吸血鬼の皇子の力

…カミュは次第に苛立ちを見せ始めていた。


現在いる場所が敵地であることは、既に百も承知だが、それ故に侵入者を阻もうとする雑魚が、しつこくも次から次へと現れる。


例え雑魚でも、数を相手にしていればそれなりに疲労も見えてくる。


もう何百人と対峙したか、それすら意識したくもないほどに不機嫌な状態を露にしたカミュは、次第に己の苛立ちを魔力に上乗せして攻撃していた。


が、やがて業が煮えたのか、今までの比ではない威力の魔力を、自らの中で構成し、放つ。


「──いい加減にしろ、雑魚共が!

いつまで俺の邪魔をするつもりだ!」


鋭い怒声と共に周囲の敵を、声をあげる間もなく消し飛ばしたカミュは、その威力に怯んだ部隊長格の青年の首を、瞬間、片手で押さえ付けると、そのままその体を持ち上げた。


その速さに驚愕し、しかしなおそれを上回って唐突に与えられた苦しさに、思わず青年が呻くことにも構わず、カミュは血に飢えてより紫が濃くなった、その宝石のような瞳を向けた。


「…この世界のどこかに、ヴァルディアスが捕えてきた女がいるはずだ。

答えろ。その女は今、どこにいる?」

「!…し、知るものか…!」


青年が息も絶え絶えに答えると、カミュは青年を捕えたその手に、地獄の業火を思わせるような、凄まじい威力の魔力を発動させた。


──瞬間、何かが沸騰するような音と共に、肉が焼けるような匂いが辺りに漂う。


カミュによって喉の皮膚を焼かれた青年は、そのあまりの熱さに、焼けただれた喉を押さえ、地に向かって声を限りに吠えた。


「!…ぐう…ぅ…うぅう…、あ…、あぅ…!」


それはまさに獣の唸り。

声と共に自らの絶望をも吐き出す青年を冷たく見下ろして、カミュは殊更冷たく呟いた。


「声帯は残してある。話すことは可能なはずだ…

その喉、焼き潰されたくなければ…今度こそ素直に吐くんだな」

「!…」


青年の顔が、言いようのない恐怖に青ざめた。

同時に、塵も残さず消滅させられた、己の部下の姿が脳裏をよぎる。


青年は仕方なく話し始めた。


「…お、女は…、今も陛下と共に…」

「…、そうか…」


カミュは、青年を押さえ込んでいた手をわずかに緩め、その足を地に着けさせた。


解放されるのかと、思わず安堵しかけた青年に、カミュは蔑むように嘲笑うと…


そのまま瞬時に、魔力によって彼を灰にする。


「!…」


青年は、断末魔の叫び声をあげる間もなく息絶えた。


…道に通る風に流され、何処へともなく飛ばされて行くそれを、カミュは一切の感情を見せることなく、ただ無表情に見やった。



…殺めることは何よりも容易い。

だが、それに意味があるのかどうかまでは分からない。



当然のようにある命を、当然のように刈り取れる力を持つ存在。

それが自分。

だが──



いつもそうだ。それで満たされたことはない。

ただの虚しさだけが己を占める。

心にまたひとつ、空虚な穴が開くだけだ…



我知らず考え込み、目を伏せていたカミュは、ふと、自らの視線の先を意図的に見据えると…

再びその歩を進めて行った。

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