#1 得する為に独占したらどう考えても皆が迷惑するよね
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『三国掃討』が終了し、約一月ほど経った。
夏に差し掛かる前に梅雨に似た雨季がレイグローリーに訪れる。
所謂一つの『梅雨』と『夕立』っていう奴だ。
この日も午後の鍛錬の真っ最中。終わり頃には、バケツをひっくり返ず様な豪雨の真っ只中だ。
そんなノイズと、仰々しい程の爆破音、轟音が入り混じって響いた。
ズドォオオオオオ!!!ズゥウン・・・・ゴォォォ・ボォッン!!
憤怒と怒気の声が響く。
出所は『
模擬専用グラウンドから煙と爆炎が浮かんでは消える、連日に次ぐ連日でもう日常と化していた。
「ウーン・・・新種の飛行型ホムンクルスを再現したけどどぉーお?今週中に再現出来たんだよ・・・突貫だけどねぇ・・・」
母に負けず劣らずのマッドなシャクリ講師が合羽を被って腕組み。ご自慢の新種の個体のお披露目しており。これまたマッドなお顔でご満悦。
「・・・かなり再現度高いですね・・・挙動なんかそっくり。幾分、スピードが遅い気が・・・」
「確かに、それに私が戦ったのは他の個体と連動して戦っていましたから・・。」
「・・・ふむ・・・」
俺とミスティアは飛行魔法から着地。フードにポンチョ系の雨合羽を着こんでいても、雨水が服の中に入ってじっとりとしたものが拭えずにはいられない。
「やっぱり・・・あの時の個体ですら文献不足だったからなぁ・・・」
「対空戦闘に慣れてるのも問題ですが・・・」
「それに・・・石持ち個体では、一般に使われる魔剣では太刀打ちは・・・」
講師の愚痴に、ヴィラが続け。ネイア姫がアマチの一件での問題点を指摘する。
致命的な力不足にダルダは首をかしげる。
「『純魔剣』だスな・・・純粋な魔銀鋼で作った刀剣・・・不可能では無いダスよ。けど、一番の問題は使い手にあるだスね・・・」
「魔脈のあれね・・・私も少し考えてるのよねぇ・・・」
ハルーラはダルク侯爵の荒唐無稽を、何をどうとらえているのか知らないが信じている様子だった。
「しかし、この時期で春季休暇って言うのも凄いな・・・」
春季休暇。
春先っていうと『三国街道掃討』を含めて今の時期までの3か月間を耐え抜いたご褒美と言えばいいだろう。
この期間までの事を『デスマーチ』言われている。
入学しても実際、脱落する者が続出・・・そしてソレを乗り越えた者が『春季休暇』と言うご褒美にありつける。
まぁ実際は『夏季長期休暇』への下準備期間でもあり。約一週間の自由を与えられるのだ。
「・・・」
「ダルダさん?」
ヴィラは犬の様に敏感にダルダの感情を読み取っていた。
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午後の講習後。
夜では各個人で不得意得意分野の鍛錬を補う。ミスティアはシャハラ講師の元で体術を。ダルダとハルーラは無属性維持を練っており。
ネイア姫は飛行魔法の習得に悪戦苦闘気味だ。
すっかり最高位の封印環での活動にすっかり慣れている様子だった。
夕立からの降り込み、凄まじい豪雨が窓を叩きつけている。
珍しい事に、ダルダが俺の部屋にまでやって来て相談だという。それは俺の伝手を頼って来たらしい。とりあえず、お茶と用意してダルダの話を聞いた俺は開口一番は困惑した。
「えぇ~~?魔銀鋼の価格が上がっている?」
「そうだス・・・よね・・・」
魔銀鋼・・・・
簡単にっちまえば、魔力を帯びやすく維持しやすい金属だ。
刀身に特殊な魔力の膜を生じ、鋼すらも帯びさせる不思議な金属だ。その分、魔力の維持により錆とは無縁の金属でもある。
欠点は従来の金属より重くその手に握る者には魔力を吸い取る事で力を発揮しているから。騎士になるには強い魔脈は必須と言う、誰でも使える訳でもない。
「んで・・・俺の相談って言うのは・・・ひょっとして?」
「原因は・・・わかっているんだスが・・・・・・ドーニンドー商会に顔が利くレージさんなら、確実な情報で判ると思うだス・・・。」
成る程・・・アマチの一件以来、水面下で各国が動いている。その影響で魔銀鋼の需要が高くなってしまい、金もうけの連中が買取を始めている・・・そんな所だろうと安直ながらに感づいた。
「最近は・・・法外な価格で横流しをする連中もいるだス・・・」
「・・・横流し・・・」
・・・横流し、わかりやすく言えば転売だ・・・この世界でもご法度で。対策が取れそうなのは商業ギルドだ・・・。それに、彼女は生産系に就いている鍛冶屋。その立ち位置は、商業ギルドだし個人経営でもある。
前世の言葉で言わせれば、大企業と下請企業との関係である。だが実際、この世界においての下請けは前世以上に苛烈らしい。
「うちのガーン鍛冶屋は個人経営だス。お客さんは皆、ウチらの腕を見込んで武具の製造依頼をしているのだスが・・・。材料を始めとして素材は、冒険者ギルドへの依頼か商業ギルドからの割高で仕入れるのが常識だス・・・。それを防ぐには傘下に加入するダスね・・・加入すれば別個の客を優先しなければいけないだス・・・そうしたら・・・」
「元のお客を棄てなければならない訳か・・・個人経営には不利な状況って訳だな・・・」
「そうダス・・・実際、アフターケアもうちらの仕事だス・・・武器を購入しても定期的なメンテナンスは必須だスね・・・その修復材料にも魔銀鋼を伴った器財が必要だス・・・」
実のところ、魔銀鋼は錆とは無縁ではあるものの。原因は魔銀鋼の持つ特性と関与、デメリットもそこに起因しているのだ。
錆に無縁とはいえ、魔力による研摩による極々僅かながらに損耗するからだ。
放っておけば、使い手自身の魔力によって劣化を起こし崩壊。それを防ぐには魔銀鋼による再定着が必要だ。
携帯品であれば『魔銀布』と呼ばれる布で拭ったり、鍛冶屋ならば『魔銀晶』と言われる砥石の様なもので研ぐ。
そう言う品々を仕入れる先は商業ギルドから・・・だが、ダルダの身体が一層小さい。
「そうなったら・・・」
「難しい問題だな・・・だが、俺達にも関わる・・・なんとか口利きをしてみるよ・・。一番良いのは元に戻す事なんだが・・・。」
とはいうモノの・・・下手には動けないだろう・・・翌日から『春季休暇』である事も伴って久々にルイーン邸に戻る事もあったしこれ幸いだ。
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ルイーン邸にもどっても、土砂降りの空色は酷く暗い。
デスマーチの日々はハードな訓練続きでもあった、『
「おかえりなさいませ・・・レージ様」
「暫く帰って来れなくて申し訳ない・・・」
「いえいえ。鍛錬に精を出す為に何のお咎めを致しましょうか?致し方なき事です・・・。」
「ルイーンさんは?出来ればお話をしたいんだが・・・。」
アルフレッドは、俺の言葉に反応。ピクリと眉を動かす、しかし察しながら口に出さなかった。
帰宅すれば小部屋に入る、待ち時間でウェルカムドリンクに甘菓子を添える。それが当たり前になって来ており、体は恥ずかしい事に慣れてしまった。そこにアルフレッドが口を出した。
「現在、大旦那様はお留守でございます。商業方面で動きがあり、今は奔走している最中でして。」
「ひょっとして・・・魔銀鋼の件ですか?」
「はい・・・ご存じでしたか・・・魔銀鋼について各国が需要を求めてきて、こちらでは不足となり始めています・・・。」
「俺が、純魔剣の事を父さん達に話したのがマズかったとおもっていたんが・・・」
腕を組んで、しでかし案件に頭を悩ませるも。俺の困惑ぶりを見て、アルフレッドが首を横に振って擁護する。
「それは詮無い事です、おおよそ鼻の利く連中が我先に独占したのが原因かと・・・。」
「その連中は、商業ギルド内にいる・・・って言うのか?」
「どうも・・・商業ギルドでは無く、無許可で営業している小売店の者共です」
「無許可か・・・要は違法・・・」
「左様です。」
「う~ん・・・」
内心怒気の含みがこもったアルフレッドの言葉。
俺は、ギルド文化による背景をこの一件で知る事になる。
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