後日談 やっぱり自分の知らない所で色々動いているんだけどどうしようもないよね


-52-


オーディーン領内の違法鉱床から抜け出た頃には、雨がやんでいた・・。

雨雲の隙間と月明りの陰、あの赤い船が姿を現した。そのお陰で騒然となり、その光景をレイグローリー側から騎兵隊の一団も目撃した。


その騎兵隊にはクシュリナ教官を筆頭に、シャリーゼ、ネイア姫、ミスティアとヴィラと見慣れた面々がやって来たのだ。


俺達がオーディーン領へ到着した際には。

騎兵局では、『ゲスノズ商会』名義の物件を人海戦術でシラミ潰しに捜査した。

違法採掘の保管倉庫を発見し、その事務室にある資料を調べ。例の違法鉱床の向かい方を記したメモを見つけ急いでやって来たのだ・・・。


オーディーン領内『城塞都市オーディーン』にて、『ゲスノズ商会』の長。あのジャガイモこと、タンゲッタは騎兵達に拘束。例の違法採掘場は土地的に危険と判断されて、封鎖する形となる。

その管理をゼフィー達、白耳長達が監視する事となった、都市との接点は僅かながら、持つような流れへと変わったが。有事以外は従来通りの形で平行線という落し所となった。


で、問題の違法採掘し保管した『魔銀石』に関しては、同盟都市レイグローリーの行政と幾つかの商会とギルドが買取り。その利益の殆どはオーディーン領へと送られ、オーディーン領内の治安維持費に投資する事となった。


さて・・・ジョーのその後だ・・・。

彼はタンゲッタ個人との契約で交わした事もあり、身柄を拘束。

意外ながら、タンゲッタ本人が責務を全部被る供述をし三日も持たずジョーは釈放される。ジョー自身も、己の末路に驚いた様子だった。


タンゲッタの味わった恐怖は計り知れない・・・。

なんせ、死人がよみがえると言う事態・しゃべる魔族・異常な魔脈の圧。その結果精神が持たなかったのだ・・・洗いざらいくっちゃべるタンゲッタの姿は担当の騎兵の方が困惑する程、憔悴と異常な老いを伴っていた。


-53-


ギルド街道、ギルド総本部のカフェテラス・・・といっても、個人用で特別に用意された部屋だ。その部屋で隻腕のジョーと俺は対面し、コーヒーに似た飲食物をテーブルに並べていた。


「レージ・サトウ・・?ひょっとして例の飲酒高齢スマート暴走プリ〇ス事故の死亡者の?」

「・・・まぁ・・ね・・・」


お互いの自己紹介・・・からの第一声だった。

奴の名前はジョージ・ゴトウ・・・有名企業のエンジニアでエリートだと言う。

奴の身分よりも、その交通事故原因の幕の内弁当の名前は・・・。意外な形で、俺の死後を知る事となる。


「まさか有名人と会えるとはな・・・」

「有名人?俺が?死んでるぞ向こうじゃぁ?」

「オイオイオイ・・・あの事件で結構騒然となってなぁ・・世間じゃぁ轢逃げ未遂の上級国民の爺の被害者、国会の議題で連呼だぜ・・・そのお陰で本人の名前をとってるしな・・・」


マジか・・・俺の両親は俺の命と引き換えに莫大な慰謝料をせしめたと言う話を聞かされ、最終的に高齢者の運転免許関連の新規制まで至ったと言う話だ・・・。


「っていうか前世とはまるで顔が別人でビックリだぜ?レージ君?あ・・でも子供を助けたから〇witterやSNSじゃぁ実名で実画像で有名でな・・・顔は不細工、心はイケメンっていうフレーズがトレンドだぜ?」


嫌なトレンドだな・・・俺が苦虫噛んだ表情をしながら突っぱねた。


「・・・俺は前世からの反省でこっちでは頑張ってんだよ!!っていうか前世の事を聞きたくて貴方を呼んだんじゃぁないの!!」

「ん?・・・そうなの?・・で・・隻腕の俺に何の用だ?こっちはこっちで無職と化しているんでね・・・」


この言い草・・・ん・・・奴は気づいていないのか?


「ディーヴァって奴・・知っているよな?」

「ん?ぁああ・・・あの青いフルプレートの?」

「アイツも『転生者』だ・・・」


俺の言葉に『はぁ?』と答える。ジョーは驚く・・・今知ったっていうリアクションだ・・・。俺は根拠を話す。


「いや・・・アイツ俺の事「麒麟児」って・・いってな・・・」


『麒麟児』っていうのは、優れた若者という意味合いで使われる・・・。

が・・・前世では帰国子女のジョーは日本語を理解しきっていない部分があり見落としていたと言う・・・。


「マジか・・・アイツも・・?」

「まぁ・・・俺自身、耳を疑う言葉だがな・・・。」


俺とジョーは沈黙する、それを破ったのはジョーだった・・・。


「『転生者』っていうのは君や俺・・・奴以外にもいるって事か・・・」

「否めないし、信じられないけど・・・可能性は・・・」


当初は『転生者』と言えば俺だけだと思った・・・が。

ジョーやディーヴァの様な面々と向き合って理解した。この事態は捨て置けない・・・ジョーの様に前世の知識を駆使して、独特の技術を繰り出す可能性が否めないからだ。


この世界に『転生者』という存在がどこかに潜んでいる事に、恐怖を感じていた。その為にもジョーを味方に引き入れたい・・・。俺の切り出した斡旋先をジョーに提示した。


「無職って言うんなら・・・ドーニンドー商会の伝手で働いてみないか?『転生者』のよしみって訳では無く、どっちかっていうと戦闘慣れした戦力としてだ・・・。っていうより、一回ジョーさんの事を話したら興味持たれて・・・。」


「ドーニンドー?あの最大手の商会の?」


今回の顛末の話をルイーンさんに話してみたら。彼もジョーの噂を聞いていたらしく、オマリーの慈善事業で孤児院の出資先の一つに彼のいた施設があったのだ・・・。

『千人兵』のブランドは確かで可能なら引き入れたいと言う。


「しかし・・・」


隻腕という後ろめたさにジョーは困惑する・・。左腕をさすっていた。俺は察した・・・。


「その義手も向こう持ちで新調するってさ、魔銀石なら例の一件であるし。その気があるなら優遇もするってよ・・・。」


「ほぉ・・・太っ腹だな・・・。ドーニンドーには何かと縁がある・・・断ったら罰が当たるってもんだ・・・それに・・」

「それに?」


「俺みたいに自由に動くコマがあれば、色々情報も捗るだろうしそう言う意味でもこっちとして好都合だ・・・。魔族の動きも気になるからな・・・。協力するぜ・・・レージ君・・・。」


ジョーはどうやら、戦えるなら戦うという気概を持っていた。『源魔眼』がギラッと光った。


-54-


サーヴェランス後宮会議堂内


——勇者の息子が二人いなくなったそうだ・・・グランシェルツ領内だそうだ・・・

——フン・・・疫病神の子供が居なくなって清々する・・それに幸いな事に我々の領土内で死ななかった事だけでも僥倖では?


——しかし・・・あのローレライが変な動きをしでかさないか不安だな・・・

——キチガイ王め・・・偽勇者をでっち上げなければ・・・こんな事には・・・


「・・・気にしなくても構いません・・・」


——ネージュ様!?

——ざわ・・ざわ・・・


「彼らの遺体は絶対に見つからない以上・・・あのローレライ王も動けないでしょう・・・それに、勇者の息子達の死には魔族も確認したそうですし・・・公になった所で影響というモノは一切ないでしょう・・・何より、彼らは例の石で魔獣化したのです・・大義はこちらにあります・・・」


——ふむ・・・レイグローリーのあの若者が奇麗さっぱり消した道理は罷り通りますな・・・。

——あの石で再生した魔獣は騎士の魔剣では勝てない・・・脅威はグランシェルツの連中も理解している・・・。それに空を飛ぶ魔獣と・・・問題は山積みですぞ・・・。

——あの愚王が何を言い出してものらりくらりと躱せばよいか・・・。奴は軽くいなさなければ・・・時間の無駄というモノ・・。


——急務として、石持ちの魔獣と飛行魔獣の対策が最優先ですな・・・。


——ざわ・・ざわ・・・


(たしかに・・・あの石を保有した魔獣と、飛行能力は脅威。強力な魔法と・・・特異な魔剣でなければ撃退できない・・・我々サーヴェランスにもその対策が必要ですが・・・人材が・・・。)


「では・・スフィアアーツからの魔導師の斡旋の打診、魔導師ギルドへの打診を早急に・・・。我々サーヴェランスは・・・獣人諸島国家にも協力を要請します・・・金狼子爵殿・・・宜しいですね?」


「んも~~~・・・ネージュちゃんの頼みならこっちは気張って頑張っちゃうわよ?なんせ、戦闘面ならこっちが上よ上。即戦力ならお任せよ?・・・でも会議の内容だと新種の奴はこっちも力不足よぉ~・・・。」


「確かに素の獣人の高さでは勝てない個体があります・・・魔脈に関してもう一歩踏み入れなければ・・・新しい魔獣には後手に回りますね・・・」


「ねぇねぇ・・・ネージュちゃん・・最近面白い逸材を見つけた噂聞いたわよぉ・・・うちの娘もお熱を上げてるのよネ・・・おたくの娘さんも満更でも無いっていうし・・・。」


——あの子爵様の娘、金狼貴族が熱を上げるだと・・・?

——ネイア様と争奪戦だって・・これはこれは・・・ネイア様も春が来ましたか・・。


「私としては、私に似ないあの子が熱を上げるなんて信じられないのよねぇ~!一度会ってみたいわぁ~・・・そーだ!!その子から色々手取り足取り腰取りで学びたいわねぇ~・・・」


「・・・なるほど・・・そう言う案なら・・・うちの子の伝手を利用して引っ張って来ましょう・・・学園の方では初期末期総合試験が終わったら、夏季長期休暇に入りますし・・・そこでギルドから特任という名目で引っ張るのも手ね・・・。」


——越権行為では・・・・しかしこれはこれで見てみたい・・・

——いやぁ・・・興味ありますなぁ・・・金狼貴族とネイア姫をガッツリつかむ・・・その若造・・・品定めには悪くない・・・。

——私としましては・・・金狼寡婦参戦かキますなぁ・・・コイツは見ものだ・・・。若い男と寡婦・・・コレはこれは・・・


——我々では木枯らしですからなぁ・・・老いは黙って見て楽しみましょうか・・。


「あ~~~~~ん!!楽しみ~~~~~!!!」


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