#5 新調し、覚えた技を試したいのは誰にだってあるよね


-14-


「おっし!!」


一番の恐怖の対象を真っ先に、全員で対応する様は見事だった。


「流石ベテラン・・・こっちは援護していればいのかな?」


俺の言葉に、ネイア姫がベテラン勢に声を向ける。


「私達が、灰狼獣への牽制と負傷者の回収を徹底します!!」

「そちらの魔導師様はそのまま黒熊獣の方はお願いします!!」


ミスティア、ネイア姫はベテラン勢の魔法援護に徹し灰狼獣への牽制を念頭に、ベテラン勢の援護支援に徹した。


「コレは助かる!!」

リーダー格の剣士が感謝の言葉を述べ、流れは一気に変わった。


ヴィラ、ハルーラ、ダルダ達が傷付いた兵士や、旅人の救助し回収へあたった。

俺はミスティアとネイアの援護の掛け持ちで、ヴィラ達との中間の距離を取って『マジックブラスター』で牽制する。


ミスティア、ネイア姫のはベテラン勢への援護をメインに、黒熊獣を確実に仕留められる様に。ネイア姫の『水激』にミスティアの『氷結』という無詠唱を感知できず次々と氷結していく。


「アイツら無詠唱で・・・?」


「わざわざ、こっちに合わせてくれてるのか・・・」


遠巻きから驚嘆の声が聞こえ、怪我人、負傷兵、巻き添えの旅人たちがこぞってダルダやハルーラ、ヴィラの手を借りて旅籠街へと連れ戻して行く。


ベテラン勢が次の黒熊獣を仕留め、最後の一体へとなっていった。

もはや・・・そんな中であった・・・。ひりつく空気で緊張が走った。


「レージ君?!」


知覚能力の高いハルーラが声を荒げると同時に、俺は救助者の側を見た。


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それは赤熊獣と言われる、黒熊獣らのリーダー格だ。軽く体長は3mは下らない個体で、黒熊獣の異常個体という説が強い・・・それは・・。


ごぅ・・が・・がぁああああああ!!!!


唸り声と共に、体毛から炎の粉を撒き散らすと言う特性を持っているのだ。

しかも場所が最悪だった。

ダルダの居る、救助者の列の真横へ、四足で一気に突進していく光景だ。

ベテラン冒険者が驚く、それは経験則からも初めてなのだろう。


「なにぃ?赤熊獣?!いったいどこから・・!?」


「何であんなものまで?」

「ひえぇ!!と・・・りあえず・・・避難するダス!!」


狼狽する旅人に対しダルダが率先して、救助者を促す。

それに反応し、赤熊獣は救助者を定めて突進して急加速する。

思わずダルダは咄嗟に大盾を前に突き立て、踏ん張る姿勢をとった。それと同時に女性二人の声が響いた。


「水流膜!!」

「氷結燦!!」


ネイア姫とミスティアの双方が同時に詠唱展開、・・・恐ろしい程の絶妙なタイミングで氷の壁を形成し。


ドッゴゴォオオオオオオ!!!


「っ?!???」

その出来上がった白銀の壁へ、湯気を生み出し赤熊獣が轟音を立てて突進。ビキバキと音を鳴らし困惑する赤い巨躯を埋める様に氷の壁は崩れ落ちる。


ガラガラガァガガ・・・・がしゃぁ・・・・パラ・・パラ・・ガ・・・ヴォォ!!


自分の仕事を終えたベテラン冒険者達も驚く。

勢いが殺された赤熊獣は、立ち上がった。それは不機嫌そうで、それを見る者へは余りにも恐怖と見える光景だった。


怯える救助者の最後を見届けた、ヴィラがダルダより前へ歩む。


「では人助けも、終えた事ですので・・・。」


「ダルダさん・・・おさがりなさい・・・」


ヴィラが外套を剥ぐ、あのエロボンテコス姿を堂々魅せる。ギブスの様な大きな首輪に下乳が零れそうなバスト、引き締まった腹部と腹回り。

股下から伸びる長い長くほっそりとした俊敏さを形にした足に両の腕。腰元の愛用のタカールがギラリと鋭く輝いていた。


「では・・・私の成果というのもお見せせねば・・・・」


腰元から新調したタカールを見せる。それは前よりも冴えた輝きを放つ魔銀鋼の武具だ。


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獣人の魔脈は人間のそれとは違い、内生的魔法にとことん特化している。

身体の強化や回復等が強いのもその為で、魔力の無属性安定度も体内なら非常に高い。それ故に五感強化というのは、ある意味相性が良い魔法なのだ。


「レージ殿直伝、身体強化・・・『アルマ』にてお相手致しますわ・・・」


身体強化魔法・・・『アルマ』・・・命名者はあのジョーだ・・・俺では無い。


『あの身体強化の魔法つけてないの?じゃぁ俺が勝手に付けちゃっていい?』そんなノリで「トラン〇ム」やら「アク〇ルフォーム」やら「ク〇ックアップ」やら・・・どこかで聞き入った様なノリで決めようとしていた・・・本当に帰国子女疑惑があったが・・・。


最終的に『アルティメット』から『アルテマ』、更に略した『アルマ』という名前に落ち着いた。


「オォオオオオオ・・・・・・!!」


夜の更ける闇の帳の空にオオカミの遠吠え。

彼女は鳴いた、生まれ持った気高い血縁者である証明が全身の魔脈が金色に輝いた。


「フッ・・・ン!!」


目は更に異常性を秘めた鋭さを垣間見せ、前傾姿勢で駆け抜けた。焼ける空気の中彼女は疾走する。


ヴォォッ!!!


一瞬で赤熊獣の腕が飛んだ、ベテラン冒険者達は絶句する。

「グォォ??」と赤熊獣は困惑する、振り向いた位置には既に居ない・・・。


今度は背面から逆の腕を切り伏せる。それはもはや勝負とは言えない。一方的ななぶり殺しともいえる。


両の腕を失った赤熊獣、しかし魔獣というのは異質な気性を持つのが常識で怯えるとか恐怖というのは異常な程薄い。それ故に闘争本能に毒されて、自我が無く。

逆にまた自身の傷をつける者への執着は異常な程に付き纏う。それゆえ慈悲という感情は沸かないのも実際ある。


「やはり知性なき、魔獣ですわね・・・。」


赤熊獣は口に魔力を蓄えて一気に放出する。


ゴォッ!!


それは魔法と言えば魔法だが、魔法として『圧縮』と言ったプロセスなど一切持たないただの放出というシンプルなものだ。


それが、ヴィラへ一直線。赤い奔流が一気に染め上がった。薄っぺらい見栄にも似た攻撃。地表が焼ける事もなく表面に湯気が帯びる程度だ・・・。


「マズいぜにーちゃん!?獣人ちゃんが!!」


「大丈夫です・・・赤熊獣の方をみなさいな・・・」


そう言って指を指す。

赤熊獣の後ろ姿の上に、両肩を足場にヴィラの此方を向いて立っていた。

そのまま彼女が着地すると、赤熊獣は一気に前倒れに突っ伏す。


「アレは残像・・・残滓か・・・?」

「見えなかった・・・。」


ベテラン冒険者の魔導師はそう言って、只々絶句しるしかない様子だった。俺はヴィラを労う。


「戦技使わず倒すとは・・・」

「流石に『アルマ』を駆使するとそこまでの余裕は無くてよ・・・慣れるまでもう少し必要でしてね・・・武器も魔法もですが・・・」


ヴィラはダルダから外套を返してもらい羽織る中でそう切り返す。それを踏まえた上で俺はヴィラに言う。


「ダルダんところの新装備で魔獣相手でも引けを取らなくなって来たなぁ・・・」


新調した業物には満足していて何よりだ。顔には出ないが大き目の尻尾が左右に振っていた。それをダルダと一緒に見て安心していた。


兎も角この後の事後処理に色々奔走する事になるのだが・・・。

まさかああになろうとは・・・。

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