非情な真実

「…私にも、貴方のお祖父様が言った意味が分かったわ」

「? …どうして、凛には分かるんだ?」


不思議そうに累世が尋ねる。が、凛はそれには答えず、曖昧に事を濁すと、ライセに話しかけた。


「…、ライセ、話してもいい?」

「ああ。間違った箇所があれば訂正してやろう」


ライセは挑戦的に微笑むと、凛を促した。

それに凛は、累世の様子を窺いながら先を続ける。


「…累世、今までのことを、よく思い返してみて。

彼は人工生命体で、“ヴァルディアスそのもの”でもあるということよね?」

「…ああ」


累世が、ヴェイルスの方を気にし、見やりながら頷く。


「じゃあ、どうして外見が変わってしまったのか、分かる?」

「…、何を今更…」


事情をついさっき説明したにも関わらず、何故、今頃こんな質問が出てくるのか。

…話した以上は、既に分かりきっているだけの知識だというのに。


「唯香の…血と魔力を使ったからだろう?」

「その事実だけに捉われていては駄目よ。…それだけで見た目って、こうも簡単に変わるものなの?」

「!」


…言われてみれば確かにそうだ。


ヴァルディアスには確かに強力な魔力がある。…だが魔力による媒体だけで、このような変化が可能であるとは思えない。


魔力と血を使った…、つまり内面が変化するなら分かる。だが、外見が変化を遂げたということは──


累世は遅まきながらそれに気付いた。

今度こそ更なる焦りを覚えて尋ねる。


「どういうことなんだ!? 凛!」

「それは…」


さすがに話すのが躊躇われるのか、凛が言葉に詰まった。

すると、それを見かねたライセが、よほど話すのが不本意であるのか、これ以上ない程の渋面で口を挟んだ。


「──こいつはあくまで、ヴァルディアスの魔力のストックに過ぎないということだ」

「!」


累世も驚いたが、それ以上に驚愕したのは、他でもないヴェイルスだった。

苦痛により震える身を更に震わせ、その声にも、酷い恐れが加わる。


「…俺…が?」

「そう…、累世の話にも出てきていただろう?

お前はヴァルディアスの魔力“そのもの”だ。

いや、奴の魔力が人の形をとっていると言った方が的確だろう。

…人工生命体だとか言う吹き込みは、お前を欺くためにヴァルディアスが作り上げた…

いわばお前に対する、隠れ蓑だ」

「!つまり…俺は、生物ですら…ないと…!?」

「──だから“救うだけ無駄だ”ということなんだろう」


ライセは、残酷だとは思いつつ、その真実をはっきりと口にした。

…みるみるうちに、累世の顔色が青ざめる。


「!そんな…、それは何かの間違いだ!」

「…酷なようだが…

認めろ、ルイセ。それが真実だ。

でなければあの方が、俺に訊けなどと回りくどいことを言うと思うか?」

「!…」


ライセは累世に対して、一言の反論も許さなかった。

累世自身が認めなくとも、それが他ならぬ真実であるからだ。



…例え累世が否定しても、真実を求めたのは、その当の累世本人。

であれば、事実を歪めることこそが嘘になってしまう。



虚偽を話したところで、いつかは味わわなければならない痛みが、一時、遠のくだけだ。


「あの方の言葉は、この事実を示唆していた。

だが、己が話したところで、到底お前は聞き入れないと踏んだに違いない。

…現に、俺に対してもこの状態なんだからな」


ライセがわずかに肩を竦めると、累世は跋の悪い表情で黙りこむ。



…さすがに祖父は自分を理解していた。



確かに、サヴァイスの口から言われたのでは、魔力があって治すのが可能なだけに、そちらにばかり気をとられて反発を繰り返していただろう。


だが、それを見越した祖父は、この件に関しては第三者であり、自分の兄にあたるライセの口からその事実を宣告することによって、同時に彼の言葉通り、“頭を冷やさせた”のだ。


これに対しては、もはや自らの精神の未熟さを認めるしかない。



…敵うわけもない。



それに対して、ライセもその事実に基づいた考えを進めていた。


だがその考えは、いかに好転させようとも叶わないもの…

累世にとっても、そして当事者のヴェイルスにとっても──

到底良い結果とは言えない、最悪の想像しか生み出せなかった。





→TO BE CONTINUED…

NEXT:†闇の継承†

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