学園編Ⅱ

学園内だけでは世界を全て見通しているわけではないよね

序章 過去のシガラミがあったとしても割り切るには時間が必要だよね


-1-


——グランシェルツっていう国は、元はローレライ国の一部だ。ローレライは過去数世紀にわたる強大一国時代でもあり、国レベルの騎士団だった故に独立するも属国と言う名目で建国した。

——それ故に、立場が出来上がっており、従順な間柄を継続していたのだ。

——だがそれは代々変わっていくと、王は劣化していく要因へとなっていき。俺の世代では、前代未聞の稀代の愚王ローレライ王だった・・・。

——過去の遺産を食いつぶしていくごく潰し・・・それが半世紀以上にわたった為に、今ではすっかり弱小国と化していた。

——そんな背景変化を理解したグランシェルツは、ローレライと国交を断絶したのが、かれこれ10年ほど前だという・・・。それは、新国王の就任と同時に行った最初の国政だったという・・・。


-2-


——目の前には、剣と馬を交錯し、上部に王冠のシンボルをあしらった国家の象徴。その豪華な扉の向こうに『謁見の間』が広がって居る。


「グランシェルツ騎士団長!!ゼノス・ヴォルギン!!先の囚人城での鎮圧をした冒険者の方々をお連れ致しました!!」


——ゼノスのボロボロな姿に皆驚いている、嫁さんの剛腕爆砕ぶりを実感し。これ以降に婚期を逃す事になったら、原因はコレだろうなぁ・・・。

——フードを纏い深くし、顔を隠す。サークやアージュ、俺の嫁さん。口元が心底嫌そうな顔をする。連中は貴族嫌いのど真ん中に立たされた記憶に碌なものが無いからなぁ


——ざわざわ・・・アイツは!!・・ラグナだと!?

——バカな!!生きていたのか!?・・・今までどこに・・?!?

——あの地人の男もいるぞ!!・・・アイツはローレライ王に直談判して、投獄された・・・。


「国王陛下!!この男は・・・」


——誰かが声を上げる、さも当然の想像を発しようとした・・が。凄まじい怒気のこもった声が響いた。一瞬声色が美しすぎて女かと思ったほどだ。若い男・・・見た事がある。囚人城にいち早くやって来た騎士だ・・・。


「だまれぃ!!此度の一件の貢献者に対し貴様ら貴族が口出しをする理由は一切合切権利など・・・無いっ!!黙って見て聞いておれっ!!」


——国王の玉座の左側に建っていた。立ち位置からして・・・、王族の血縁者らしい。驚いたねぇ・・・。にしてもこの国王どこかで・・・。その一言で沈黙をする、それは夜の静けさに溶ける様な程だ・・・。

——ゼノスが一歩前に出て、国王に跪拝し。癖っ気の麗人の騎士様が静寂を破った。


「父上・・・この者達が暴徒を鎮圧し、草民達を避難させた。冒険者達にて御座います。先ずはゼノス騎士団長の嘆願・・・ならびに私の進言を通して頂いた。異例の謁見に感謝いたします!」

「うんむ・・・ジード・・そしてゼノスよ。気にする事は・・・ない・・・。そして・・・ラグナよ・・・私を・・・覚えておるか・・・?」


——王の言葉、なんということだ・・・なんという老いをしていらっしゃる・・・。


「・・・失礼ながら、貴方様がこの国の王となっていたとは・・・驚きました。ボルツ王・・・。」


——自分でも情けなかった・・・声を聴いてやっと思い出したからだ。この方は先代の兄弟の中でも末弟で日陰者と言われた。ボルツ様ではないか・・・。私より一つ上なのだが、幼少時代は良く剣の稽古をしたものだ・・・・。


「このラグナ・エクスバーン。一目見た時、顔を見忘れました・・・。大変申し訳ありません」


——俺は、利き腕に握り拳し腕を胸に水平。膝、つま先は直角にすると、左足を後ろに滑らせて跪く。そのまま上半身を前に沈ませ、床の赤絨毯に額を付ける。これがグランシェルツ伝統の、跪拝だ。


「その跪拝の行・・・それだけで十分ぞ・・・我が祖父と父がおこなった、貴殿への仕打ち、そしてローレライの大罪を背負う我が一族・・・その為に・・・」

「・・・貴方様の事です、今ここで・・・私の剣で討たれるおつもりか?」


——王の言葉を遮る俺の言葉。・・・・空気が凍る、王はさも当然とゆっくり頷く。静かに貴族連中がどよめいた・・・。


「・・・それは出来ません・・・残されたものが悲しみ。貴方様と我らとの間に新たな溝が生まれてしましょうぞ・・・。僭越ながらの進言・・・故に赦しを・・・。」

「・・・残されたものが・・・苦しむ・・・か・・・」

「はい・・・私も我が子から諭され、今の今になって・・・。」


——それはかつて息子から教えられた事だった・・・たしかに・・・そうだな・・・。


「子・・・人の親となったか・・・その子は今?」

「ええ・・・少々、ある地へおりまして、剣を磨いております・・・。」

「そうか・・・そうか・・お前の子なら・・・さぞや剣の腕も立つだろう・・だが儂の子・・・負けはすまいに・・・のう・・ギルガス、ジードや・・・」

「王の聡明なご子息様には・・・斯様かような場で再会を許して頂いた事に感謝します・・・そして・・・お互い親馬鹿となりましたな・・・」


——すっかり、親同士の会話と化した・・・。しかし、この空気の中で小汚い物を見せる事に気が引けた。


「さて、世間話は程々に・・・・実を言いますと、悪趣味ながら手土産をお持ちしました・・・。それは例の首謀者共の一味でして・・・面白い事が分かりましてねぇ・・・」


——そう言ってナスビとタマネギの生(きた)首を、トレーにのっけて差し出す。猿轡をかませ、もがく間抜けな二人。喋って良いのは、ナスビだけだ。猿轡を外す。

——ボルツ王は目の前の生(きた)首に目を見開く。「ほぉぅ!」と小さく声を上げる。実はこういう類は好きなんだよね、ボルツ王は。


「確か・・ジーベルと・・ハンス・・だったな・・・驚いた・・本当に首になって生きておる・・・。」


——悪趣味で不細工な献上品を目の前に貴族共々、悲鳴が上がる。そんでもってウチの嫁さんが、指をゴキゴキ鳴らしてタマネギの後頭部を鷲掴みにし口を開く。


「さぁて、ローレライの秘密を洗いざらい話してもらいましょ?さっき話した事を一字一句間違えずね?アタシは一言一句、覚えている程の記憶力を持っている事を忘れずに・・・一言でも間違えたら・・・?」


「わかったぁああああ?!!!しゃべるしゃべりますぅう!!!!」


-3-


——ナスビの汚い声は聞くに堪えないモノだった。

——奴のくっちゃべった内容、それは俺が何度聞いても耳を疑う内容だった。何故ならそれは俺の血筋に関わる話だからだ・・・。


——元来ローレライ王国・・・いや、建国前の時代へと遡る。元はローレライ一族とエクスバーン一族とは血の流れで大きな関わりがあったのだ。

——それは、ローレライ一族が分家的な立場であり。エクスバーン一族が本家本元の剣聖の血筋であり、『魔剣』の開祖でもあった。

——いつしか『エクスバーン家』『ローレライ家』の祖先として成り立って土地を開墾する・・・それが王国の基礎となった。


——だが・・・分家であり、劣等感と猜疑心の強い『ローレライ家』は、長い歴史と世代を次ぐ目的で乗っ取りを始め、ジワジワと権力を強めていく・・・。一大強国の王族への時代ではすっかり、騙る様になっていった。

——それで、裏で『エクスバーン家』を蔑ろにしていき一家系へと落とし込んでいった。それは『本家』である、とうとう『エクスバーン家』の秘密を一族の掟としていった『ローレライ家』。


——すでに俺達の世代では、『エクスバーン家』に対して猜疑心の一族と化した『ローレライ家』へと変わっており、『本家』の血筋である事をすっかり忘れており。純粋に『王家を脅かす騎士の家系』と言う認識へ変わっていった・・・。

——異常な天性の戦闘能力を持っていた『エクスバーン家』の力だけを代々語っていった事に起因し。自身を脅かす存在へと言う認識にすり替わっていった。


「そんな本、読んだ事ないわよ・・・ウソ出鱈目の出任せじゃないなら・・・」

「それはそのぉ・・・・」


——片手で握りつぶされそうになったタマネギが自白する。


——その本はローレライ王国王城内にある。ローレライの一族ですら忘れられた秘密の地下室が劣化で偶然発見。探索したら一族が使っていたと思われる。隠し部屋で見つけ、たった一冊のその本を盗んで来たらしい。

——タマネギの知能では読めず、ナスビが解読し知る事となる。


——この二人はどうやらこの秘密を利用して、ローレライを煽りたかろうと画策したらしい・・・。本はナスビの書物に隠しているという。

——自白に晒されると、騒然となる。


「だから・・・なんだというのだ・・・それを今知って何になる・・・!!」

「父上・・・」


——皆凍った・・・誰よりも、彼よりも。声を荒げボルツ王は立ち上がった。息子らしい少年達が駆け出し、肩を借り段を降りる。

——あぁ・・・なんてことだ・・・彼が苦しんでいたのだ・・・目を見開いて、顔中に刻まれ続けた深々しい皺と言う皺には、苦悶と大罪の慚愧が刻まれているではないか・・・。


「すまぬ・・・ラグナ・・・ラグナ・エクスバーン殿・・・・国を民を・・・騎士と貴族・・・先人の大罪を・・・ぁああああ・・・ああああああああああああああああ!!!!」


——ボルツ王は俺より低く頭を下げ、王冠が落ち赤い絨毯に額を擦り・・・。嗚咽交じりで。肩を貸した少年も、兄らしい男も。俺の前で額に頭をこれでもかと擦っていた・・・。

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