#18 胡散臭いやつが妙に親しげに話しかけて来るけどしょうがないよね


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『武戦大会』はメインの本戦会場であるコロシアムを会場に、各予選トーナメント毎で一日費やす日程となっている・・・・。そのお陰で俺は視察の兼ね合いで選手専用の観客席に。


初日の予選トーナメントは皆圧倒する。


なんせ、寸胴釣鐘のような鋳物。そんなのが壇上に上がる。獣人の巨体と比べても負けず劣らずだが・・・。


「ぐあぁああああ・・・・・ま・・・まいった!!」


ゆうに2mはある対戦相手の獣人の大男。そんなのを軽々片手で持ち上げる様子を壇上の上でやってのける。


問題はそこじゃない・・・。

降参の声を上げた対戦相手を、まるで面白そうに投げ飛ばすのだ。獣人側の面々は殺気だって抗議する。


敗者の悲鳴はその野次で消される程、暴動寸前の騒ぎとなる一幕があったほどだ。


「ひどいな・・・」


選手の中の面々・・・・誰ともなく口に出し。ガレオンの血縁者であるガジュラ、蜥蜴の獣人アリソン・・・諸々と後日の参加者達は胸糞悪そうな顔つきをしている。


「まぁ、あんな風に無様な敗退をしたくなけりゃ棄権するって言うのが一番だぜ?ヒェッヘッヒェッ!!」


殺伐とした中、イラつきと殺気の中でそれを逆撫でにする甲高い声。

振り向けば山派貴族の息の掛かった騎士が二人組。そこに立っていた腕章には山派貴族のエンブレムがあり、これ見よがしに見せ・・・。


「精々、その身一つで奮戦するんだな・・・武器が壊れても良いって言うならな?」


そんな言葉を投げかけ、獣人達の目には殺気が宿っていた。一触即発ともいえる空気の中、奇妙な声色で一気に場の空気が抜ける・・・・。


「そうだな・・・たしかに・・・君達も・・・言える事だな」


くぐもった独特の声が響いた。


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「なんだてめぇ・・・・」

「コイツは・・・俺と同じトーナメントに入っている奴じゃねーか?!」


チンピラ騎士二人が、俺らに背を向け振り向く、そこから歩いてきたのは・・・黒騎士・・やっこさんは最後の予選トーナメントに出場する。陰の中からぬるりと現れた様な奇妙な風体はおっかない印象を与える。


「いやぁ・・・君達もその身一つで戦う気力があるって事だろう?」


横並び間際のその言い草に、チンピラ騎士らは大笑い。

ウケけしていると勘違いする黒騎士がつられたかの様に一緒に笑う。・・・が「ふざけるな!!」と、対戦するであろうチンピラ騎士の一人が激昂する。


首を不思議そうに傾げる、一回・・・そしてもう一回・・・。そして返す言葉は・・・。


「・・・ん?・・・ジョークは言わないさ・・・ご自慢の鎧を失ってもその身で戦う騎士道精神・・・相対する者としては敬意を払いたいのさ。」


と・・・スッとぼけ、のらりくらりとする黒騎士。暖簾に手押しと言わんばかりに言葉を続ける。


「まぁ・・・少なくとも・・・この予選トーナメントに出ている彼以外は出れそうにないからな・・・なぁ・・ボウヤ君」


振られた俺は思わず心底嫌そうな顔をする。


その顔を見た獣人一同は、何でコイツって言う顔をし・・・。発破したかの如く激昂する男がいた、蜥蜴獣人のアリソンだ。アリソンは不躾な指差しを俺に向けた。


「オイてめぇ!!俺様達よりコイツの方がつえぇっていうのかぁ?!!ええ!!」


今度は自分自身に親指おったてる。奴はそんな激昂具合をものともせず。


「さっきも言ったが・・・ジョークも洒落も言わない主義でね・・・事実を言ったまでだ・・」


うっへぇ・・・思いっきりコイツこの空気を煽ってやがる・・・。思わず制止したい気持ちを口に出したかったが・・・。


・・・流石に彼の様な軽口は叩けない・・・・そう言うセンスは父親の方が優れている。情けない話、俺は当たり障りない優等生染みたお返しをする。


「俺からすれば・・・黒騎士さんの目利きは裏切るつもりは無い・・・けど・・貴方も・・・海派貴族一派である以上・・・サーヴェランスのコネで参加したクチだ・・・」


俺の言葉に今度は黒騎士に視線が集まる。おおよそこの男を推した人間を盾にした。あまりこの場面で口に出したくないが・・・。


「・・ネージュ様の期待と目利きを裏切るっては困る・・・」


「・・・もちろん・・私は自らあの方に頭を垂れて懇願して・・・ここにいる・・・私はこう見えて自信家でね・・・その際に君の話を色々聞いてもいる・・・」


海派の一派の一人として、ここまで露骨な胡散臭い奴が出て来たのか。

しかも相当な自信家と自称する様・・・・。


粛々と初日のトーナメントは進んでいった。あの鈍色の釣鐘提灯が決勝戦を制していく様をコロシアムの舞台では延々と同じ闘いを興じ続ける事となり、ブーイングが絶えない内容だった。


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二日目は、山派貴族の連中は居らず。獣人達と他国の騎士、一般参加者が主だった。

初日のトーナメントとは異なり大いに盛り上がっていた。


なんせあの釣鐘が居ないと知って大喜び、例の伯爵様はこの光景を見てどう思っているのやら・・・。


参加者の大半は、グランシェルツ、そしてサーヴェランスやスフィア・アーツの参加者の多種多様な戦い。魔法や戦技も様々、派手さを極めた内容。


観客だけにとどまらず、盛り場の投影魔導師を中心に酒場は大いに盛り上がった。


「螺獣旋風!!」


二日目、大本命のガジュラの独壇場だった。スフィア・アーツから推薦を受け参加した魔導師の魔法を打ち消し吶喊する技は、獲物は違えどヴィラに酷似した性質を持つ技を繰りだした。


(んん・・・?あいつヴィラと同門なのか?・・・しかし・・・)


そんな事を頭によぎると、またもやくぐもった声の主が耳に入る。


「彼の闘い方に見覚えがあるのか?」


「ええ・・まぁ・・」


流石に選手観客席に人は少なかった。

奴の持っていた佩刀二刀流は、ヴィラが例の試験の際にも使われていた型。が違和感を覚えておりそれが何か、パッと理解できなかった。


「・・・獣人はその身体自身を介して戦技と同時に展開するのが主流となっている。・・・彼のキレは獣人の中では相当なものだな・・・君の眼にはそうは見え無さそうだがな・・・」


(・・・あっ・・・コイツ・・・)


俺はパッと見た感じ完全にヴィラの動きに比べて酷く鈍い印象を感じた・・・。その心情を悟る程の洞察力を持つ黒騎士・・・。


念話の魔法で見せた一面・・・この男は想像以上に強者、俺は隣の男の底知れなさを覗いた気分だ。


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