名前
わりとこの1年思ってきたこと。
息子にお友だちを紹介されたとき、なんとなーくお名前の漢字を想像するんだけど、それが的外れすぎて戸惑うことが多い。
今どきの子の名前の漢字、すごく難しい。文面で名前を聞いていたら、漢字が読めなくて戸惑ってしまうと思う。
「すいません、息子さんのお名前。他に漢字の読み方ありますか?」
図書館で貸し出しカードを作りに行ったとき、司書さんに聞かれた。こういうとき、ああわたしもまた今どきならではの検索の難しい漢字を当ててしまっているんだなあと改めて思う。
息子はどう思っているかわからないけど、わたしとしてはこういう質問を受けると、悪いことしたなあと思う。
それはなぜか。……わたし自身が、まさにその苦労を背負って生きてきたからだ。
わたしの名前は、今でこそわりとよく聞くようになったけど、当時は本当に珍しかった(わたしの住んでいた地域の中ではの話です)。
近所のひとたちはわかってくれているけれど、だいたい幼稚園や学校と通うようになって、どこからか赴任してきた先生たちからすると、本当にわたしの名前は漢字表記だと読めなかったらしい。
それが理由の一因となり、わたしは自分の名前が本当に嫌だった。何度も何度も父に母に、わたしの名前を変えてほしいと訴えた(なんなら、候補になっていた名前の方がはるかにわたし好みで、なぜそっちにしてくれなかったのだと言い募った)。
親の気持ち子知らず。今となっては末恐ろしいことをしていたなと思うけど、当時のわたしには由々しき問題だったのだ……。
小さい頃、名前を読み間違われること多かった。それだけでも嫌な気持ちになった。毎回毎回、訂正するのも憂鬱な気持ちだった。
「ごめんね」
そう言ってくれるひともいたけれど、そんなひとの存在を消し去るくらいには嫌な思い出が1つあって、今も鮮明に残っている。
小学4年生の頃。はじめて担任になった男の先生に出席をとられる。そして、ひとりずつ名前を呼ばれた。もちろん、そのわたしの名前は間違った読み仮名だった。訂正するもごめん、という謝罪はなかった。
それだけで、わたしは当時すごくモヤモヤとした。なのにその先生は知ってか知らずか、わたしの名前を使って揶揄うことが幾度もあった。
……本当に本当に、心底気分が悪かった。苛立ちと呆れた気持ちが強く残ってるけど、悲しい気持ちがあったが故だ。
親にもらった1番最初のプレゼントとかいうのもある。今ならそれは理解できる。
……でも子どものわたしは、どうにもそこの理解は追いついていなかった。
それでも、やっぱりそのひとをいちばんに表すもの(名前)だから、大事にしたいという気持ちがあった。少なくとも、わたしは他人に対してそうしてきた。……自分がそうされたかったから。
わたしが過ごしたあの教室のあった学校では、そのことに対して「嫌だ」と訴えることができなかった。そう思うわたしがおかしくて、わたしの名前を揶揄う先生やクラスメイトの方が普通、みたいな空気感があった。
時代なのかな?田舎だったから、地域的なもの?……今でもよくわからない。
やめて。そのひと言を言うことができなかったのは、その言い出したひとが担任の先生だったからだ。
だから、息子が学校から持ち帰ってきた『学校生活に関するアンケート』を持ち帰ってきたとき。そのプリントに、いやだなあと思うことに対する例題に、“先生に、友だちに嫌なあだ名で呼ばれた”という言葉を見つけたとき、わたしはすごく……言い方がおかしいけど、嬉しかった。
わたしが当時感じた嫌な気持ちは、否定しなくていいんだな、と。あのときには戻れないけど、嫌だと思ったわたしの気持ちは、消し去らなくていいんだなって。
両親にも、この出来事の話はしていない。
だからきっと、本当に名前を変えてほしいと願ったもっともと言えそうな理由を、彼らは知らない。
ただ、わたしが名前を気に入らなくて駄々をこねた、と思っていると思う。下手したら、もう覚えてすらいないかもしれない。それは別にいいんだけど。
惨めで、恥ずかしくて、悲しい。泣きたかった。
でも、そう思っていたわたしは情けないところを晒したくなくて、強がって静かに怒り、呆れてみせた。
あのときの幼いながらに自分の足で挫けぬよう立ち続けたわたしが、救われた気持ちだった。
そんなわたしが大人になり、子の親になってからは、それぞれの意見と考えを持つ子どもたちを守れるように、(よほどのことがない限り)その子たちの意見を尊重してあげられるように言葉をかけるようにしている。息子をはじめ、よその子に対してもそう。
思う気持ちがあって、でもそれを伝える言葉を行動を結びつけられなくて誤った言葉や行動になってしまっている子はたくさんいる。もしあしたらかつてのわたしのように、口をつぐみ沈黙を貫く子だっていると思う。
そういう子たちの気持ちを拾い上げられるようになりたいなと、していきたいなと思って、日々過ごしている。
ただ前年だけど、わたしは教員ではないし、なんなら地域に誰の心にも溶け込めるような積極性を持っていないから、それこそ手の届く知り合いの子たちだけになってしまうけど……。
でもだからこそ、いちばんはじめに手にする相手を示す名前だけは、きちんと間違えることなく大切に受け取りたいと思っている。
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