31.素敵だわ
八年前のある夏の日、ロゼッタは同じように、エンリコの
上品な空色の一そろいを着て、赤毛を三つ編みにした九歳の一人客に、さすがのエンリコも思案顔だった。
「お金なら持ってるわ。一日、適当に流してちょうだい。どうせ家に帰らないわけにはいかないんだから、変な心配しないで」
「そうさなあ……じゃあ、
「あからさまな子供扱いは、不愉快ね」
ロゼッタは、赤い
「あえて言うなら乳脂系よ」
「よしきた!」
ほとんどゆれもなく、
「器用なものね」
「はっはっは、
「もう七十代ってこと? 若く見えるわ」
「細けえことはいいんだよ、お嬢ちゃん」
文字通り
まったく気にしていない様子で、エンリコが
まぶしい
深い
エンリコが
豪華な
「いい具合いだな。おーい、おまえたち! このお嬢ちゃんが、
「え……ええっ? ちょっと、なに勝手に……」
「船賃から抜いてくれよ。金銭ってのは、こうやって回さねえとな。血の巡りみてえなもんさ」
素直に目をきらきらさせて、見つめられたロゼッタの
「ああ、もう……わかったわよ!
「おっと。こいつは、してやられたな」
苦笑するエンリコを尻目に、ロゼッタは子供たちを引き連れて、先頭を切って
それからは、大騒ぎだった。
活発な八歳のラウルは、ロゼッタと似たような
イレネオとフランカは八歳と五歳の兄妹で、淡い金髪のくせ毛がおそろいだった。
パメラは砂色の髪を肩まで伸ばした七歳の女の子で、
昼も軽食屋の、
エンリコは、ロゼッタの家の前まで送ってくれた。
約束通り一日分の船賃を払おうとしても、
ロゼッタは言葉に甘えて、次の週末休日もエンリコの
広場で四人と遊んで、また次も、その次も、当然のように集まる友達同士になっていた。四人は服装も質素で、幼年学校もロゼッタとは別だったが、そんなことは誰も気にしなかった。
「なあ、新しくきた交易船の
「見たか、って……また学校を抜け出して、港に行ったの? 今度見つかったら、
「う、うるさいな! これも船乗りになるための、勉強だよ、勉強!」
いつものように興奮気味なラウルに、イレネオがため息をつく。フランカは断然、興味をひかれたようで、幼い顔を上気させた。
「へえ、すごいなあ! そんな動物、誰が買うのかなあ? 街で見られるかなあ?」
パメラはパメラで、こまっしゃくれた表情で
「なによ、ラウルったら。次に行くときは誘って、って言ったじゃない。船乗りの勉強なら、あたしだって負けてられないわよ」
「女は船乗りになれねえよ。なんたって、度胸と腕っぷしの世界だからな!」
「これからの交易は知識と技術が大切だって、イレネオ言ってたわ。そうよね?」
「え? ええと……」
勝気な二人にはさまれて、イレネオがしどろもどろになる。ロゼッタは笑いながら、間に入った。
「ラウルとパメラは、船乗りになりたいのね。素敵だわ。海を渡って、世界中の国に行けるなんて、
「ロゼッタのおうちは、お金持ちなんでしょ? ロゼッタもがんばれば、お船が買えるんじゃないの?」
小さいフランカが、夢一杯に目を輝かせる。こっそりとイレネオが、胸をなで下ろしていた。
「そうね。その時は、ラウルとパメラのどっちかが船長ね。イレネオとフランカも、手伝ってくれるかしら?」
「も、もちろんだよ。ラウルなんて海図もまともに読めないんだから、しっかり見ててあげないと、すぐに迷子だよ」
「パメラもちょっと慌てんぼだから、あたしが助けてあげるね! 安心してね!」
「イレネオ、おまえなあ……」
「フランカ、あんたね……」
ラウルとパメラが肩を落とす。ロゼッタは、吹き出すのをこらえるのが大変だった。
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