インターン編

異種族だって色々込み入った事情があるよね

序章 錯綜しているけど個人的な目的で辞令を出している訳じゃないよね

-1-


——グランシェルツ戦武堂、ここには多くの騎士達が決闘を繰り返し血を流した。

——物騒な謂れがあるが、まぁお互い命を落とす事を覚悟の上でそこに立っている。


「が・・ぁ・・・うそだぁ・・・ラグナぁ・・・」


——遠巻きで立っている、人生の半分を怠惰に過ごしたそれはそれは如何にも無能そうな大臣様が震えあがっている。俺がいない間、肥え太った豚の様にブックリとしておりコレはこれは不味そうな豚に成り果てている。


「一人も殺しちゃぁ居ないぜ?将来有望な騎士様達だ・・・こちらは国を潰すつもりで立っている訳じゃァねぇ・・・」


——俺の足元には死屍累々と言わんばかりに騎士達というには余りも青臭い、若輩者が軟弱なまでに突っ伏している。眉には八の字、目は怯え、口元は恐怖に歪むその様は何というか・・・


「なっさけねぇなぁ・・・それ位でビビりやがって・・・俺の息子は俺を睨んでたぜ・・・」


ガッゴオン!!


「あんときの事は許していないからね!!」


——後頭部に硬い鈍器、俺は嫁さんが投げたマジックロッドだ。手元に戻って来ると。ぶつけた部分の安否を気遣う、っていうか投げんなよ・・・。

——俺が嫁さんの気迫に振りむいてると。そこに数人の若者が立ち上がっていた・・・。


「つっ・・・つえぇ・・・」

「あの緑蟻獣の群れなんかより・・・圧倒的だぜ・・・」

「ったく・・眼帯男もそうだけど・・・世の中ひれぇな・・・」

「まだやれるな?!」


——おっほぅ・・いいねぇ気骨のある連中って。しかも若い。目が死んでいねぇ・・・。こういう奴らは一段と強くなるもんさ・・・なんでわかるかだって?


——俺の息子もそうだったからだ!!


-2-


『レイグローリー同盟学園』第一期生の初期末期総合試験は、これまでの期間による貢献活動の評価を基準に。


アマチの掃討活動による、戦闘並びにそれに準じた援護活動。他の組織からの評価を踏まえる。


「ぐあぁあああ・・・・・おわったぁ・・・」


まぁどれだけ貢献して高い評価をもらったとしても、一番の難関は異世界でもペーパーテストは難問だ。


「まったく・・・世界を知らないとはとんでもない・・・よくそれで旅をしましたわねぇ・・レージ殿?」


辛辣な口調で俺を評価するヴィラ。ネイアがそれにフォローを入れる。


「ま・・あぁ・・レージ様は・・支援して頂いた御仁が御仁ですから・・・ねぇ・・」

「いやぁ・・・ドーニンドー商会様様だス。例の一件も魔銀石の市場が元に戻って、ギルドもオトーちゃんも万々歳だス・・・。」


それを聞いて、ヴィラは思い出す様にはダルダに話す。


「例の注文の品はどれぐらいで出来そうでして?」

「そうだすなぁ・・・・」


ヴィラはダルダに自身の純正魔銀鋼のタカールを注文してそれの打ち合わせを始めてしまう。


「そっか・・・ヴィラっち武器新調するんだ・・・」

「まるで他人事だなぁ・・・ハルーラさんも武器を身長するんでしょ・・・?」


「ふっふーん・・・私の『魔弓』は、魔術ありきよ・・・って言っても少々不安はあるのよねぇ・・・。」


ハルーラの『魔弓』は元来矢ありきの武器だが、それ以上に魔法を重視する。そしてそれはシャーマンという立ち位置では重要な意味を示している。


「元々前衛って訳じゃないから難儀しているんだけどねぇ・・・こうね、手数があれば何となくなるんだけどねぇ・・・。」


彼女のぼやきは、口調そのものは軽いがかなり重い。

以前戦ったディーヴァの存在を始めとした、ゲロロックの能力を見て余裕が無い様だった。


「一朝一夕でなんとかできる方法なんてないだろうなぁ・・・」

「い・・・え・・・っちょう・・?」


「『一朝一夕』・・・ちょっとした時間って意味・・・わずかな間っていう揶揄表現・・・」


ネイア姫に説明をする。

う~んつい、前世の言葉を口走ってしまう・・気を付けねば・・・。


そんな中で、クシュリナ教官が妙な面持ちで入って来た・・・。


-3-


「なんですってぇ!!」


強烈な金切り声を上げたのは、ヴィラだ。

教官一人、俺たち諸々。難儀した表情でヴィラを見つめた。

言っている意味が分からない、政治に疎い面々。俺、ダルダ、ハルーラの三人はなぜヴィラが叫んでいるのか一向に理解できない。


それに対し、ミスティア、ネイアの二人は珍しく声を上げる。


「それどういうことですか!!」

「サーヴェランス王はそれを容認したと?!」


話は、こうだ。サーヴェランスの山岳側の領主が、海側の領主。特に獣人諸島国家に圧力をかける様に指示してきたのだ。これだけでも越権行為なのだが。


更に問題なのが、獣人諸島国家をサーヴェランスの元で管理する様に指示をしたのだ。


「俺でも分かるぞ・・・そりゃぁやりすぎだぞ・・・。」


「特に獣人諸島国家は、まだ未開に近い風土です。一番の問題は獣人達を・・・その・・あの・・・」


ん・・・ネイア姫のごもっている・・・。


「まぁその・・・『アレ』ですので・・・獣人は強い種の子供を残す事が優先行動なので・・・・」


ミスティアの鋭く、スゲェ説得力のこもった『アレ』という意味にゾクリとヤバ味が半端ない・・。流石元性奴・・・凄みが違う。


「しかぁしっ!!そんな強引な考えをお母さまが許すはずがありません!!」


そりゃぁそうか・・・ヴィラ母親は、金狼貴族って言われている程の御仁で。

属国とは言え、発言力は貴族クラスそりゃぁ黙る訳にもいかないだろう・・・。


「いや・・・まさか・・・」


がっ・・・っと俺を見る。


な・・なんだぁ・・・・??



「お母さまが動くと言うのは・・・まさか・・・・レージ様の・・〇〇○○?!」



いきなり、女の子が言ってはならん発言しだしたぞ!?

その発言を皮切りに俺に鋭い眼光が飛んだ・・・唯一理解できないのは俺である。


正直に言えばまだ俺は世界のすべてを見知った訳では無い事を思い知る。

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