…。都市伝説で聞いたことあるぐらいで、本当に存在なんてするの?


『うん、うん。わかる、わかる。言いたい事。そんなの、都市伝説かなにかだと思うよね。でも、実際こうして、私たちは会えてるんだよ?もちろん夢なんかじゃない。そして、ここまで瓜二つな人間なんて双子でもありえない。


……それに、あたしは知ってるし……』


「…?何を知ってるって?」


目の前の人物ーいや、もう“一人の私”は言う。

含みのある言い方で。

気になるじゃん。


『いや、何でもないよ。とにかくパラレル世界の話は信じて欲しい。信じてくれないと話も進まないし』



なんだか、やけに“もう一人の私“が真剣な顔をして話を進めたがってる。私はしょうがなく頷く。

そして、他に気になっていたことを聞いてみた。


「わかったよ。じゃあ、ここはどーー」


『知らない』


なんですと?即答ですか。

どこ?と聞こうと思ったらまさか、そんな早く返されるなんて。


『そんな目で見ないで!!あたしだって気がついたらここにいたんだから!』


どうやら私の視線に気がついたみたいで、向こうは必死だ。


にしても、自分の顔を客観的に見るのは変な気分だなー。

こんなふうに見えてるのか、ふーん。

まるで鏡でも見ているような感覚。ついつい目の前の“自分”を見てしまう。



『って、聞いてる!?』



聞いてる、聞いてる。

私は適当に頷く。



『でも、よかった。ここがどこにせよ。あなたに会えたから』


「どういう事?」


例え、自分だとしてもやっぱり何を考えているのかは分からないな。


目の前の“もう一人の私”はコホンと咳払いをすると人差し指を立ててニヤッと笑う。



『じゃあ、そういうことなので“私の世界”に行ってきてください!』


は?


“私の世界”って


「パラレル世界に行けと!?」


『うん。そうだね。あなたからすればそうなるね!』


万遍な笑みを浮かべて頷く“もう一人の私“。


いやいやいや、意味わかんないよ?


「なんで!?なんで、行かなきゃ行けないの??」


嫌な汗が頬を伝う。

何故か、心臓はドクドクと激しく脈を打つのがわかる。



『まあまあ、それは行ってからのお楽しみってことで、ね?』



いや、ね?、じゃないから!!

私の前にいる、人物はにこにこしながら話す。


『あなたに会えて良かったよ。と言うわけで、よろしくね!』


「なに、全部丸投げして逃げようとしんの。」


逃がすか。

誰がこんなことに巻き込まれるものか。

私は“もう一人の私“の肩を掴む。


『え?ダメ?』


「むしろ、なぜいいと思った?」


『“あたし”だから?』


「…………」


『それに、“カミサマ”と約束しちゃったし』


と、“もう一人の私“は口をとんがらせながら言う。


はい?

カミサマ?

約束??


「誰に何を約束したって!?」


おかしな単語が次々と出てきたことにより私は混乱する。目の前の“私“は何を言っているのだろう?


『まあまあ、落ち着いて。あのねーー』


と、“もう一人の私“が何かを話そうと口を開いた瞬間、私たちがいる真っ白な世界が光出した。


『あらら、どうやら“カミサマ”は待ってくれないみたいだね。しょうがないか。それとも、知られたくないのかな?』


驚いて混乱している私を他所に“もう一人の私“が冷静に顎に手を添え何やらブツブツ言っている。


『まあ、どちらにせよ。…あ、そういう事か…。

これは…。なかなか、だね』


何かに納得したように“もう一人の私“が悲しそうな顔をしたと思ったらいやらしくニヤッと笑った。


何、その顔。


「さっきから何をひとりで納得してるの?」


何も知らない“私“を他所に、何かを納得する“もう一人の私“。


『まあ、いいからいいから!とりあえず、行っておいで!』


と、立ち上がり、後ろから、

体を押され、話をそらされた。


「え……?」


まてまてまてい!!


「いやいや、いきなりそんな話されて行けって無理だから!」


私は、慌てながら振り向く。

それを見ていた“もう一人の私“は“私“の手を握る。



『大丈夫、大丈夫。“あたし”だから、何とかなるよ!きっとね。それに……』


と、一区切り打ち、優しく笑いながら、


『あたしができることはここまでだしね。私のアドバイスちゃんと役に立ててね!!』


「いや、できること、どころか何もしてないよね?ただ、私に“パラレル世界”にいけって言っただけだよね?それに、アドバイスされた覚えないんですけど?!」



そう言って目の前の“もう一人の私“はにこにこしながら握っていた手を離し、親指を立ててグッドサインをしてくる。


おい、こら。

何、役目を果たしました、見たいな笑顔してるんじゃい。綺麗に終わろうとしてるんじゃないわ!



『いや、よくあるじゃん。主人公が異世界行ってめっちゃ無双するやつ。それで行こう!』


「何、それで決定!見たいな話になってんの。そもそも、私には最強な能力も誰かを変えられるような力もないわ」


あはは、と笑う“もう一人の私“。

私、大丈夫なのか?心配で胃が痛くなってくる。

目の前の“もう一人の私“は目を細め少し俯く。


『大丈夫、ちゃんと今度こそ、“皆を助けられる…”』


まるで、自分に言い聞かせるように。



「え、ちょ、何の話?」


私の声を聞き、顔を上げる“もう一人の私“はイタズラをする子供のようにニヤリと笑う。嫌な予感。


『あ、そうそう一番大事なこと忘れてた。これを“ゼフィラ”様に渡して』


ーーチリン


それは綺麗な鈴。透き通った音にピンクを基調とした花柄の丸い鈴。何故か、目が離せなかった。


その鈴を片手で貰った時、急な浮遊感に襲われた。私の下に穴が空いたように、実際には眩しい光のせいでよく見えない。

ただ、そこが“パラレル世界”の入口なのだとわかった。


暖かい光に包まれ、眠くなってきた。

“もう一人の私“は最後に手を振る。

眩しい。

待って、まだ話したいことが、

て言うか、私、本当に何も知らないまま行くんですか!?

視界が真っ白になっていく中、

“もう一人の私“は言う。



『バイバイ、美彩(ミサ)!!』



それは、私の名前。

忘れかけてた、私の名前。

…………。

あー、もうダメ。眠い。ね…る……。

私たちのいた世界が崩れる。


最後に見た、その世界は透明に見えた。


そして、朦朧とした意識の中で考える。



カミサマ?

約束??

“皆を助けられる”??


一体なんの話しをしているの?

分からない。

なんで、私は…ここに…


ーーいるの?




ーーーーーーーーーー



懐中時計が壊れた。




ーーーーーーーー



ここから、私の物語が始まる。いや、“始まる”ではなくて“続き”が始まる、なのかな?

とにかく、なぜ、“もう一人の私“がこの“私”を“パラレル世界”なんかに送るのか、謎ばかり。しかも、適当だし。

強く握る手の中には、綺麗な鈴が一つ。


目を閉じ、祈る。


「願わくば、物語の主人公のようなご都合主義な展開が待っていますように」



そのまま、私は闇へと意識を落とした。



ーーーーーーーーーーー







「これより判決を下す!!この「愚の賢者の弟子」を王子暗殺の罪で、死刑と処す!!」




……。

え?

は?


ちょっと



「愚の賢者の弟子」って私のことですかー!!??





どうやら最初からピンチのようです。







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