#10 前世も異世界も摩訶不思議な事象に見舞われるけど仕方がないよね
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オーディーン領主ゼオン氏は小奇麗な身なりをしている。爵位としては最下の男爵ではある、だがそれを逆手に取った庶民と肩を並べる立ち位置として非常に親しまれている御仁・・・。
そんな父の後継ぎ、長兄ラーゼ氏は開墾現場に出張る現場監督の様なフィジカルよろしくって感じだ。ゼオン氏よりかなり大柄な方で貴族の息子っていう印象より、如何にも農夫っていう風体が強い。
次兄のフォルマ氏は、地質学者で考古学に精通している。食客のジオ教授の助手をしながら、傍らで長兄の仕事を手伝っている。インドアなんだけど弟のカリスと体格がよく似ていて、何と言うか間違えそうなほどよく似ている・・・。
末っ子に甘い、心配性な御内儀のラフィアさんは久々の息子との再会を嬉しそうだった。
早速ながらカリスの送った手紙に加味し、魔銀石の不正採掘と不当流入の全容を話す事。そう言う役はカリスが敢えてやってくれた・・・。
息子からの、畑違いの分野での実態を初めて知り。絶句する領主、ラーゼ氏は酷く強張り、フォルマ氏は酷く顰めている。
一連の事の顛末を聞き入ってから、口を開いたのはジオ教授と言う白髭の高齢者だ。
「・・・なるほど・・・」
そう言って、地質学者としての視点で思い当たる節があった様だ。
「魔銀石については、その推測は強ち間違ってはいませんな。なんせ、この辺りの山脈は非常に複雑な地層をしておりまして・・・元より高低差の激しい地形を形成した土地・・・深い地層にあった魔銀石の鉱脈層がせりあがり、地表近くまでせりあがって来ているのです・・・」
ジオ教授は自分の蓄積の見識、そして俺達の情報を照らし合わせ。彼らの目的はほぼほぼ、間違い無い事を保証してくれた。しかし如何せん彼でも割り切れない内容があると言う。
「ただ・・・そう言う地層はある境界線を越えた所でしか出来ないのも事実でして・・。その境界線が『死の道』と言われる所です。」
『死の道』に関しては、土地の歴史に詳しい領主のゼオン氏が語った。
「『死の道』は谷の中でも最も深く狭い谷そのもの、『網の目街道』は『死の道』を境界線におります。彼らの森に入るにはこの街の北側にある『渓谷森林』を渡らないと無理でしょうな・・・ですが・・・」
領主の話に次兄のファルマ氏が『渓谷森林』について補足してくれた・・・出た不審な一面を醸して。
「あそこは不思議な森でね、何でか知らないけど。無意識の内に戻っちまうんだよな・・・」
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「そうそう・・・不思議な森よねぇ・・・みーんな入るんだけど、戻ってくるのよね・・・御伽噺に出て来る、迷いの森よねぇ・・・」
御内儀様がまるで、御伽話の様なお話でもするかのノリでファルマの言葉に続いて話してくれる。
それを聞いて領主様が思い出し、経験談を話してくれた。
「実はね・・・私も何度も足を運んで挨拶をしようとしても、いつの間にか戻ってしまう・・・不思議でならん・・・」
「いやぁ俺も、教授と一緒に出張ったんだけど知らない内に都市の城壁に付いちゃってさぁ・・・思わず笑ったよアレはさ・・・」
領主の話に続いて、次兄のファルマが笑い話の如くおしゃべりをする。段々雰囲気が変わって来たなオイ・・・。
「ありゃ傑作だったな、昼頃畑仕事をしていたら森からヒョッコリなぁ」
長兄ラーゼ氏が次兄の笑い話のオチをシッカリつけた。
ほーん・・・その会話にピンと引っかかった・・・足りないピースがもう一つ欲しい所であった。その足りない部分を拾えるか・・・、答えは彼らの記憶しかない・・・。
「この城塞の北側の畑って、ひょっとして獣害や魔獣の出没は皆無では?」
俺のその言葉、何気ないものだが・・・俺が知る知識にだと『アレ』にあたる・・・。
カリスは父親に目を配り。領主や御内儀は見合わせ、現場に出ている長兄が驚いた様に答える。
「そういえば・・・そうですねぇ・・・そんな報告も目撃も・・確かに言われると全く無いですね・・・言われるまで気付かなかったけど・・・」
長兄の答を聞いた、ハルーラは後ろから問いかける。どうやら彼女も思い当たる節がある様子だった。
「何?今のにヒントでもあったの?」
「まぁね・・・ネタが分かればこっちから行ける」
「行けるのか?マジで?」
カリスは驚愕し、驚きを隠せない。ビンゴとまでは言わないが・・・『アレ』だとすれば・・・。答えは長兄のラーゼ氏にあるはず・・・。
彼が俺の思っている、模範的な回答が返ってくるはず。最終的な質問をラーゼ氏に聞いてみた。
何も知らん奴から聞けば他愛ない事だ。
「ラーゼさんは、森に入った事は?一度もなかったのでは?」
「そうだね・・・僕は入らないよ・・・なんていうかおっかなくってね・・・」
「森が怖い?・・・森が怖いっていうのは他の森にも入った事が無いダスか?」
ダルダはラーゼ氏の言葉に違和感を覚えた様だ。ビンゴだ・・・間違いない・・。
「いや。あの森が怖いかな?そんな感じでさ・・・」
「うん・・・それが普通さ・・・ありがとう・・・」
俺の返答に、ダルダとラーゼ氏は首をかしげる。カリスは言っている事自体に理解できていない様子ではあった。
唯一黒耳長のハルーラも俺の意図を察した様だ、色こそ違えど。ソレなりの文献を見聞きしたのだろう。
「こればっかりは、ネタ明かせない・・・彼ら・・・白耳長達とっては死活問題だからな・・・。」
「ネタは解らんが・・・要は、バレたら領地内で大問題って事か?」
カリスが咄嗟に緩衝材の様に促してくれる。何気ないフォローだが滅茶苦茶助かった。
「ああ・・・、なるべく出入りする面々は人間を避けるべきだし。何より事態を理解でき、尚且つ彼らの元から持っている異種族不信を助長させたくないからな・・・」
「白耳長さんたちとお友達になれないのは残念だわ・・・」
俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか、御内儀のマイペース具合は中々凄いものだ・・・。
カリスは御内儀のおっとり具合には慣れている様子だった。
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翌朝、ここにも刻時鐘が設けてあり、最初の一回目が鳴る前に、出立する。
フォルに跨る俺、愛馬に跨るカリス。小さい幌馬車にハルーラとダルダが乗っていた。
「人間がダメって言っておいて俺は一緒に同伴か・・・田吾作」
カリスがボヤく。だってお前一族一同、同じ顔してるしその顔が連中にとって唯一信頼置けるんだぜ?なんて言えない・・・。
「オーディーン家の人間はいた方が良い、カリスはまた俺達と一緒にレイグローリーにとんぼ返りだ。だとすればネタが知れてもバレないだろうに」
カリスは俺のもっともらしい言葉にぐうも出ず。もしもの事態を心配している。
「しかし、白耳長達が俺を嫌ったら・・・」
「っていうかさ・・・連中は顔を覚えてくれてるからな。家の事、土地の事情、レイグローリーの事情と、精通して行動出来て、尚且つ戦えるのカリス・・・君だけだ!!」
そういって説得する、ウーンって顔になっているが郷土愛の強いカリスは意地悪な顔をし。
「じゃぁ、里に向かう最中に森の秘密を聞かせてくれるかい?田吾作?」
「あぁ・・・じゃっ、これを口元を覆ってくれるかい?鼻までな・・・それで行けるから」
「お・・おう・・・」
カリスは俺の案の内容に不信感を抱く、当然だろう。なんせ出したのは口元を覆う布っきれのマスクだからだ。
なんせその布切れ一枚で、行けるのだからな。
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