#14 俺か何かするたびに何かが騒ぎになるけどどうしようもないよね


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――ガメラスの惨敗、その一報は獣人達のみならず人間達にまで広がって居た。賭場と兼ねた酒場の店内で予想屋達は大荒れ、顧客たちは皆ブーイングをしている。


「まさかガメラスが敗退だなんて・・・グーパンだって?」

「人間のガキらしいな・・・顔と腹に二発でガメラスをノしちまった・・・」

「今回の武戦大会は荒れに荒れてるぜ・・・」

「冗談じゃねぇ!!」


――獣人、人間達がごった返す酒場のテーブルでは種族同士での交流の題材の大半は酒と博打と女と言う。下品とも庶民ともいえる内容だ。

――近隣のテーブル客には、ガメラスに賭けていた連中は安酒を煽って、大損の失望感を紛らわそうとしている。


「まったく・・・ヴォルガングに来たのは良いけど・・・」

「フン・・・まぁ良いではないか・・・奴も奴で色々と役目があるからな・・」

「まさか、武戦大会とはねぇ・・・あの方の頼みでなければ・・・此処で暇を潰す羽目になるなんて・・・。」


――酒で煽って、トチ狂って騒ぐ面々を横目に。私達は異常に浮いている。まぁ元々フツーの観光客を装って。私を含めてガラムやアーシャが囲っている。

――流石にこの喧騒の中をサークが出向くはずもなく、宿でオマリーと共に大人しくしている。


「まぁ、あの人でなけりゃぁこの役目は無理でしょうに・・・」

「で・・どう思う?」


――アージュが意地わるそうに、私に問いかけてきた。


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「ガメラスって言えば、昔は名の知れた囚人兵士よ。今の世じゃ・・・同族からは厄介者・・・」


――要は、ガメラスをボコった奴は誰かと言う事だろう・・・。

――ったく・・・あの巨漢脳筋男をボコれるのは


「まぁ・・・アレをボコ殴りに出来るのって言えば・・・」


――横目の地人をジト目で見る。


「なんじゃい・・・儂か?まてまて・・・もう一人いるだろうに・・・」


――こっちを髭面が睨む。


「う~~~~ん・・・そう来たか・・・って言うか・・・だろうなっていう・・・」


――あまりにも信じたくないが・・・正直もう一人居た。腕を組んでウーンッとうねった。


「893番・・・ねぇ・・・間違いないと思うわ・・・」


――さて、そんな会話の一段落した矢先。ガラの悪そうなチンピラ共が声をかけて来る。


「よぉ?アンタら暇かい?」

「しけたジジイのお連れさんにしちゃぁ別嬪じゃねぇか?」

「ひひひ!!そこのネーチャン!!そのでっけぇオッパイで俺らの竿も挟んでくれよぉ?!」


――文字通り下品な狼、蜥蜴、兎の獣人野郎どもが絡んできた。とてもじゃないがお世辞にも良い顔をしているとは思えない。

――ハッキリ言って、顔つきはうちの旦那の方がマシ。


「で?どうする?」

「ん~・・・」


――私は一杯酒を煽った。アージュがやれやれと言わんばかりに、頬杖をついて呆れている。私に忠告紛いの警告を促した。


「エルフィ・・・加減はしなさいよ。治療するのアタシなんだから?」


――そう言われて椅子から立ち上がった私は、チンピラ獣人より一回り小さい体格だが。連中の持つ魔脈は酷く乏しいのが分かる。ヒヒヒと下品な笑い声は彼らの精神面の表れだろう。


――私が掌をパーとグーの繰り返す様を見て、更に甲高い挑発の声が上がった。周辺も乱闘の匂いを嗅ぎつけて、周辺に人だかりが出来上がる・・・。


「ひひひ!!!なんだ?やる気かぁ?ああ・・・・」


ゴヅン!!


――兎の獣人が汚い罵声の中で一気に途切れた。

――途切れる瞬間は、まんまと体が宙に浮いて天井激突。その直後に地面に突っ伏した、連れの狼と蜥蜴の獣人はその凄まじい光景に絶句する。


「一つ言っておくわ・・・私は魔導師だから、よく覚えておきなさい?」


――腕をゴキゴキならして、双眼の六星魔眼が怪しい光を放っていた。


「喧嘩は買ったわ?わかるでしょ?・・・あ・ん・た・た・ち?」


――迫る私に狼と蜥蜴の獣人は顔真っ青になっていた。


-43-


翌朝

逗留先で朝食を済ませ、海岸沿いを散歩中にタコ殴りと言わんばかりのボコボコにされた蜥蜴と兎と狼の獣人が川の字になって突っ伏していた。

その周りや野次馬の人だかり。そして警邏隊の面々が囲っていた。


「なんでしょうか?・・・事件ですか?」」

「見たいですね・・・」

「いやぁ・・連日お祭り騒ぎで喧嘩も増えてるらしいダスね・・・」

「大変ねぇ・・・」


俺達はその光景を遠巻きで眺めている。

ミスティアにネイア姫、ダルダが言葉をつづける。ハルーラは俺の予選通過の投票券を前もって購入に枚数を数えていた。川の字にぶっ倒れていた三人組は、服はボロボロなんだがケガなどの痕跡もなかった。


「どういう、こったこれ?」

「近くの酒場で、妙な面子にちょっかいを出したらしいっすね?」

「で?」

「なんでも、連れの女性が三人をボコボコにして、でもう一人の連れがけがを治して。最後の地人族のオッサンが此処にぶん投げたそうです・・・・」


上官らしき男が呆れた声を上げた。


「はぁ?なんだそれ?」

「実は・・・喧嘩の現場と思われる酒場も断定されまして。野次馬連中も目撃も・・・」


「ともかく・・こいつら詰め所に放り込んどけ・・・」


今の時期こういう喧嘩事はしょっちゅう起こっており、詰所の拘置所らしき場所も定員オーバーだと言う。


「ったく・・・昨日は昨日でガメラス敗退の一件で騒動が・・・」


ブツブツ愚痴りながら俺の傍を通っていく。ガメラスの一件で昨晩は酷く荒れた夜だった様だ。


「レージさん・・・あの方達には治癒が施されています・・・それと同時に強力な魔法痕もあります・・・」


ひょっとして大会参加者が・・・?

でも規約では喧嘩事はタブーだ・・・とりあえず俺達・・・いや俺は本戦に参加する事だけを考えよう・・・。


ともかく、無派閥の俺達が関与し大会を制する事が今回の目的なのだ・・・。

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