大人になるということ②
さてさて、前回のつづきを。
大人になるにつれて良かったこと、そうでないこと。まず、良かったこと。
わたしはずっと(まあ今でもそうなんだけれど)人付き合いが苦手。
幼少の頃はどうにもこだわりが強く、こうしておけば(言っておけば)、嫌われない。などと言った、自分の中で学び生み出したなんらかの定義のようなものがあった。
……今だから言えるのだけれど、わたしは人間が嫌いだった。
建前や礼節などと言った言葉で本心を隠す。……ちっぽけで、愚かで弱くて。なんて薄汚い生き物なんだろう、と。
そんな上っ面だけを取り繕ったひとを相手にするうちに、わたしはひとつひとつの人間の持つ感情を拾い上げることが嫌になってしまった。
そうは思いつつも、過疎化した田舎の地域で育ったわたしは女だ。
女特有の、意地汚いいじめはたぶん、大都会にあるそれとは少し……ちがう。
同じ地域に住む女=クラスメイト。
この図式が意味することは、たぶんもうお分かりだろうとは思う。
クラスメイトに嫌われたら。いじめられたら。ハブられたら。……それは、同じ地域に住む同級生の女たちにそうされるのと同義。
父の生まれ故郷に家を建てた両親は、新築のマイホームに浮かれている。
そんな時に、わたしがいじめられて学校に、地域にいづらいからといって、その地を離れられるかどうかと言えばーーそれは否だ。
幼いながらにそう感じたわたしは、とにかく目の敵にされることから逃げることを選んだ。
それこそが、先に書いた……定義。
嫌われないように。
踏み込みすぎないように。
かと言って、踏み込まれすぎないように。
ひとをあてにしないように。
そうやって、どことなく一線を置いて過ごしていたわたしは、人間の本質的な部分なんて見もしようとせず、安穏と暮らすことだけに執着し育った。
人付き合いに関して、自ら心を開けず歪な交友の仕方しかできなかったわたしは二十歳目前で一新した。ある友人と衝突したことがきっかけなのだけれど、それは追々。
それから恋人と結婚(今の夫)し息子を授かり。無償の愛をくれる夫に見守られ、わたしははじめて、息子ーーひとに、無償の愛を注ぐことができるようになった。
これが、わたしの大人への第一歩。
良かったことのひとつ。
これを機に、わたしの人との付き合い方が変わっていった。
自分を生み育てた両親意外のひとに甘えられるようになったわたしは、他人に甘えることをきを許すことを、受け止めてもらえることを知った。
そして今、少しずつ色んな人たちに心を開けるようになってきている。甘えられるようになったなってきている。
わたしは、強さを手に入れたんだと思う。
反面、大人になるにつれて失われつつあるもの。
子どもの頃の無垢さや弱さ、儚さ。
溢れんばかりの想像力に無邪気な気持ち。眩しいくらいの澄んだ目の輝き。
これらを失いはじめて、知った。
わたしもまた、わたしが嫌っていた人間であること。
……何を今さら、って思いますよね。ほんとそう。
わたしが嫌だと思っていた人間こそが自分だった。そのことにひどく悲しくなったのは記憶にまだ、新しい。
自分は何か特別だと思っていたかったのかもしれない。子どもながらに、なんて高飛車な思考を持っていたんだろうと気が付いた。
とんでもない子どもだよね(苦笑)。
守る強さを手にして、わたしにはかけがえのなく見えていたきらきらと輝くものたちの魅力を感じられなくなっていることに気がついて……正直悲しかった。
わたしだけに見えていた世界が、失われてゆく。
それは浜辺に作った砂の城のようにさらさらと崩れ落ち風に溶けて行くようにも見えた。
新しく見えるようになった世界も魅力的だけれど、ずっとわたしを包んでくれていた世界が遠くなっていくように感じてしまうのは、やっぱり悲しい。
でもだからこそ、わたしは今、物語を書いている。
消えないでと願うように。
確かにあったその景色を残せるように。
世の人たちは、こう言った景色から難なく翔けてすごいなあと思う。
わたしは昇る新たな世界へとつながる階段が目の前にあるのに、たたらを踏んでずっとずっと、うだうだとその場に踏みとどまっているのに。
誤解をされるといけないから、一応。
わたし、今は人間がすきです。
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