4 えっ、私のステータス、低すぎ!?
指揮LV1、指導LV1……その文字列は私の心を打ちのめした。
指揮はわかるよ。戦闘指揮ということなら、ここに来てからしかやってないんだから。でも、指導もLV1だなんて。これでも新人とはいえ教師なのに!
それと、ばらつきはあるとは言え成長しているっぽい子供たちのステータスに比べて、ぶっちぎりで低い数字が非常に心に刺さる。
泣きそう。いや、もう異世界に来た時点からちょっと泣きそうだったけど。
「先生、このSTRとかって、どんな意味?」
こういうとき、学生時代にTRPGやりまくってた私のゲーム知識が唸るよ! ちょうど説明しないとって思ってたしね!
「HPはわかる子もいるかな、ヒットポイント、つまり生命力……傷を受けたりしたら減っていって、これが0になったらやばいぞーってやつね。STRっていうのは、ストレングス、力の強さ。VITはバイタリティ、生命力。HPの伸び方に関係したりすることもあるね。AGIはアジリティ、素早さ。DEXはデクステリティ、器用さ。多分、これが高いと椅子を投げたときに当たりやすいとかあるんじゃないかな」
自分のステータスを見ながら解説したけど、結構最低限のステータス構成で、MPや
INTなんてあった日には、そこを比べて大騒ぎになってしまう……。しかも絶対私がぶっちぎり低くて、そんな事になったら立ち直れないぞ。
手帳をリュックから出して、私は子供たちからステータスの聞き取りをした。終わった途端にまたモンスターの襲撃があってレベルが上がってしまい、危ないところだった。比較というのは条件が同じでないと成り立たないから。
しみじみ見比べてみると、最小値は言わずもがな私の13なんだけど、各項目の最大値はLV12の時点で35で間違いないみたいだった。
HPは
友仁くんなんか全体的に高いのでは? と思っていたけども、AGIとDEXが低めなのが意外だったし、ざっと見た限り「全部が低い」は私だけで、「全部が高い」はいなかった。「全部の項目が平均的」という子ももちろんいる。
……子供たちに対しては親切設計だけど、私に対しては厳しいな……この世界のシステムは。
各項目が最大値だったのは、HPが芽依ちゃんの91、STRが友仁くん、VITも芽依ちゃん、AGIが
なんとなく、傾向がわかった。うん、担任だもの。
というか、日常そのまんまだ。桂太郎くんも凛ちゃんも、手先が器用。楓ちゃんは足が速い。芽依ちゃんは学区の一番遠いところに家があるのに、毎日元気に風邪も引かずに登校してる。友仁くんは力が強い。
単純に子供たちの持っている特性を数値化した物だ。私に厳しいのは意味がわからないけども。戦闘に参加していないってことなら、桂太郎くんも参加はしていないんだけどなー。
「せんせー、また来た!」
思考に沈んでいた私を、凛ちゃんの声が引き戻す。
「うえっ!?」
思わず変な声が出てしまった。遠くからでも見えるその巨躯は、転移してきてから僅かな間に戦闘を重ねてきた私たちですら
それは巨人、と言うべきだろうか。明らかに今までのモンスターとは大きさが違う。ボサボサの長髪を振り乱して、簡素な革鎧を身につけた巨人がこちらに向かって駆けてくる。
それが近づくにつれて、地響きすら聞こえてきた。
「ヴォアアアアアアアアアア!!」
棍棒を振り上げた巨人の雄叫びに、子供たちから悲鳴が上がる。
一瞬にして、みんな理解してしまったんだ。――今までのモンスターとは格が違う、って。
まだ距離があるはずなのに、その乱杭歯の隙間からよだれが垂れているのが見えた。
あれは子供たちを食べるつもりだ。人間を食べる習性があるモンスターなのかもしれない。きっとこちらのことは柔らかそうな肉くらいに見えているんだろう。
――オーガ、と私の頭の片隅でそれらの特徴に一致するものの名前が浮かび上がる。
「怖いよぉ」
「やだー、来ないでー!」
今まで戦えていた子供たちまで、怯えて後ずさった。
その時、ひとりの男子が叫び声を上げながら前に出ていった。蛮勇としか言いようのない行為だったけど、その時の彼はまさしく「ヒーロー」だった。
「うわあああああああ!! みんなのことは、俺が、俺が守る!! だからみんなの力を俺にくれー!」
「友仁くん!?」
私は慌てて彼を止めようとしたけども、仁王立ちになって手を天に向けて突き上げている友仁くんの迫力に圧倒されてしまった。
伸ばした手で、友仁くんを引き戻すことが出来ない。引き戻したって、オーガの脅威から私ひとりではみんなを守ることが出来ない――瞬時の葛藤の後、後ろにいた子供たちの間から声が上がった。
「ともひとー!」
「友仁、頑張れー!」
「友仁くん! お願い! 頑張って!」
湧き上がる友仁コール。最初は小さかったそれは、あっという間に大きな波になった。
もはやオーガはその棍棒が友仁くんに届く位置まで迫っていた。私が悲鳴を飲み込んだその時、力強い声が響く。
「椅子、召喚!! 行っけー!」
まさに棍棒が振り下ろされようとした瞬間、友仁くんが椅子を投げた。見る間にそれは巨大化して、オーガと同じくらいの大きさになって激突する。
もわもわと白い煙がオーガを覆い尽くした。棍棒は、振り下ろされることはなかった。
そして、煙が消えたとき、そこにオーガの姿はなかった。
「やったー!」
「友仁、すげー!」
恐怖から一転して興奮が子供たちを支配していた。友仁くんはガッツポーズでそれに応えている。
「と、ともひとくん……」
私は力の抜けた足でなんとか彼に歩み寄ると、その肩を掴んだ。褒めるためじゃなくて、叱るために。
「駄目だよ、ひとりで戦おうとしたら! 勝てたから良かったけど、あのでっかい棍棒で友仁くんが殴られてたかもしれないんだよ!? 先生が戦えなくて、みんなを守れないのが一番いけないけど、ひとりで前に出ちゃ駄目!」
安堵でぼろぼろと涙が出た。友仁くんが無事で良かった――それでわあわあと私は泣きながら彼を抱きしめる。
「先生、ごめん。でも大丈夫だったんだよ。俺、ひとりで戦ってなかったもん。みんなの力がぐわーって来たのがわかったんだ。みんなが怖がってたから、俺は動けるから戦わなきゃ、って思った。そうしたら、パワーが湧いてきた!」
「でも、でもひとりで戦うのは駄目! もうしないで!」
「友仁ー、先生のこと泣かしたー」
太一くんの声がはやし立てる。私は友仁くんを解放すると袖で涙を拭いて、集まってる子供たちの方を向いた。
「ごめんね、先生戦えなくて。先生がみんなを守らないといけないのに」
「大丈夫、大丈夫だよ、先生」
「友仁くんも言ってるよ、みんなで戦ってるんだって」
「うん、先生も一緒に戦ってるんだよ」
「先生がいなかったら、もっともっと怖いよ。先生がいるから大丈夫なの」
「うん……うん、ありがとう、みんな。先生も先生1年生だから、みんなと一緒に成長するね」
子供たちの優しさに涙が止まらない。
この子たちを守るために、私も戦うんだ。みんなで戦うんだ!
……なんて感動していたら、男子の暢気な声が聞こえた。
「せんせー、毛布が出たよー」
「もうふ」
顔を上げると、確かにオーガが消えた後のコンテナにはたくさんの毛布が詰まっていた。
時刻は夕方に近づいて、そろそろ寝ることを考えなければいけないけど……。
ここで、毛布で野宿しろって事かな?
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