#13 結局のところアウェーの中でも目立つ羽目になるよね
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合図直後、亀の獣人が鉄球を轟音を鳴らしてぶん回す。
「コイツで潰された人間は数知れねぇ・・・わかっているのかい?」
その勢いは凄まじく、土建の解体で使われそうな鉄球を軽々振り回す様は恐怖心を煽る。
「まぁこういう場所に立っているんだそれ相応の覚悟は持っている・・お互い誓約書にもサインしたんだしな?」
動揺という感情は一切見せず俺は返す、どうやら親切にも棄権を勧めてくれる。
奴は舌打ちした直後に、突発的に俺に向けて鉄球をぶん投げる。
ブォン!!・・・・ゴォオオオオン!!
講堂内に、風切り音と石畳の破壊音が会場に響く。
それの合図に空気の熱気は冷めていた、なんせ鉄球の破壊力に獣人ですら凍り付かせているからだ。熱があるのは俺の眼の前に立っている亀の獣人だ。
「へっへっへ・・・」
「ん・・・なんだ・・・ノーコンか?」
亀獣人はワザと俺の脇を狙って一撃を打ち据えたのだ・・・が、肝心の俺の返しに顔はこれ以上ほどに真っ赤っかだ。
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その赤ら顔と殺意の目つきは、観客に凍り付く空気が張り付いた。これから起こる悲劇に皆ざわついており、審判の兎人も俺の顔色を窺っている。
鎖を引っ張り鉄球が亀男の手に戻る。
さっきと同じように鉄球に遠心力を含めた回転を加える。
その回転は初撃のそれとは、全く異なる程の高速回転をしており。二撃目は明らかに一撃目より早く回避が出来ない事を観客はそれを理解した。悲鳴と一緒にこれから起こる惨劇を皆予期している・・・。
「やばいぞ・・・」
「審判止めろよ・・・」
「あの人間・・・死ぬぞ!!」
「ガメラスの奴・・・殺す気だ!!」
奴の噂を知っている面々が声を荒げる。それをかき消す殺意の怒号が行動の空気を震わせる。
「しねやぁあああああああっ!!!!」
ビュォッ!!ゴッ・・・・
奴の渾身の鉄球投擲に一直線の一撃。その勢いと質量、重厚な轟音が一気にうねって迫った。
距離もそこそこあったおかげで、加速度的に遠心力と一緒に倍加され。その破壊力は絶大だ。
ゴォオオオオオオオン!!!
風のうねりで、砂がまき散らし土煙が舞い上がって一面を覆った。周りの観客も戦慄し何人かは側頭。悲鳴とどよめきで会場を染まった。
「がははは!!!ザマァ見ろ!!人間!!このガメラス様が劣等種族の人間に膝をつくわけがねぇんだよ・・・バァアアアアカ!!」
亀獣人の傲慢染みた怒号と自画自賛のお言葉・・・しかし。
ゴンッ・・・となる。次の瞬間、ガメラスは困惑する。
「な・・・ん・・・・だ!?」
まるで奴が鉄球の様に宙に浮く・・・奴を鎖で何かに引っ張られることに驚く。
「よぉ?獣人様にしては随分軽いな?ちゃんとご飯食べてるかい?」
土煙の中でようやく俺の姿を認識したのか、俺の眼とあって如何にも信じられないと言う表情をしていた。
「投げた鉄球よりも軽いな?アンタ?」
「???!!!?????」
みるみるうちに、距離を詰めていく。拳を振り上げてしっかり溜めた。その姿を奴が見ると理解する、俺が一歩踏み込んだ時には握った鎖を手放したが・・・。
「遅いぜ?」
一歩踏み込み、上半身のフルスイングの一撃がガメラスの顎に直撃。
ズッ・・・ゴォォォォォン・・・!!
と、重々しい拳打をかっ喰らった亀男はその場で側転。そのまま背中から石畳に叩きつけられて、文字通り亀の仰向けの如く。ひっくり返ったのだ。
拳打の感触から顎の骨外れたのは確定的。少々荒っぽいが獣人の持つ魔脈と身体強化によって自己治癒されるだろう。気絶をするかしないかの瀬戸際の一撃だ・・・が。
「くそがぁ?!」
即立ち上がった。
流石獣人、顎の骨を外れても自力で噛み合わせ。何事もなかったかのように立って。俺に対して巨体特有の腕振り下しの拳打。上半身だけの一撃を振り下ろす・・・も、その一撃は俺の片手で受け止められる。
「膝がガックガクでは、力も入らんだろうな。」
「が・・あ・・??人間だろ貴様??」
格下の人間である俺に動揺の色が見える。どうやら精神的に脆く動揺に染まりやすい性格の様だ。
「あががが・・・・」
顔の恐怖の色が伺える。
「ヒッ!!」
拳の握る腕に力を込めて引き寄せる、下半身に力が入らない奴は易々と俺の間合いに入り込む。一歩踏み込み鳩尾に一撃を撃ち込む。
悶絶するすべもなく奴の意識を刈り堕とした。
審判の勝利宣言を受けても、観客は動揺と戦慄が染まっていった。
それ程までにガメラスの惨敗は衝撃的だった。
その一戦以降は、熱気は一気に冷めてしまった様子で。思わず俺は「やりすぎたか・・・」と感じずにはいられなかった。
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――温和な亀族の中でも札付きのワル、ガメラスの圧倒的惨敗は突飛も無かった。
――その一報を耳にしたのは、その晩だ。
「ふふ~ん・・・流石ねぇ・・・貴女が見込んだ男は・・・」
「お母さま!!レージにあのガメラスをぶつけたのはワザとですね!!」
「もちろんヨ・・・だって、そうしないと八百長って思われるじゃない?」
――歯軋りをしながら、私を睨んでいた。しかしそれも一瞬だ。直ぐに大きなため息をし・・・。
「お母さまは知らないのです・・・あの男の潜在能力と言うものを・・・」
――ワザとでは無かったが、正直この子がそこまで真顔で言い切った事に驚きを隠せない。
「あの男の能力は、素の能力だけでなく魔法や魔力、剣術という騎士の持つ素養を持ち合わせているのです!!」
「顔も良いし、体格も良いし、何よりあの下半身にそそるものを持ってるわぁ・・・」
――これ以上もない娘の怒号が響いた。
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