30.強いて選ぶなら果実系です
諜報員として潜入していたマトリョーナには、説明するまでもない。ヴェルナスタの最南端を構成する巨大な島は、蒸気機関で近代化された
「この手の雰囲気は、どの国も変わりませんね」
「まあ、特に最近は大変みたいよ。おとぎ話の登場人物みたいな
大航海時代に世界大戦に、とにかく船舶技術の発展は気の休まる
特に軍艦は、少し前まで鋼鉄張りの船体に可能な限りの大口径砲を積んだ大艦巨砲主義がもてはやされていたと思ったら、世界大戦が終わってみれば、航空機を
ヴェルナスタの特務局は、軍とは
「また呼ばれることもあるだろうから、案内はその時ね。用もないのに近づいたら、さすがにとっ捕まるわよ」
「それはそれで新しい快感に目覚めそうですが、
「長生きするわ、あんた」
食べ終わった
水路には、
白髪混じりの黒髪を短く刈って、
「なんだ、びしょ濡れか
しわの多い顔が、
「冗談にならないわよ。前から思ってたけど、そんな下品で、よく
「はっはっは、こう見えて結構、客受け良いんだぜ?
「エンリコさま。往路では確か、五十八歳とうかがいましたが」
「細けえことはいいんだよ、べっぴんさん」
マトリョーナを軽くいなして、エンリコじじいこと、エンリコ=コッポリーノ自称五十八歳が、
あきれ返った顔のロゼッタと、よくわかっていないような無表情のマトリョーナが、エンリコの
するり、と、
「次はどこに行くかね? ロゼッタ嬢ちゃん」
「任せるわ。この娘、特務局の新入りなのよ。ヴェルナスタ育ちじゃないから、街の裏表を一通り見せたいの。貸切料金は、役立たずの局長につけといて」
「一日仕事か。年寄りを働かすねえ」
「申しわけありません、お世話になります」
「なあに、いいってことよ! 客はみんな一期一会の恋人ってな。古女房の頼みで、べっぴんさんのお相手となりゃ、老骨にも気合いが入るってもんだ!」
「ちょっと! 誰が古女房よ?」
「おお。失言、失言」
エンリコが、のんきに
水上都市ヴェルナスタは、縦横に多くの水路が走っている。水路で
その昔、大陸の戦争から逃げてきた避難民が、
科学の発展で大砲の射程がのび、航空機まで戦争に使われるとなって、水上立地の利点は失われた。
それでもヴェルナスタ共和国は、海軍力と政治力、交易で
「どうせ市街のことも、いろいろ調べたんでしょうけど、まあ、ここほど
「ありがとうございます。では、
「はっはっは! そいつぁ、御存知なんてもんじゃねえな! 果実系と乳脂系は、どっちが好みかね?」
「
「……そういうことを言ったんじゃないんだけどね」
しわくちゃに崩れそうな笑顔と、
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