17.きっとそうなんですね
だが、感謝を
「
外国に逃げたって良い。二人きりで残された自分とガレアッツオだけは、せめて海に感謝など、強制される筋合いはないはずだ。
レナートは納得できなかった。
ガレアッツオが理解できなかった。
それでも、貴族として不自由なく育ったレナートが、一人で市街に飛び出したところで、できることはなかった。ただ水路の迷宮で、途方に暮れただけだった。
「なんだか
初めて出会った時のリヴィオは、もう造船所で雑用の仕事をしていた。
宿屋に連れられると、ダニエラはレナートを見て、すぐにいろいろ
ガレアッツオが宿屋に
日々は流れて、季節が自然に
レナートは夜中に、目を覚ました。
月明かりで、部屋がほのかに明るかった。窓を開けて、
街中が浮き立つこの時期になると、レナートは、自分だけが周囲から切り取られて、薄っぺらな
淡い
どれだけそうしていたのか、ふと気がつくと、遠くから音楽が聞こえた。
周囲の家に明かりはない。人通りもなく、その音楽以外、街は静まり返っていた。
芸術の定義は、知的活動の生産物で、
レナートは、この不思議な音楽に共鳴した。
見ていた夢のせいもあるのだろう。単調にささやくような
レナートは足音を忍ばせて、宿屋を出た。まばらな
だんだんと二人の
広場中央の、
男はレナートに気づいても、
レナートも、音が続いている間は二人が近くにいてくれるような気がして、黙って聞いていた。
月が、
「私の音楽を気に入ってくれる人は……悲しい人が多いんです。君も、きっとそうなんですね」
詩をささやくように、男が言った。
レナートは涙を流した。五年前に
男が演奏を止めて、レナートに歩み寄った。泣きながら見上げるレナートの
「悲しいのなら、悲しいままで良いんですよ。誰にも、わかってもらえなくても……あなたの心は、あなただけのものなのですから」
レナートは、あの日の約束を果たすように、オフィーリアとプリシッラに抱きしめられた気がした。
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