#9 詫びとか寂とか改めて見ると魅力的に感じるよね
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『網の目街道』っていうのは、同盟都市レイグローリ北部に位置する。グランシェルツ管理オーディン領地内のほとんどを占める。
なんせ、山の数は数えても大小合わせて50、そして街道が縫う様に出来上がっている。
そんな天然迷路の中では治安は最悪。外敵から守るための、交差する所に壁幕と関所がガッチガチに固めた村々が点在する。
その中でも『城塞都市オーディーン』での最大の特徴、立派な石造りの城壁を境界線に広がる段々畑の穀倉地帯でもある。といっても、東側は『死の道』によって広がる事は無く。専ら北と南、西の三方に広がる穀倉畑が特徴である。
「へぇ~立派なもんだ・・・味があるっていうか・・・」
城壁の関所を通り、街に入った。
5桁満たすか満たさない程度の人口を誇り、背の低い平屋が軒を広げている。
城壁と肩を並べて建物の年季は古い。強いて言えば前世の記憶にあった地方の木造建築が目につく下町と言えば良い。でも、道は広く荷車と馬車の横行は激しくてなかなか道が広い。フォルの上から眺め、見まわした。
そんな姿に不思議そうにする、カリスが突っ込み指を指した。
「流石、田吾作。こういうのでもはしゃぐのか・・・どんだけ田舎だよ・・・で・・アレが領主館・・・俺の生家だ。」
指の切っ先に向けたのは目に付いた年季のある屋敷、・・・平屋の家々と一体感があった。
それは開墾の時代を今なお続けている土地文化のお陰だろう。
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出立から18時間位と言えば良いか・・・カリスの顔と土地勘の持つ彼のお陰で、最短ルートでの道筋を決め。目的地まではあっさり到達したのは流石だ。
お屋敷の正面玄関に、カリス同等の長身の髭を蓄えた父親らしきの年配男性が盛大に出迎える。彼を皮切りに歓迎のあいさつを繰り出した。
「やぁ・・カリス!!おかえり!!」
「まさか、カリスがお友達を連れて来るとはね・・・今まではこういう事が無かったからうれしいよ。でも・・・お前には顔に泥を塗ってしまったようだ・・・」
「しかし、君がこんな形でやって来る事には身内としては複雑だがね・・・。」
一人は茶髪の大柄な若者、如何にも長兄と言わんばかりの男性は服装は質素にしていた。さっきまで農作業していたのだろう、酷く汗をかいており申し訳なさそうな顔をし、拭いている。
そして、カリスと同じ髪の色を持つ銀色サラサラヘアーを短くし。やや隠遁な感じが拭えないもう一人の男が複雑そうな表情を浮かべた。
三人共揃いも揃って、カリスに似て美形で彼もしょうがないよと言う顔。歓迎の言葉に、対し俺に一瞥する。
「父上、カリス・オーディンただいま戻りました。ラーゼ兄さん、フォルマ兄さん。ただいま・・・格好の事なんて気にしないで良いさ、この町を好いてくれそうな奴らだし。」
フォルから降りた俺は会釈する。そして、馬車の荷台からダルダとハルーラが下りて来た。
二人とも馬車の中で午前は軽く寝て。午後からは外の風景を楽しんでいた。
降りた時は固まった体を伸ばしていた。
「さっすが、オーディン領土・・・開墾都市だけあって質素ねぇ」
「はうあぁ~・・・疲れただス・・・」
馬車から出て来た女性客に領主は驚く。しかし、刹那にカリスは首を横に振る。
「嫁でも連れて来たとは・・・」
「いいや・・・連中の連れでね、簡潔に手紙では説明はしたけど。もう一回ジオ教授と一緒に説明がしたいんだが・・・連中の紹介も兼ねてね」
さぞ残念そうな顔をする領主。
ジオ教授と言う方と領主の御内儀・・・例の地質学者とカリスの母親との紹介も兼ね合いで応接間に案内する。カリスの見栄とは裏腹に、カリスの父親は自嘲気味に案内する。
「いやぁ・・・貴族と言っても此処まで質素な者も珍しいでしょうが・・・」
「うわぁ、年季の入った屋敷だス・・・」
「開墾貴族のオーディーン家ね・・・親子三代の年季は半端ないわねぇ・・・」
屋敷の中の印象は老舗旅館に似た渋い雰囲気があった。西洋的な派手な装飾や色鮮やかな敷物などは全く見受けられず。
一言で言えばセピアな空気と世界が広がって居た。
ダルダとハルーラは俺と一緒に天上見上げて、梁を見入っている。
「独特な張りの組み方に見えるけど・・・。」
「耳長の家に通じた梁の組み方ね・・・ほら、彼らは自然から建築学を学んだっていう御伽噺もあってね・・・」
その梁の組み上げ方には都市部には無い複雑さがあった、記憶にあるなら前世にあった日本家屋にも通じる。和洋折衷にも通じた異質感拭えずにはいられない。
「ようこそ、オーディン家の屋敷へ。早朝から来て大変だったでしょうに・・・。」
わびさびかな・・・俺はそんな空気を感じ取った。突発的な前世の記憶を思い出した。
「・・・!!・・・・」
いや、おおよそカリスの母親の所作と応接間の空気。それとない整合性が伴っていた。
「すごいなぁ・・何もないのに・・・なんっていうか・・・」
「何とも言えない雰囲気があるだス・・」
クラッとした、このほんのりとした光の当たり具合。木造ながらに木の床のテカリ具合。
明治とか大正とか、そんな時代にあったクラシックな空気だ。写真や映像しかないが、やっつけたかのようなレプリカで見た幼少時代の記憶がフラッシュバックする。
「・・・わびさびっていうのかな・・・クラシックで・・こういうの・・いいなぁ・・・」
思わずぽつりと吐いた。窓の外の青葉達が絵画のようにも倒錯。それは一つの空間で、向こうの情景は絵画ではないかと言う錯覚にも見えた。
「ワビサビ・・・面白い言葉ですね・・・なんですのソレ・・・」
「え・・ああ・・まぁ・・妙に寂しく感じて・・・落ち着くって・・・そんな意味です・・はい・・・あはは・・・」
そんな言葉の真意を聞かれるとは思わなかった。
俺に流れる様に問いを掛けた妙年の女性こそが、カリスの母親だった。
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カリスは本当に母親に似ていた。
カリスは流し目で面長だが、彼の母親はその部分を更に女性的にした印象があり。彼の見栄ともいえる、ワザとらしい意識過剰さと言う仮面を剥いだら素の彼はこういう印象なのだろうと直感した。
「カリス、ご無事で・・・無理をしていない?仕送りちょっと多すぎるわよ?ちゃんと食べている?痩せたんじゃない?」
「大丈夫です、学院食堂では不自由して居ませんし。むしろ皆が心配ですよ・・・。それに、こちらの治安が悪いというのもありますし・・・。」
そんなやり取りを見て、俺はふと思い出した。
俺は前世ではあんな風に親を労わった事が無いなと・・・。
つくづく俺は前世では親不孝だなと感づいていた。
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