36.構いやしないわ
ロゼッタは二日後の朝、頭の熱さを自覚した。
フランカのいた寝台で、身体を起こす。重く感じた。
窓の
部屋の中は一人だった。モルガナも、バティスタの手伝いをしているのだろう。なんとなくわかる。
遺体はもちろん、この一帯の水、土、空気、植物、動物、虫、とにかくすべてを一つ一つ調べて、
「あたしには……間に合いそうも、ないかしら」
ロゼッタは苦笑して、寝台を降りた。
鈍い頭痛とめまいをこらえながら、衣服を脱ぎ捨てる。下着も脱いで、
肌は白かったが、右の内股に、風船のような
「あの時、
路地でフランカを抱いた時、この
自分で選んだ行動の結果だ。それだけは、わかっていた。
足の力が抜けた。床に尻をつけて、座り込んだ。
低くなったロゼッタの目線が、ふと、寝台の足元にうずくまった、小さな二つの目と合った。
「なによ……もう食べに来たの? 気が早いわね……!」
ロゼッタは腹が立って、脱いだまま転がしていた靴を片方、拾って投げた。
靴は何度か床を
おかしい、と、ロゼッタの意識に引っかかる。
ラウル、そう、ラウルが広場で素早く投げた小石は、
そんなはずはない。近づいて
「弱ってる……? 変なの……まだ焼かれてない食べ物が、いくらでも……」
おかしい、と、また引っかかる。
ラウルは
イレネオ、そう、イレネオは
「
増えた
すっごく大きい
普通の
ロゼッタは目の前の、黒く大きい、普通じゃない
小さな家の、小さな部屋の外では、バティスタとモルガナと、何人かの医療局の人間が作業していた。
急に飛び出してきた、裸のロゼッタに、全員が目を丸くする。そして内股の
ロゼッタも、同じように状況を理解した。
バティスタたちは、あきらめずに地道な調査を続けていた。医療局の一人が、
「違う……こっちが先……っ!」
ロゼッタは、つかんだ
「異国の
バティスタと医療局の人間が、鋭い目線を交わす。
モルガナが、裸のロゼッタを、包み込むように抱き上げた。老婦人とは思えないほど軽々と、しっかりと抱きしめる。
ロゼッタは素直に、身体の力を抜いた。頭痛とめまいを思い出した。
モルガナがロゼッタを元の部屋に運んで、そのまま寝台に座った。抱いた手を離さなかった。
「教えてくれて……本当にありがとう、ロゼッタちゃん」
モルガナはロゼッタに
「でも、女の子なのにちょっと、はしたなかったわね」
「……どうせ、すぐまっ黒になって死ぬんだから……構いやしないわ」
ロゼッタも苦笑した。
「だけど……みんなで、
「嫌よ」
モルガナが、子供のように唇をとがらせた。
「九歳が八十歳に、後をお願いするなんて、おかしいわ。あべこべよ」
モルガナが片手を伸ばす。いつの間にか、
「ここでがんばれなかったら、
「
ロゼッタのつぶやきに、モルガナが満面の笑みを返した。
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