#20 イキリ散らしている分恥ずかしい負け方をすると何とも言えないよね
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「まさか・・・アリソン初戦敗退かよ・・・」
「あんな勝ち方・・・見た事ねぇ・・・」
――貴賓席にてそわそわする娘が面白い、あの様な戦いぶりは類を見ない。所謂目の前でハードで荒っぽい子作りを見せられ、興味を抱く・・・まさしくそんな気持ちよねぇ・・・。
「どうしたの~・・・落ち着かない娘ねぇ・・・」
「別に私は・・・」
――怒気の籠った強い返答が来る。相変わらず素直になれない娘である。
「しかし・・・あの子は中々やるわねぇ・・・実際戦う所を観たけど・・・アレでも本気じゃないんでしょ?」
「彼は圧倒的な力で倒す事を良しとしない方ですから・・・それ無くても色々問題を起こすので・・・」
――その後の対戦は・・・先のグランシェルツの騎士とは同じく剣を抜いて戦技勝負、今の対戦ではスフィア・アーツの魔術師とは魔法勝負と・・・。相手の専門でねじ伏せるスタイルはある意味面白い。
「魔法勝負で魔法でねじ伏せるなんて・・・コレも中々ねぇ・・・」
――白亜の壇上で、魔法使いは炎や氷を翻弄する。魔術師は手数で翻弄しお目当ての彼はそれをうまくいなしていた。
「?!?!」
――魔導師は咄嗟に彼の足元に氷結系の魔法が引っかかった。彼の動きは滞る様を読んで咄嗟に詠唱する。
「大気の万象に脈打つ、紅蓮の精よ!!集い!!その力を振るえ!!ファイヤーエクスプロード!!」
ギュリョリョリョリョリョッ!!
――完全に硬直した彼に向って、真っ赤な奔流が生み螺旋状になって襲った。その熱気は貴賓席にも僅かながら感じる・・・。彼を甘く見ていない様子が目に分かる。
「もらったぁ!!」
――だが・・・彼が何かを投擲する様子が見える。その瞬間、目の前で真っ二つに分かれた。その直後に彼が叫ぶ。
「氷結刃!!」
「なに?!ぐあぁあ・・・!!!」
――掌で握って起爆させる。その刹那、魔術師の炎が凍結していった。実際に見せる光景は驚きの歓声で沸く。
「あばばばば・・・こうさーん!!降参します!!」
――魔導師の降参の言葉に勝者の名前を読み上げた。その光景を嬉々として見ている男がいた。
――ガボネ・ガボンネ伯爵は圧倒的で険しい皺が出来上がっていた。それは逆に娘も落ち着かないソワソワする素振りは欲情した犬にも見えてかわいらしい。
――しかし・・・私はあの鉄の塊をどうやって、撃退するのか・・・興味が沸いてしまった。
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三日目決勝戦、俺の対戦相手はあの提灯釣鐘の鉄の塊。初日に因縁をつけたチンピラ騎士。
壇上で対面すると軽く3mは優にある巨体。釣鐘に寸胴な形に、野太い足。両腕が異質に野太く大型メイスを持っていた。
どうやって・・・うごかしてるんだろ・・・
ちょっと知りたい・・・そういうオタクとしては、そんな気持ちがあった。そんな気分を蔑ろにする、胸糞悪い声が響いた。
「くくく・・・逃げるなら今のウチだぜ?」
奴の挑発の言葉は主審が開始の声でかき消され。
奴さんは開始直後、ゆっくり溜めの動作を起こし。振り上げ動作・・・そこからの・・・。
「くたばれ!!クソガキ!!」
怒鳴り声と一緒に一歩踏み込んだ剣撃。その勢いは質量の暴力そのもの。
「ゴゥッ!!」と轟音が響きが低く唸り上がった。
早速、大剣を抜刀。
左腕の黒皮ジャケットの左袖に組み込まれた革籠手で切先を支え。
振り下ろすメイスの切っ先を受け止めた・・・前傾気味になって衝撃を耐え振り下しの勢いは留まらない・・・俺の魔剣は奴のメイスを切り込む。
今だ!!
前傾気味の姿勢から足捌きをし、一歩踏み込み腰を入れた全身の剣撃でそのまま押し切った。その動作に剣閃は煌めく。
ガギィン・・・・・・・ズズン!!
メイスを切り上げ、切り上げた切っ先は弾け飛ぶように宙に舞った。その落下地点に舞台壇上から観客の間にある芝生に突き立った。
振り下す格好の『重鎧士』はみるみるうちに狼狽。
一歩二歩と後ずさり・・・怯える。
「ぐ・・え・・なに・・・?なんだ・・・な・・・うわぁああ!!」
三歩目下がった矢先に、奴は思いっきりひっくり返り轟音と共に倒れる。
俺は奴の足裏には氷の膜・・・『氷結膜』を展開させた。
無詠唱魔法の『氷結膜』・・・対象が無機質や魔力で形成した事象体であれば・・・凍結できる様だ・・・少々性格悪いが、『重鎧士』の表面ボディに定着しさせてみる。
「あ・・あああ・・・・」
釣鐘の鈍色ボディはみるみる、氷の膜を覆っていく。自力で立ち上がろうとも全身凍結する様子に、皆どよめいた。
最終的にはアイスバーとも言わんばかりの姿となっており。
ひっくり返った奴は両手足をバタバタさせ、とうとう立てなくなっていった。中から騎士がひどく情けない声を上げている。
「や・・やめろ!!やめてくれぇえええ!!だしてくれぇええええ・・!!!」
「・・・ほい!」
奴さんの懇願ぶりが、壇上舞台の会場で響く中。
俺が足で蹴っ飛ばす。
「やめろぉおおおおおおおおおお!!!!」
ツルーと滑っていく様は、カーリングの如くシュールすぎる。なんせ中の人の悲鳴が外まで駄々洩れ。そしてとうとう・・・。
「うわぁあああああああああああ!!!」
両手足をバタつかせながら、壇上舞台から鈍い音を立てて転落。
ズズウン・・・と間抜けの極みともいえる醜態ぶりを見せた。
「場外勝ち!!・・・勝者!!レージ・スレイヤー!!決勝トーナメント進出!!」
主審は文句なく俺の名前を高らかに叫んだ。心なしか笑いをこらえているのは気のせいか。いや笑ってる、すんごい満面の笑みで俺の腕を上げていた。
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笑いと拍手の中、その壇上舞台から控えに戻る途中で貴賓室の様子を見た。
エロフェロモンムンムンの濃ゆい金髪親子の姿は手を振っており。親しげにネージュ様もこちらに手を振っていた。
『良い趣味をしている所悪いんだがボウヤ君・・・貴賓席の端っこを見ろ・・・真っ赤な服を着ている爺さんだ・・・パプリカみたいな爺だ』
『は?・・・パプリカ?』
突飛な念話魔法の言葉に従い・・・目を配る。一人だけ、あからさまに余り良い顔をしていないオッサンが淑女らを睨み。更には顔中に皺と言う皺を集め、顰めた年配爺がコッチに目を向ける。
一目見た印象は・・・鼻が垂れ、頬が垂れ、顎皺から二重顎。への字口に顎の皺、瞼も垂れ・・・兎にも角にも顔中を垂れている・・・だらしない顔つきが印象深い。
印象はピーマン・・・顔が真っ赤だからパプリカ爺。派手な赤い服とマッチして見事に巨大なパプリカ・・・あ~・・・。
『そいつがガボネ・ガボンネだ・・・サーヴェランス辺りから、お前らの動向を探りを入れていた張本人だ・・・』
『えーと・・・ニンジンにタマネギ、ナスビ・・・ってくれば・・ばるほど・・・確かにパプリカだな・・・うん・・』
『・・・だろ?』
何故か黒騎士と意気投合してしまった。
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