32.お邪魔してごめんなさいね
朝から走り回って遊んで、昼食の
夏の
ロゼッタは大きく伸びをして、寝転がりたくなった。心地よくて、思わず手が動いて、
パメラとフランカが、小さな悲鳴を上げた。
物陰から大きな、まっ黒い
「びっくりした……すっごく大きい
フランカが、上ずった声で胸をなでおろす。横でラウルも、鼻を鳴らした。
「港にもいたぜ。交易船に忍び込んでた、異国の
「ちょ、ちょっとラウル! 変なこと言わないでよ!」
「なんだよ、船乗りになりたいんだろ?
「普通の
「大きくても小さくても、黒くても茶色でも、
からかうラウルに、パメラが口をとがらせる。ロゼッタもフランカも苦笑した。
気がつくとイレネオだけが、なんだか表情を
「異国の
「イレネオ、
「あ、いや、そうじゃなくて」
ロゼッタの謝罪に、イレネオが慌てて手を振った。
「東方の国なんかじゃ、
「そりゃあ、死んだ人間を食って増えるからだろ?」
「ラ、ラウル、あんたね……!」
「だからさ、こっちが先に食っちまえばいいんだよ。船が
珍しく腰が引けた感じのパメラに、ラウルが、調子に乗ってたたみかける。そろそろかな、と、ロゼッタがラウルに
「
「いてて……その言葉、卑怯だよな。言われたら、なにも返せなくなっちまう」
「発明した人は、きっと無神経な男に悩まされたのね。素晴らしい教訓、いえ、戦術訓だわ」
「せんじゅつ?」
「戦い方、この場合は相手の黙らせ方、ってことよ」
ひとしきり笑い合って、昼食も終えて、まだまだ遊ぶ勢いでロゼッタが腰を浮かせた時、不意に声をかけられた。
「お邪魔してごめんなさいね。あなたが、ロゼッタちゃんかしら?」
ロゼッタが声のした方を見ると、少し離れたところに、品の良い薄黄色の
雪のような白髪を
ロゼッタは警戒した。知らない顔だ。悪い人間ではないとしても、家の使いであるのは明白だった。
「おばあさん、誰?」
フランカが無邪気に言う。老婦人が、しゃがみ込んで目線を合わせた。
「ロゼッタちゃんのお父さんから頼まれて、迎えに来たの。モルガナ=ラ・トルレよ。よろしくね。ええと……」
「あたし、フランカ! あっちがイレネオお兄ちゃんとパメラちゃん、あっちがラウル!」
「俺だけ呼び捨てかよ……」
「まあ、ラウルだからね」
「ラウルなんだから当然よ!」
したり顔のイレネオとパメラ、うなだれるラウルを横目に、ロゼッタは、モルガナと名乗った老婦人から距離を取った。
気の毒だけど、言いなりになるつもりはない。こんなお年寄りを迎えによこすなんて、それこそいやらしい。
ロゼッタは隠す気もなく、表情に出した。モルガナが、フランカの前にしゃがみ込んだまま、また
モルガナは動く様子がなかったが、ロゼッタは、優しく手を握られた。
「え……?」
「ごめんなさいね」
フランカの前にしゃがんでいたはずのモルガナが消えて、ロゼッタの隣に立っていた。フランカも、イレネオもパメラもラウルも、目を丸くした。
「光の進み方をね、少しいじったのよ。私、手品師なの。今度みんなにも、いろいろ見せてあげるから、今日はロゼッタちゃんを連れ帰らせてちょうだいね」
ロゼッタは
手だけでなく、モルガナの表情も声も優しくて、振り払う気にならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます