#31 一つの事を極めると周りが見えなくなるのは良くあることだよね


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――レージ様・・・。あの方が圧倒的に押される光景を、此処まであったのか・・・。


「え?ええ・・・??」

「あ・・ああ・・・」

「ウッソでしょ・・ちょっと・・・マジヤバいんじゃない?」


「あの動きは・・・一体・・・?」


――ダルダさんは畑違いで茫然としており、ミスティアは絶句。そしてハルーラさんは色々意味が取れる事を呟いた・・・。ヴィラさんは同じ前衛であるが故に黒騎士の挙動を疑問視していた。


「ネイア・・・貴女の見解は?」


「私は・・・」


――レージ様を圧倒する黒騎士の挙動、その挙動に置いて・・・。何となく霧の掛かった疑念があった。


「あの黒騎士様は・・・レージ様に対して据え置いた敵だと思います・・・」

「どういう事・・・?」


――間合いの取り方から剣撃、身体格闘技、挙動と間合いの取り方・・・。その動きに見覚えがあった、しかしそれが結び着く事が・・・不思議と出来ず。モヤっとした感情が苛立ちを沸かせてしまう。


「黒騎士の動きは全てにおいてレージ様に対して、いえレージ様の気質を見抜いている様な・・そんな印象を持ちます・・・。」


――そう・・・レージ様とはにても似つかぬ挙動あるがその根幹は・・・同じ・・・。


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――やはり・・・魔獣慣れすると陥りやすい・・・対騎士との戦闘経験不足・・・。まぁ元々騎士って言う奴は魔獣殺しの専門家だ・・・。それ故に同じ騎士との戦いは軽視される・・・。

――コイツの特性を逆手にとって、考えたこの戦い方・・・試しにアイツとの立ち合いに使ってみて。色々と大正解だ・・・。


「この黒革の鎧と黒兜・・・装着して魔脈を活性化すると、周りの人は知覚阻害を促す『呪印』が発言するわ・・ただ・・・装着者は副作用で全身には重圧的なマイナス作用を及ぼし。肉体に負荷がかかる・・・その対策は・・・」


――嫁の言葉に黒髪の藪医者がいう。


「あの子が手紙で送った『身体強化』『五感強化』・・・コイツは治癒魔法の『魔脈点』からの応用・・・『魔脈点』を刺激し筋力繊維の零細魔脈を賦活ふかつをする事で、自己的に上乗せ・・・けどまぁこいつは、微細な魔力のコントロールが必要な上に枯れ木の身体じゃぁ。自傷しかねない・・・アンタならそんな事チョロいか?」


――藪医者の言葉は随分といい加減だが、実際は結構キツイ。

――なまじ、知覚を阻害する事に伴う副作用を力技でねじ伏せているのだ。そして、それ逆手に取る事でこの鎧のモノにしている。

――まぁ、俺からすれば常識外れの修行方法だ・・・。


「『身体強化』・・・この装備品と並行作用には打って付けだな・・・それに・・『身体強化』と言う魔法に対して、体に慣らす為にもいい機会だ。」


――そう・・・俺は常に『身体強化』の効果で通常に引き上げており・・・。そこから『身体強化』自体の作用を魔法力で調整をしている・・・


――先の魔族の戦闘で見知った特性を鑑みれば・・・いずれ必要になる。

――お前が此処で何かつかめなければ・・・あの上位魔族の連中には打ち勝てないぞ・・・。


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蹴りからの横一閃。回し蹴りからの唐竹・・・。宙返りからのかかと落とし・・・。肘鉄からの剣撃・・・剣戟と体術の応酬は一方的に俺が貰いまくっていた。


奴の緩急の動きで残像が帯び、翻弄され・・・俺の着衣は斬撃でズタボロと化していた。密着による拳打蹴り技で顔はボッコボコ・・・お・・思い出す・・。


やっべぇ・・・ボッコボコ・・・父さんの稽古以来だ・・・。世の中おっかねぇ奴がいるもんだ・・・。

思わず笑う・・・。それを黒騎士が知る。


「ほう・・笑う余裕があるか・・・」


「昔、俺に剣術を教えると言ってボッコボコにされて母さんがガチギレした事があってね・・へへへ・・思い出した・・・」


その答えに「ふっ」と言って奴は踏み込む・・・。腰の入った溜めの無い剣閃。

おっそろしい程鈍い動きからの剣撃の異常さは・・・その正体は前世の記憶にあった・・・。


ガキィ!!


落ち着け・・・確かにこの緩急の異常さは・・・『アルマ』・・・だとすりゃぁ・・。

奴はワザと鈍い動きからの鋭い剣撃の振りを仕掛ける・・・。その落差によって想像以上に速く見える・・・。黒騎士の剣術の正体は更にそれをリアルでやるのだ・・・。

その瞬発を勘付けば・・・。


「クッ・・・お・・・」


「ん?!」


ヒョボッ・・・ゴッ


攻撃の波と呼吸は身体戦闘術のキレにある・・・そこに『魔脈点』の零細魔脈を一時的に活性化させる。

剣撃からの肘鉄・・『虎月』、こっちも『虎月』で受け止める。生身の音とは思えない鈍い音が響いた。すかさず、奴は加速度的に『虎牙』が下腹部に襲う・・・も俺『虎牙』で受け止めた。


ガギィイ!!!


空気の振動が辺りに伝わる、お互いの魔法力の衝突が辺りに衝撃波を発しているのだ。


(・・・こうか・・・・・・)


息が上がる・・・しかし、瞬間的に『アルマ』を。動作の一点局地に発揮させる事は俺も初めてだった・・・。幸い俺の魔脈は瞬発力に優れたタイプ・・・だと思う。筋肉の加速度も合わさって、力押しもほぼ互角・・・。


「ん?!」


(これは・・・ん・・)


『アルマ』の・・・そう言う発想は俺には無かった・・・。

攻撃動作をキレに転化すれば、決して押し負けない。奴はどういう経緯でこの技術をモノにしているか・・・分からないが・・・試す価値は・・ある。


『感覚強化』と『身体強化』の『魔脈点』の魔法力コントロール・・・戦闘のセオリーとしてはやや常識外れだが・・・『飛行魔法』と言うなまじ便利過ぎて見落としていたのだ・・・。


「ふっ・・・」


「?!!?」


奴は動揺・・・したのか?狼狽より・・・歓喜・・か?あの黒い鎧の兜の表情は皆目つかめない・・・。

珍しく、奴は距離を取り俺は平行線上で舞台中央へ戻る・・・。


「いくぞ・・・レージ!!」


この気迫・・・本命・・・奴は勝負に出た。魔脈を五感に依存する・・・無意識に目は半開きになり、焦点無き表情は全身の魔脈を形無き形を捉えるセンサーへ変えた・・・。


「・・・流雲の太刀!!」


そのぼんやりとした気配は・・・奴は剣の切っ先を突き立てる様に向かってくる・・・。


・・・流雲・・剣の切先を相手に見せて、その軌道を悟らせない幻視の太刀・・・。右へ左へ揺さぶりをかけて、距離を一気に詰めて急所を切りつける・・・東方の剣技の極致の一つと言える形だ。


流水の木の葉の様に緩急の動きと、流れ雲の様な得体の知れ無い形無き剣技が無数の黒騎士の残滓と共に向かう。


音もなく、大気と一体と化した奴をとる事すら不可能・・・速いのか遅いのか・・・それすらも感じ無い・・・虚無の太刀だ・・・。




・・・ちら・・ちら・・・・




僅かな魔力の粒子・・・それは深々と降る雪のような・・・・それに酷く酷似した・・・。

目を見開く・・・その雪一粒の気配に向かい、魔脈を全身活性化させ・・一気に振り抜いた。



・・・・・・キィイイイイイイイン・・・・・・



その音はとこまでも空に響いた。


「それまで!!」


万獣皇のあの声が響いた音響を打ち消す。トスン・・・と落ちる切先。

白い・・魔剣の切っ先が舞台外の焦げた芝に突き立っていた。


「・・・・」


渾身の一撃・・・手ごたえもあった・・・その感触は剣の切り伏せた感触しか無かった。


「お見事・・!!」


声がした、黒騎士の声だ・・・。

今までの記憶が吹っ飛んでいた・・・余りの短い時間を突き抜けた気分だった。


黒騎士の剣の切っ先は切り伏せており、奇麗に斬り落とされていた・・・。

主審が叫ぶ・・・。


「勝者!!・・・・・レージ・スイレイヤー・・・優勝者は・・・レージ・・・・スレイヤー!!!」


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