#11 ネタが分かると意外としょうもないって拍子抜けするよね


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早朝、『渓谷森林』を突き進む。『死の谷』の付け根を並足で進める頃には日の当たりがきつくなった頃合いで、カリスにネタ明かしを話す。


「簡潔に言えば、ある香木を焚いて人を避ける様にしているのさ。人だけでなく魔獣もそれを嫌がる効果ある香木をね」


「香木焚いただけで、魔獣が避けれるなら儲かりそうな話だけど・・・」

「無理無理、アレは移動用には使えないわ」


俺の回答にカリスのもっともらしい意見をするも、ハルーラがツッコミを入れる。

彼女もマスクを付けた事で、ネタを理解した様子だった。


「アレは地面に沈んで溜まるからね・・・でもね、風が吹けばすぐに霧散するのよ・・・」

「・・ええっと・・・?」


ハルーラの答えありきの解説では、理解できないカリスに、俺は助け船を出す。


「その煙は空気より重い・・・地面に漂う煙って思えばいい、で風に流れると一気に効果を失う。もうそろそろ可視化出来るから実際に見た方が良いな・・・」


進めば進むほど・・・朝でもないのに草葉の陰からうっすらと霧とは、明らかに違う怪しい煙が姿を見せた。

それは口元の安っぽい布一枚で見えるのだ。初めてみた彼から見たら異常な光景に見えるだろう。


「こんなに白い霧みたいなの初めてみたぞ・・・」

「コレが『魔香木』の正体・・・嗅ぐと見えなくなるのは幻視の一種で、実際は見える。でもな・・嗅ぐと鼻や肺からはいって、微細な魔力で脳の魔脈点を刺激して見えなくなってしまう・・・利点は風に流されない限りは溜まったままって所さ。」


カリスは驚いたように見入った、見た事もない世界でも見るかの様に驚いており。俺はそんな彼の横目に、上からの気配に感づいた。


「俺達に気づいた様だな・・・彼らも」


上を仰ぐと、そこに朝日を陰に姿を見せた。ハルーラにカリスも俺の眼の動きに合わせて見上げる。


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「まさか、貴方が此処から来るとは・・・」

「再度ここに踏み入れる事を許してほしい・・・」


俺達と同じく口元にシンプルにマスクを覆っている、携帯性に優れた小弓を背にし身軽な細身で木の上に立っていた。

一目見て俺とわかったのはフォルのお陰だ。

しかし・・・彼らが注視したのはカリスの方だった、オーディーンの一族は酷く顔つきが似ているのもあった。見覚えのある顔なのだろう。


「貴方が此処に来た事に咎は無い、むしろ我ら一族感謝の念すら感じる。おおよそオーディーンの縁の者がいるという事は・・・この地に関わる事態に関してだな・・・」


カリスは驚いた様子で俺を見る、俺は大丈夫だという顔をし安心させる。


「えぇっと・・・何でわかる・・・」

「貴殿の始祖にも縁がある、ここに出向いた理由は何であれ歓迎をする・・・オーディーンの者よ・・・」

「そうか・・・そうなのか・・・俺は領主の代わりで来た。そして協力を仰ぎたい。」


カリスの驚き混じりの言葉に、彼らは淡白な反応。それにカリスはハルーラに皮肉る。

「・・・お前に比べて随分雰囲気違うな・・・ハルーラ・・・」

元々、感情の希薄な種族でもあったのだが。なんせハルーラと言う物差しだとズレているのは否めないだろう。黒髪は顰める。

「ひどいわねぇ・・・」


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なんにせよ『死の道』の向こう側・・・要は『渓谷森林』わたる事ができた。

『白耳長の里』へと入るや否や、即歓迎された。

久しぶりとは言え中々気恥ずかしい・・・。


「レージさん!!」

「お兄ちゃん・・どうしてまた!!」

「まさか、来てくれるとは・・・」


長老を始めとした年長組も現れ。皆背中に弓を携えたり、手入れをしていたりと物々しいのが印象深くも俺の顔を見て笑顔を浮かべた。


「色々込み入った事があってね・・・連れも同伴で申し訳ないんだが・・・」


歯痒さ混じりに話す、それを聞いていた長老が首を横に振った。


「大丈夫ですとも・・・儂らも大きな問題に直面し、困惑していてな・・・オーディーン家の者と黒耳長・・・地人族の娘たちもレージ殿の友とならば歓迎もしよう・・・」


カリスと俺、ハルーラとダルダはお互いの顔を見合わせた。長老の家に向かう間際に、簡潔に目的を話す。

長老の家は山岳の森林地帯と湿気の強い環境もあり、家の造りは気密性と通気性を両立できる構造をとっていた。そんな中で囲炉裏を囲って話を始める。


「なるほど・・・それなら・・・『奴』・・・いや・・『奴ら』と言えば良いか・・・一年ほど前にこの近場の洞穴に出入りしておって、そこから何人もの者共が大量の石を運び出しておる・・」


「石・・」


顔を見合わせる、間違いないだろう。


「石・・そう・・石をたくさんな・・・遠巻きからずっと監視し続けている。儂らには気づいていない様子だったが・・・連中の行動がうすら気味悪くてのう・・・」


白耳長達からすれば頓珍漢な事だ、石を何に利用するのか見当もつかないのだろう。


俺は彼らの言葉でわかる様に説明する・・・。そして連中の目的を説明し、現在のレイグローリーに及ぼす影響を説明した。


「ふむ・・・アレが騎士の使う魔銀の剣・・そして貴方達の獲物にも使う素材じゃったか・・・しかし、それを必要とする事は何かしらの大事があったのでは?」


鋭い、皆ドキリとした。俺は頷いて彼の疑問に答えた。


「『黒妖石』っていう石を使った魔獣が現れ、それが倒せるのは純粋な魔剣しか聞かないのです。そして、しゃべる魔族、彼らは空飛ぶ船を使い奇襲をかけてきています・・・。魔族の動きは活性化していて、それに乗じて・・・」


俺の言葉はそこで遮られた。目の前の長老が声を震わせてた。


「『黒妖石』じゃと・・・あの魔界の石を使った邪法の技を・・・?」


「どういうことだス?」

「知ってるの?」


俺は凝視する、長老は落ち着くまで時間が掛かってしまい。同席の者達が宥めている、カリスですら只事でない雰囲気を感じ取り落ち着かない様子で不安げに俺に話しかける。


「なんか、厄介な事になりそうだな・・・」

「『黒妖石』について知っているとは思わなかったなぁ・・・」


答える俺も、思わぬ貰い事故でにでも貰った様な気分になっていた。


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