38.それで充分よ
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小さな子供たちも、若い恋人たちも、大人げない大人たちも、エンリコの
「
「さあ? 確かめようがないわよ。ジャズアルドは、自分からはなにも言わないし、あたしも聞かないしね」
マトリョーナに負けじと、
「あたしが死ぬまで、あたしだけの相棒。それで充分よ」
エンリコは片手で
ヴェルナスタ市街は北の端に、交易船の主要港がある。港には鮮やかな色合いで塗られた、
水深の深い
あの短い夏の日々に、駆け回った場所だ。奥に入れば、ささやかな常緑樹のある広場が見えるだろう。
ロゼッタは、大きく伸びをした。
目を閉じれば、いつでも思い出せる。それでいい。
「あら、お父さん。それに、ロゼッタさんとマトリョーナさんも」
「おうダニエラ、なんだ、こいつらと知り合いか?」
ロゼッタは、それどころではなかった。
「えええっ? エンリコじいさん、ダニエラさんのお父さんだったのっ? なによ、全然聞いてないわよ!」
「いや、そりゃあ……こっちこそ、おまえさんとダニエラが、どうつながってんだかわかりゃしねえよ」
「なんだよ、ロゼッタ。じいちゃんと知り合いだったの?」
ダニエラの横で、リヴィオがのんきな顔をする。他人のことは言えないが、リヴィオも仕事着の
そのリヴィオと、同じ官服のロゼッタとマトリョーナを見比べて、ダニエラの隣にいた別の男が目を輝かせた。
「ああ! お嬢さん方が、リヴィオのお世話になってるって言う、お仕事の……初めまして! リヴィオの父、ピエトロ=ヴィオラートです!」
陽気に大声を張り上げて、右手を顔の横につける。
船乗りの敬礼だ。
ロゼッタは仕事の先輩として、まともな
リヴィオの父、ピエトロはしげしげと二人を見て、リヴィオの肩を強く叩いた。
「意気込みは買う! けどな、やっぱり母さんが言うように、ちょっとまだ
「いや、だから違うって……息子の
「はっはっは! 一丁前の口をきくようになったなあ、ピエトロ坊主! おまえさんはどうなんだ? あちこちの港で、悪さなんかしとらんかったかね?」
「とんでもない! そっちこそ、女性客に色目なんて使ってないでしょうね、
リヴィオよりよっぽど子供っぽいエンリコとピエトロの言い合いに、ダニエラが
「あれ? ロゼッタもマトリョーナも出かけてるってことは、留守番はレナートとアルマンドの二人だけ?」
リヴィオが、思い出したように言う。
「そうだろうけど……なに、心配? 友達過保護ね」
「んー、レナートのやつ、最近いろいろ手厳しいからなあ。アルマンドのぐだぐだっぷりと、合わないような気がしてさ」
「まあ、そうね」
ロゼッタも同意する。アルマンドはどこ吹く風だろうが、レナートは
「じいちゃん、少し乗せてよ」
言うが早いか、水路のへりを飛び越えて、リヴィオが
「ちょ、ちょっとリヴィオ……!」
「家の近くに寄ってくれたら、降りるからさ。
「
「
「はっはっは、違いねえ!」
「やぶさかではありません」
エンリコとマトリョーナが混ぜ返す。いつの間にか、多数決では勝ち目のない状況だった。
「そんなわけで、俺、先に帰ってるからさ。父さんと母さんは、二人きりでゆっくりしなよ」
「おう! なんなら、今夜は帰らないかも知れないぞ!」
「あ、あなたっ? なに言って……っ!」
「非日常性、ってやつ? わかった。それなら、こっちはこっちでのんびりしてるよ」
男どもの
晴れた夏の昼下がり、水上都市を
あくび混じりに、
「母さんたちが帰って来ないなら、今夜は屋台の買い食いかな……
「それこそ、アルマンドに出させれば良いわよ。レナート一人に、全員分の料理をしてもらうのも申しわけないしね」
「俺はからっきしだけど、ロゼッタも料理、苦手なの?」
「丸焼きなら、得意なんだけどね」
「海の友達を召集しましょうか」
「それは
リヴィオと声がそろって、ロゼッタは笑った。笑えることが、誇らしかった。
新しい仲間と新しい自分、変わらない思い出と、美しい
〜 第三章
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