#24 とりあえず準決勝まで勝ち進んだけど一筋縄ではいかないよね


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「小休憩を挟んだ後、準決勝、クリコス・クルーラー対レージ・スレイヤーの一戦を取り仕切ります!!」


困惑のどよめきの中、進行役の兎の獣人が高らかに宣言した。俺は選手専用の観戦用のテラスで待機し、そこから会場の様子を見まわす。


俺の位置から舞台を挟んで、一番遠い位置にある場所に「重鎧士」が。

胸部の胸当てが大きく広がって、中が見える・・・良く見ると無数の輪っかが両手足を入れる場所と一目でわかった・・・周辺には人だかり、魔導師のそれによく似た白衣の法衣姿らしい魔導師がいた・・・。

あー・・・アレが錬金術士って奴かな・・・。


それに乗る対戦相手の騎士・・・やや年配の肌の濃いオッサンだ・・・オデコも広がっており結構なトシだと伺える。


「ん~・・・あーゆーのたいへんだよなぁ・・・・」


あーゆー兵器の管理って結構手間だよなぁ・・・そう考えればとても即戦力として合理的とは思えんがなぁ・・・


頭ン中でグルングルン、前世のネットで培ったしょーも無ーい軍事知識を巡らせながら。ヴォツクガング名物品を加工した銘菓と頬張り、一口、露結の終わったほどの紅茶で口直し・・・また周辺を見ていると上から呼ぶ声が・・・


「レージ様!!」

「レージさん!!」

「コッチこっちだス!!」


目をやると、ネイア姫、ミスティア、ダルダの三人が覗かせる。


「ん~?ハルーラは・・・あ・・あいつ・・・」


俺は思わず、薄情なハルーラの事を聞こうとしたが、三人共バツの悪い表情をするのを見て口をつぐむ・・・アイツは俺をダシに賭け事か・・・まぁ・・ハルーラらしいな・・・。


「とりあえず、これ勝ち進んだら決勝かぁ・・・」


(とりあえず?)

(とりあえずかぁ・・・らしいなぁ・・・)

(とりあえずじゃぁ・・・無いダス・・・)


不思議そうに俺の顔を見る三人を顔に対し、頭に『?』を出した。


二回目の刻時鐘が響いていく、しばらくし舞台壇上に中央に1人の主審四方を獣人や人間の副審の4人が出そろった。予選トーナメントの時の審判とは明らかにレベルが段違いに上位だ。


「クリコス・クルーラー!!・・・・レージ・スレイヤー!!両者前へ!!」


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ここまで来ると、主審は愚か副審たちの顔つきは段違い、逆にその五人の方が高い魔脈を持っている。


俺の前に、あの『重鎧士』。

魔力知覚で見ても・・ぼんやりとした魔脈が広がって居る、ぼかしの酷い筋と言えば良いか・・・印象は予選決勝の奴と寸分たがわず・・・。


(思いの他、魔銀鋼の比率も乏しいのも大きいかも・・・)


そんな事を考えていると、主審が腕を振り上げ・・・・。


「はじめぇい!!」


開始の声が鋭く響かせる、その声に対してその鋼の巨躯が素早く大剣を振り下ろす。


ゴォオオオオン!!


刹那の動き・・・半歩下がって躱す、しかし奴は振り下ろした剣を咄嗟に持ち上げ。横薙ぎの一振りが轟音と共が襲った。


鋼の巨躯の横一閃は明らかに前と別物だった・・・・初日のトーナメントとは明らかなに違う動き・・・。

(なんだ・・・こういう戦い方をするのか・・本来は?)


・・・木の葉の如く身をひるがえす中で脳内錯綜する。


初手の動きとは裏腹に・・・奴はゆっくり、俺を睨む・・・・気がした。

奴は前傾で剣を構え直し、唐突に凄まじい加速でこっちに向かい刺突攻撃を繰り出す。余裕のカウンターで「マジックブラスター」で目くらまし・・・からの可動間接に『氷結刃』を撃ち込んだ。


ゴォォオオオッ!!!


壇上の石畳に剣が突き立った、主審の顔には驚愕の表情・・・しかし腰を抜かす事もなく距離を取った。


(うっそだろ・・・!!)


あの一瞬・・・知覚機能を保護する、スリットへの『マジックブラスター』は難なく弾かれ。投擲した『氷結刃』も食い付いた・・・しかし起爆の際に粉みじんに飛散するのを俺は目視・・・してからの跳躍回避だ。


「うっへぇ・・・」


宙返りをし身をひるがえす最中に抜刀。空いた手は次の一手・・・収束させた指先の電磁系バレルを構築に重点を置いた。『インパルスブラスター』。


ギュル・・・・ヴォッ・・・・ゴォッアアア!!


元来より威力抑え、逆に魔力密度を高めたその一閃から生まれた閃光・・・着弾の白球は『重鎧士』の装甲ボディの大半を飲み込み、衝撃で後方へ。そして轟音を鳴らして仰向けに吹っ飛んだ。

表皮は白く染め上げ・・収まったが・・・。


「んん?!」


驚いた・・・6割は赤く染め、湯気が白い。抑えているとはいえ、表面金属の熱量は相当なものだ・・・。その証拠にスリットの中から湯気も出ている・・・。


「ウッソだろ?あれで無傷?」


俺の挙動に合わせて、主審は試合は続行だと言わんばかりに手を振った。

オマケに重鎧士はギギギと軋ませながらこっちを向く・・・。その動きには和ホラーゲーム特有の不気味な印象を感じた。


(なんか変だ・・・)


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「うそでしょ!?レージのアレを喰らってまだ動くなんて!!アレは相当威力を抑えたはずなのに!!」


――娘が驚いて声を上げる。彼が放った魔法がどういうものか分からない・・・それを娘に問う・・・。

――掻い摘んだ講釈を聞いて、一部納得する。


「純粋な魔力を球体で圧縮・・・それを魔力で構築した『すぱいらるばれる』と言う奴で放つのですか・・・」


――『すぱいらるばれる』と言うのは螺旋の筒状の力場らしい・・・よく分からないがくるくる回転させてぶつけると、ぶつかった際に爆発し威力が上がると言う・・・。


「・・・」

「どうかしましたか?ネージュちゃん?」


「いえ、非常に興味深い話で聞き入りまして・・・」


――そんなやり取りをする中で、あの「重鎧士」は不気味に動き、対戦者を睨むその動作がゆっくりと何事もなかったかのように対峙していた。


「しかし・・・コレは異常かもしれません・・・早急に対策を・・・ネイアもいる筈・・・不測の事態に備えヴィラ殿・・・貴女は合流をしなさい。」

「え・・あ・・あ・・・はい・・・」


――ネージュちゃんは今までにないくらいに険しい顔をしていた。それにうちの娘が気おされビックリし、警備管理を一任していた獣人や上位騎士を呼びつけ指示を出す。


「ネージュちゃん?」

「念には念を入れましょう・・・。そして彼を信じましょう・・・」

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