47.供養って言うんですかねえ

 しめたひよこは、まず沸騰手前ふっとうてまえくらいのお湯を何回かくぐらせて、皮をやわらかくして羽毛をむしる。


 くちばしはそのままで良いが、脚先は切り落とし、腹をいて内臓を取る。


 手羽てばと脚を開くように形を整えたら、木の板の上で、包丁の背などを使って軽く叩いて、骨を砕く。


 小さな魚などと同じで、頭蓋骨もそれほど固くはないため、適当で良い。


 肛門から頭まで串を通し、むしり切れなかった羽毛や産毛うぶげ直火じかびで焼けば、下ごしらえの終了だ。


 一串に三羽ほどを刺し、魚醤コラトゥーラに砂糖、きざんだ香味野菜を混ぜたたれにけて、炭火と金網などを使って長めに焼く。適宜てきぎたれを表面に追加して、見た目が黒っぽくなるまで火を通して完成だ。


「あら、美味おいしい。かまを工夫すれば、食堂でも出せるかしらね」


「それなら一晩ほど、け置きすると良いな! 葡萄酒ぶどうしゅをまぜれば香りもつくし、平焼きピッツァみたいに生乳乾酪モッツァレラをのせても、きっと美味うまいよ!」


 ダニエラが、まあ、幸せな乙女の顔でピエトロに寄り添い、こんがりと焼かれたひよこを頭から丸かじりする。ピエトロは上衣のそでをまくり上げ、船上で陽焼ひやけしたたくましい身体が、自分まで炭火であぶられたようだった。


 ひよこがあまりに大量に持ち込まれたため、宿屋の前の通りに、煉瓦れんがで即席の炭火台を組み上げて、とにかくさばいたはしから焼いていた。


 朝から香ばしい煙が市街に流れ、集まってきた人に無料で配る。見た目に躊躇ちゅうちょした人も、一口かじれば顔をほころばせた。


「リヴィオ、エンリコさん、頭を叩きすぎないで。形が悪くなるし、脳みそもいい風味が出るんだから」


「お、おう! ええと、このくらい、かな」


「まあ、細けえことはいいだろ。おい、嬢ちゃん! もうすぐ一まとめ終わるぞ、持っていけ!」


「ま、待ちなさいよ! こっちだって、あちッ! ああ、もう! ジャズアルド! 出てきて火加減、調整しなさいよ!」


魔法アルテの無駄使いは、ひかえた方が良いです。乳房にわずかな縮小がうかがえます」


「言わなくて良いわよ、そんなことッ!」


 レナートが手際良くさばきながら指示を出し、リヴィオとエンリコが叩いて串に通す。


 最初に焼いていたのはピエトロだが、ダニエラが出てきてからは、なんだかんだとくっついて効率が落ちた。


 ロゼッタとマトリョーナが焼きの手伝いにかり出され、慣れない手つきながら、がんばっている。が高くなるにつれ、たまらず薄着になっていく二人の姿も、人を集めるのに貢献こうけんしていた。


「こういうのも、供養くようって言うんですかねえ」


『感謝します。食物として有用な死は、私たちのしゅ本懐ほんかいです』


 のんきに道端に座って、串焼きを食べているアルマンドの横で、怪雌鶏かいめんどりが頭を下げる。標準的な大きさに戻っているが、知能がある怪雌鶏かいめんどりのままだ。


「アルマンドには聞こえていませんよ。後で、リヴィオから伝えてもらいましょう」


「そいつ、言葉遣ことばづかいが難しいんだよなあ。なんとかならないの?」


「国立高等学校生の、気合きあいの見せどころですね」


 まだまだ叩き続けるリヴィオの背中に腰かけて、グリゼルダが笑う。やわらかい感触と、結構な体重を感じて、リヴィオがため息をついた。


 エンリコは鼻歌を歌いながら叩いて、時々ロゼッタを茶化している。リヴィオは小声で、怪雌鶏かいめんどりに話しかけた。


「別に、ここにいなくても良いんだぜ? 魔法アルテの影響は、そのうち消えるってロゼッタ言ってたし」


『理解しません。私はここにいることが、私の生死の価値を最大化する行動と考えます』


「まあ、卵を産んでくれるのはありがたいって、母さんもレナートも喜んでたけどさ」


排卵はいらんはもとより、飼育環境下で運動をひかえ、筋肉量を低くたもつことも食肉としての有用さと理解します。また、肉質の経年劣化けいねんれっか排卵頻度はいらんひんどを比較、食肉とする最適時期を決定することが最重要と考えます』


「いや、それ、自分のことだろ? なんで食われる気満々なんだよ……?」


しゅの生存戦略であり、同族と生死の価値を共有する矜持きょうじと考えます』


「……ごめん、もっと簡単に……」


 怪雌鶏かいめんどりの不思議そうな顔に、リヴィオはひよこ肉を叩きながら、うなだれた。

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