#29 トラブルと連鎖は誰かか止めないと延々と続けそうで怖いよね
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清廉な叫びを高らかに、空に佩刀を構えて携える。
「戦技!!双閃衝!!」
『双閃衝』・・・斬撃を飛ばす『闘刃』を基礎とした高等応用技。
分かりやすく説明すれば、『闘刃』を飛ばし。『闘刃』が当たる箇所とタイミングを同時に、魔剣で切り伏せていく重ね剣撃の中でも上位難易度の技だ。
ネイア姫の持つ魔剣と魔脈によって生まれた、絶対斬撃の技。その脅威を直感的に感じていた。
みるみるうちに鳥女の顔に焦りが現れ、焦りに飲まれる。
「くそぉおおおおお!!!!」
超加速を旨する彼女は、己のアドバンテージを逆手に取られている事に憤りを隠さずにはいられず怒号の叫びをあげる・・・が。
「なっ!?」
鳥女の叫びと共に奴の前に何かが突飛に現れる・・・・甲殻獣・・・地上の一体がそこに転移したのだ!!
「・・・・!!・・・・」
鳥女は甲殻獣を蹴っ飛ばし、距離をとる。
ズドヴァァアアアアア!!!
逆に蹴り飛ばされた甲殻獣は、迫るネイアに容赦なく真っ二つとなる。
「・・・助かったよ・・・まさか奴が餌になるとは・・・それになんだい・・・あの技は・・・」
「ほう・・・・いい戦技だ・・・」
ぶ厚い、甲殻獣の甲羅から胴体。断面すら鮮やかに深紅に染まった。それを称賛するディーヴァ。
「く・・・・!!」
連中の召喚した尖兵たちはあっという間に失い。
巨人と鳥女、傍観するディーヴァにゲロロックの四人だ。
戦闘が膠着となっていった、日が傾き朱の色が意図せず帯びた空色・・・。
だが、急に翳りと共に空気が震えた。
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天が響く暗雲、灰色の低い雲が覆い。ズズンと鳴り響いた・・・それは間違いなく空の地震と言う言葉が浮かぶ。
「なんだ?!」
ゴゴゴゴン・・・・ズズゥウウウウン・・・ゴゴゴ・・・
雷鳴とも雷光ともいえる光を繰り返し、それは音の厚みが増した・・・。
震える大気は何かに怯えている様相を連想させた。
「・・・コレは・・・間違いない・・・」
一つ強烈な閃光を空を焼く
ゴゴゴォォオオオオ・・・・ズ・・・ドォオオオオオオオオオオオオォォォォン・・・!!!!
「!?」
俺は落下するネイア姫をお姫様抱っこし飛翔し、ダルダやハルーラ、ヴィラは観客席まで飛ぶ。シャリーゼは盾を構えミスティアはその後ろに待機し防ぐ。
ディーヴァやゲロロックも落雷の瞬間に俺達と距離を取った。
戦力を二分する強烈な閃光は、コロシアム中心に直撃した。地表に残った白い灰と魔獣の赤い血痕を容赦なく焼き飛ばす。
「なに・・・!?」
俺は突飛も無い事態に戦局は完全に停滞した。
そんな中で落雷の場所は焼け爛れ。緑の芝と黒い焼け跡の筋が辺り一面に広がっている。
「万獣皇・・・!?」
ネイア姫が呟いた。
観客席に姿を見せる、ネージュ様達が空を仰いでいた。
俺もそれにつられて、天を仰いだ・・・俺は今まで見た中でもいかにも異世界と言う神秘的光景を見た。
さっきまでの暗雲は消え去った、太陽光の背をしたそれに誰もが絶句した。
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万獣皇・・・と呼ばれたその姿は異世界の象徴ともいえる姿をしていた。
純白の外皮と見間違う皮膚は艶やかな短い体毛で覆っており。真珠色ともうっすい虹色ともいえる魔力の膜で覆っていた。
目は硝子細工の様な緻密な黒真珠に、白金色のプレートに魔紋刻印を緻密に彫りこまれたような瞳で、血生臭くけがれた光景を見据えていた。
それは酷く悲しそうで愁いを帯び、剣を持って立っている事も非礼に感じる程の居抜かれたような目をしていた。
(ドラゴン・・・龍?)
そう・・・ドラゴン・・・ベースは東洋の龍に近い風体だった。
頭部はワニの口元に長い黄金の鮮やかな金糸の髭を整えており。眉も長く、顎の下、大きな頭部の角は角戦馬にも似た鈍い黄金の角を真っすぐに伸ばしていた。
手や足は長く、奇蹄目にも似た均整を練った生命の造形美を体現し。切先の手や足は人間のそれより酷似し。爪は艶っぽい輝きを帯び、両足首にミスティアの飛行魔法の様に『螺閃輪』の魔脈を維持して浮いているのが垣間見える。
バサァ・・・・ビュォオオ・・・・
と、ゆっくりと翼は広がった・・・。
15mは優にあるその雄大さは、色濃い虹色の輝きを増し。
目測見誤る程の高度を維持しており・・・巨躯は体長・・・10m以上はある・・・ほどだ。
「フン・・・あまりにも収拾がつかぬ事態になっていったからな・・・ここいらで打ち止めとせぬか?」
万獣皇・・・しゃべる・・・空気が震えるような低い声だ。
「『黒妖石』を巡る戦場をここで・・広げてはかなわぬ・・・それに・・少なくともその石は、お前の求めるものではないからな・・・ゲルニカの血縁者よ」
「え?」
は・・・今・・
「今なんと申した!!万獣皇殿!!」
俺の代弁をしたのは、黒騎士だった。余りにも彼の反応に俺はビックリした・・・どうしたと言うのか・・?
「そこもとの魔族の連中・・・その中でも連中を束ねる其処の騎士は・・・ゲルニカの血縁者だ・・・なぁ・・・ディーヴァ?」
沈黙のディーヴァは頷く、黒騎士は震わせて青騎士に問い詰める。
「だとしたら・・・ゲルニカ絡みで動いているのか?!」
「そうだ・・・わが父の形見の黒妖石を探している・・・その為にこうして動いているのだ・・・『奴ら』から奪い返す為にだ・・・」
黒騎士の問いに即答するディーヴァ、それは余りにも淡々としていた。『奴ら』と言う言葉に俺は引っかかったが。
万獣皇の魔力の光が、俺を照らし。持っていた『黒妖石』を引き寄せる。
流石に俺はそれを傍観するしか無かった。
「この地で暴虐の竜と化しそして・・・討たれた・・・が・・貴様らは『黒妖石』を見つける事ができなかった・・・もし、お前の言う『奴ら』が奪い取ったと仮定として・・・」
事もなく言葉を続けるドラゴン。
『黒妖石』をしばらく眺めて、丁重に俺に返しディーヴァ達に答えを続けた。
「・・・奴らが・・・それを容易に使うと思うか?・・・ましてや我と同じ竜の『黒妖石』・・・それ自体を手に入れるのも苦労するだろうな・・・なぁ・・・黒騎士?」
黒騎士は沈黙していた・・・さっきまでの動揺が嘘の様に消えてはいたが・・・落ち着かない様子がうかがえる。
そんな黒騎士を横目に、万獣皇は魔族の面々に畳みかける・・・。
「それに、『奴ら』はこの世界に介入し安易に『黒妖石』を使って事件を起こしている・・・。なぁ・・・片目魔眼の騎士よ・・・。」
「え・・ええ・・そうです・・ね・・・」
俺にいきなり振られて、シドロモドロする。俺はチャンスと思い万獣皇に問いを求めた、それは筋違いな内容だったが・・・。
「彼らは・・・ゲルニカの『黒妖石』を・・・何故そこまでこだわる?」
それを聞いて暫く沈黙した後・・・ディーヴァ達を一瞥。一計の後、答えた。
「それは・・・彼ら魔族のしきたりよ・・・そう言う風習なのだよ・・・」
ゴォンゴォンゴォン・・・・
俺の答を話す中、万獣皇が空を仰いだ。
深紅の飛空艇が朱の空に染めていた、いつの間にか例の船が姿を見せていた。
「目的の代物では無い以上・・・長居は無用だ・・・」
突飛に返す言葉を発した。
踏ん切りのついたディーヴァの言葉に、連中は姿を次々と消していった。俺達が動くよりも万獣皇様からの静止の声、連なってネージュ様達の声が届いく。
流石に彼女たちの言葉を無下には出来ず、踏みとどまった。
茜色が濃くなった空に深紅の飛空艇が溶け行く様を、見届けるしか無かった。
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