第三章 水上都市の悪霊
29.今日は静かですねえ
<
そんな季節の週末休日、アルマンドはいつものようにだらだらと、着崩した官服と寝ぐせ頭で遅い朝食を楽しんでいた。
「今日は静かですねえ。リヴィオくんも、ロゼッタさんたちも、お出かけですか?」
「ついでに言えば、ダニエラさんもです。ぼく一人で大変なんですから、早く食べ終わって下さいよ」
「いつものこととは言え、部下に冷たくあしらわれるのは辛いですねえ」
「だったら、他にまともな人をいくらでも
レナートが、
よく晴れた外の通りは、多くの人が行き交っている。判別はできなくとも、その中の何人かは、
さすがに政府の特務機関本部に、不特定多数の民間人が出入りするのは問題なので、ダニエラの宿屋は全室、ヴェルナスタ特務局が長期契約で借り上げていた。周辺地域にも、それとなく警備網が配置されている。
他の人間はともかく、レナートは<
現状の放免に近い処置は、アルマンドが無理を通したとしか、レナートには考えられなかった。
「
アルマンドの笑顔に、レナートは
「ぼくの役割はね、レナートくん。人を命がけの仕事に引き込んで、いざとなれば国のために死ね、と命令することです。ですから、好意は邪魔なんです」
アルマンドの厚い眼鏡が、少し角度を変えて、視線を隠した。
「ぼくのことが嫌いで、反抗する気も満々で……それでも、その命令が必要だと判断してくれた時、命をかけてもらいます。ぼくは国の正しさも自分の正しさも信じきれないので、その辺を、皆さんに丸投げします」
「……共和制の特殊工作機関なんて、成立しないと思いますけど」
「ヴェルナスタらしくて良いでしょう? レナートくんも、
「あと、まあ、これはちょっと大きな声では言えないんですが……レナートくんがいてくれると、
なるほど。嫌いというなら、自分の素質は充分だ。
レナートは冷ややかな目で、食卓の皿を、全部まとめて取り上げた。
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水上都市ヴェルナスタの市街は、北端にある交易船の主要港から、中心部を大きく
南端のやや手前で、今度は東西に流れるもう一本の
大陸内海は波が穏やかで風が
現在は観光用に整然と区画整備され、美しい人工の
「ここは楽園ですね」
「全裸はやめときなさい」
「……友達の踊り食いは」
「ちゃんとシメたのが屋台で売ってるから、そっちにしなさいよ」
ロゼッタの肩が落ちる。
マトリョーナの物言いは、短い金髪と、引き結んだ唇の堅い印象からは、だいぶ
二人とも同じ<
変装の必要がなくなったからか、マトリョーナの胸元は、今は豊満な存在感を誇示している。これで奇行に走られたら、たまったものではない。
自己申告によればマトリョーナは二十四歳、ロゼッタよりかなり年上で、背も高い。元ロセリア連邦陸軍の諜報員で、立派な大人だ。
なのに、さっそく買ってきた
二本買ってきた片方を差し出されて、ロゼッタも苦笑してかじりついた。少し
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