†終焉の足音†

…その時は、徐々に近付いてくる…

…累世が、自らの元を去った後…


累世の、自他共に認める幼なじみの少女・緋藤凛ひどうりんは、そんな累世の後を追うことも叶わず、ただ、その場に立ち尽くしていた。


微かに冷たくなりかけた夕方の風が、静かに凛の紅髪を撫でていく。

それが徐々に、より冷たいものへと変わっていっても…

凛は累世が姿を消した場所から、一度たりとも目を離すことは出来なかった。


「…累世…」


不安げに漏れる声は、もはや幼なじみの心配の域を越えたことを示しているかのようで──

それはひどく不安定なものであり、それでいて例えようのない、深い慈悲がこもっていた。


しばらくの間、そうしていることで、凛の意識が、少しずつながら現実へと引き戻されてきたのか…

凛は、諦めたように軽く息をつくと、仕方なく身を翻し、元いた家の中へと戻ろうとした。


そんな凛に、背後から、何かに思いつめたような少年の声がかかる。


「──凛…!」


それは明らかに累世のものではないと、分かってはいても…

それでも凛は、反射的にそちらを振り返っていた。


凛のその視線の先には、やはり通う学校が異なったため、最近では滅多に会うこともなくなっていた…

自分同様、累世の幼なじみである二人組・安藤恭一あんどうきょういちと、日向夏紀ひゅうがなつきがいた。


凛は、そんな二人が突然揃って姿を見せたことで、一時は素直に喜んだ。


「──恭一! それに、夏紀も…!」

「…ああ。元気そうだな凛」


恭一は、恐らくこちらの反応を意識してのことだろう…

極めてにこやかに笑いかけたが、その中にもどこか寂しさが覗いたことを、敏感な凛は見逃さなかった。

その視線を夏紀に移せば、夏紀も同様に、虚ろう自らの目のやり場に困ったかのように、視線を伏せるかの如く、ずらしている。


「……?」


…どうも様子がおかしい。

少なくともこれは、久しぶりに会ったはずの幼なじみへ向ける反応ではない。

それに、何よりも、いきなり二人揃ってここを訪れたことにも引っかかる…!


「突然、連絡無しに家に来るなんて…、どうしたの? 二人共」

「……」


凛が尋ねても、二人は顔を見合わせるばかりで、ひたすら黙りを続けている。


それは、話をしたくても、“それをどう切り出したらよいのか分からない”──

凛の瞳には、そのように見えた。


同時に、自らも気にかかったことが、脳裏をよぎる。


「…まさか…、累…世?」


意識せず、心で思ったことが口をつく。

それに恭一と夏紀は、分かりやすい位に感情を露にした。


「!凛…、何か知っているのか!?」


滅多なことでは声など荒げることのない夏紀が、焦りを隠せずに声をあげる。

そして、一見、無鉄砲なようでいて、そのくせ中身は反比例したかのように慎重であるはずの恭一ですらも、この凛の意外な反応には、夏紀と同様に、深い驚きを隠せなかった。


そんな二人の反応を目のあたりにした凛は、不意に何らかの確信を強めた。


「累世に…何かあったのね?」


…自ら分かっていながら。

それでも凛は問いかけていた。



──その時、問うていたのは…

もしかしたら自分自身にであったのかも知れない。



この時の凛の瞳には、尋ね返したことによって、何かを直感的に危惧したらしい幼なじみ二人の姿は、もはや映し出されてはいなかった。

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