最終話 デンたんとクーちゃん
あれから一週間が経って……。
「右に行ったぞ、クーちゃん!」
病室に繋げたノートPCを操作しながら、オレがクリス社長に指示を送る。
「わかった。任せろデンたん!」
壁際まで追い込んだラスボスを、クリス社長が仕留めた。
「イエーイ!」
オレとクリス社長が、ハイタッチする。
オレは今、クリス社長と二人で『幻想神話』に興じていた。
相変わらず無策で突っ込むクリス社長を、オレはサポートしていた。
「ようやく、ラスボスをやっつけたぞ。感無量だな!」
「スマン、クーちゃん。オレの回復がもっと早ければ」
実は、オレはまだ通院中である。
引っ越しを終えてから挑もうと言ったのだが、待ちきれないということで付き添ったのである。
オレが詫びると、クーちゃんは「気にするな」と言ってくれた。
「それにしても、元気になってよかった」
傷が塞がりきるまで安静にしていろと、医者には言われている。
今から三日前に、オレは意識が回復した。
クリス社長は、オレをずっと看病していたらしい。新会社の手続きさえ、ほったらかして。
そこで、ようやくオレにもわかった。一人ぼっちで死ぬのは辛いんだと。そばにいてほしいのは、クリス社長だったって。
それは、社長も同様だったという。
呼び方も、二人で決めて変えた。交際しているんだから、下の名前を呼び合うことにしたのである。
オレが「
飯塚社長が「クリス」だから、「クーちゃん」となった。
これまでは、どっちも名字をもじって「ハナちゃん」と「イーさん」だったからな。
退院後、オレたちは新居に引っ越した。
現在、二人は同じ部屋で暮らしている。
つまり、結婚したのだ。
「二人の生活が、いよいよ始まるのだな」
コントローラーを置いて、クーちゃんが周りを眺める。
「クーちゃんの部屋へ、オレの荷物を移しただけなんだけどな」
引っ越し作業を途中で放り出してもゲームをするとか、オレたちらしい。
クリス社長は、社長業を続ける。
対して、オレは仕事をやめた。仕事を極力減らし、今後は主夫に専念する。家で、クーちゃんをサポートするのだ。
色々話し合ったが、それがベストだと結論づけた。
「デンたん!」
クーちゃんが、両手を広げる。
「おう、クーちゃん!」
オレは、クーちゃんの胸へ飛び込もうとした。
そこへ、玄関をノックする音が。
「おいバカップル共、デリイーツっすよ」
呆れた様子で、マヒルちゃんが面会に来てくれた。いつものライダースーツだ。懐かしいデリイーツのボックスを背負っている。
「あれ、イーツのバイトに復帰したのか?」
「違うっす。今日だけっすよ」
元バイト先のツテを頼って、特別に食事を用意したという。
「ずっと、病院食ばっかだったっしょ? おまたせ」
マヒルちゃんがイーツのボックスから出したのは、ラーメンである。しかも、オレとクーちゃんがデートしたときに食べたものだ。
「わーありがとう! ニクい演出をするなあ、マヒルちゃんは」
「ホントは、煮干しラーメンを持ってきたかったんすけど、遠いんで」
北陸だもんね。
「アツアツだな。冷めないうちに」
また、クーちゃんが「あーん」してきた。
「うーん、うまい! クーちゃんも食べて食べて。はいあーん」
お返しで、オレもクーちゃんに食べさせた。
一杯のラーメンを、クーちゃんとシェアする。
「ありがとうデンたん。傷が完全に塞がったら、また食べに行こう!」
「だな! そのためにも精をつけるぜ」
空になった容器を回収し、マヒルちゃんは「じゃっ」と帰っていく。
イーツのボックスを返したら、またツーリングだそうだ。
北陸へ、煮干しラーメンを求めるという。
「騒がしい子だなぁ」
「相変わらずだ。彼女みたいな活発な子がいたから、私も勇気が持てた」
「どういうことだ?」
「温泉のとき、『行ってこい』って私に告げたのは、マヒルちゃんなんだ」
なるほど、そういう経緯が。
「といっても、私が丸裸で入浴したって聞いたときは、『何考えてんだ!?』って目を丸くしていたぞ」
二人して、バカ笑いをしてしまった。
収まった後、またしんみりする。
「もう、目が覚めないんだと思った」
「うん。オレも、このまま一人で死ぬんだなって思った」
嫌だって思った。
このまま死にたくないと。
クーちゃんを置いて、逝きたくはなかった。
「ごめんな。病室でプロポーズなんて」
「いいんだ。そういうのが、私たちらしい」
死に損なって、やっとわかったんだ。
本当に大切なのは、クーちゃんなんだって。
「オレは、なにもない。これから先も、オレは何もなし得ないと思う」
「キミはそれでいいんだ。他人と比較するなよ。私の中で、デンたんはデンたんだ」
「ありがとう。だからオレ、精一杯クーちゃんをサポートするよ。だから……」
「はい」
「いや気が早いって!」
エスパーかっ!
「こほん。えっと、その……これからもよろしく。クーちゃん」
「はい。お願いします。デンたん」
結婚は、レバガチャで解決できるわけじゃない。
しかし、攻略法だってないんだ。自分で解決しなきゃ。
それでも、オレたちなら。
「好きです、
「オレもだよ、
まだ、遠慮がある。
けれど、お利口さんな恋愛なんて、オレたちにはきっと似合わない。
レバガチャで、最後までいく。
「あーもう。湿っぽいのはやめだ。デンたん! ゲームしよう」
「次はなんのゲームをやろっか、クーちゃん?」
オレたちはまだ、スタートボタンを押したばかりだ。
(おしまい)
カリスマ女社長から「キミしかいないんだ」とせがまれて、月収三〇万でポンコツ美人社長のゲームコーチに配属された。これは辞令ですか? 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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