後日談 やっぱり自分たちが非常識な存在と自覚しないとだめだよね


-54-


——それは、夜が深まる頃合い。刻時鐘が三回目なった頃合いだった。

——浮遊大陸のゲートを保有する都、グランシェルツ。その先の居を構える浮遊大陸の巨城。ラグナロック城に伝令兵が駆け込んでいく。


「伝令!!伝令!!申し上げます!!囚人城にて、斬首した者達が突如蘇生し・・その・・囚人たちを配下にして暴動並びに反逆を起こしております!!」


——バカな!!何を絵空事を!!気でも狂ったか!!と臣下たちが伝令兵の言葉を無下に信じず罵倒する。そんな中、国王は聞き入っていた。


「斬首した者とは・・・?」

「先週打ち首にしたジーベル、そしてハンスが・・・、それとは別に・・・収監されているナイアド家のヴェルソー・・・その三人が・・・その・・・」


——伝令兵は自身の言葉を疑う、周りの臣下も伝令兵の正気を疑う。俺はその中でで進言した。


「父上!!兄上!!申し上げます、死人がよみがえる事案と言うのはアマチの一件でも魔獣と言う形ですが確認しております!!死人を蘇らる魔界の石とやらが原因と、ゼノス・ヴォルギン騎士団長から報告を受けたはずです!!」


——ざわつく、臣下たち。『魔界』と言う言葉に過敏に反応しているらしい。


「確かに聞いた・・・左様か?ゼノス・ヴォルギンよ?」


「はっ!!相違無く!!何より・・・この事態は5年前の襲撃の一件に通じる事案があり、我々騎士の魔剣では打ち勝つことは不可能かと・・・魔法力で殲滅するのが最善かと進言いたします・・その為にスフィア・アーツの助力を仰ぐのが賢明と・・・」

「クソ!!我ら騎士の剣が・・・・ナマクラとは・・・なんとも情けない!!」


——ゼノスの言葉を聞いて、兄上は相当悔しがっていらっしゃる・・・俺も同じだ技を磨いた剣がてんで役に立たないとは・・・。だが・・俺には役目がある。


「父上!!兄上!!私は近隣の村々の避難を優先したく、兵をお借りしたい!!草民を守る事も騎士の役目!!許可を!!」

「ジード!!なにも・・・弟である貴殿が・・・」

「うむ!!ジードよ!!よくぞいった!!不甲斐ない儂に代わって草民は避難せい!!避難先はこのラグナロック城だ!!兵に伝え!!城下の者は難民を迎える支度をせい!!」


——制止する兄の言葉を遮る父の判断。兄は不甲斐なく負けじと声を張った。


「ゼノス・ヴォルギン!!草民を喰らう悪鬼を払う剣となれぃ!!我らの草民の為に振るえぃ!!戦えなくても守ることが使命!!臣下どもよ派閥に争い、いがむ、暇などないぞ!!」

「承知!!」

「この身、騎士としての役目として!!」

——ヴォルギン騎士団長の短く強い言葉、私も続いた。臣下たちも、お互いの顔を頷き合って頷いた。


-55-


——囚人城、そこは曰く付きの城だった。

——かれこれ、24年ほど前であるが、実を言うと一度半壊した暴動が起こっていた。聞けば地人族と投獄された剣士が二人で大暴れしてそのまま、囚人らが大暴動を起こすも。首謀の地人族と剣士以外は誰一人逃げようとしなかったという・・・。

——眉唾な話だが、再建の時に新しい処刑場を設け、3年かけて三重にも張られた堀と塀で囲っている。

——近隣には、その事を機に、人が住んでたため。被害を防ぎ、知らせる仕掛けを設けた。それが、指示するより早く、仕掛けが既に動いており。想像以上に避難民が動いており驚いた。


——兵士達が避難民を先導し指示していた。そんな列にゼノスに頭を垂れる男が飛び出した。


「おお!!騎士様!!大変です!!大変です!!どうか!!どうか旅の方を・・・」

「どうした!?その方!!」


——恰幅の良い男が駆け込んできた。息を絶え絶えに言葉を並べた、聞けば旅の冒険者達がいち早く気付き。自分らを逃げる様に促したという。彼らが先々に我々の仕掛けを動かし、避難民を先導させていたというのか?


「どういうことだコレは!!」

「むぅ・・・我らの国の仕掛けを知る者が・・?」


——それ以上の問答は無かった、なんせ小さい村々等は既にもぬけの殻。避難民たちは兵に任せて、時間稼ぎの騎士達が現着し囚人城へと向かう。

——城の仕掛けは外部に危機を知らせる花火と連動し、跳ね橋が開かない様に仕掛けていた。それは時間稼ぎをする為に施されている。

——そんな城の跳ね橋の前に妙な5人組が居た。全員フードを被っており正体は解らなかった。


「こりゃぁすげぇ・・・ご立派になっちゃってぇ・・・」

「儂らの時代にはここまで立派じゃなかったワイ・・・」


——彼等か?俺は声を上げようとしたが、運が悪く跳ね橋が一気に倒れてしまう。その轟音で、私の声は閉ざされた。

——土煙上げた跳ね橋から覗くよりも耳の痛い金切声が上がった。


「ゼッタイ・・・アノ・・・ケガレヒメニィイィィイイイ・・・・」


——囚人城の入り口には、ニンジン頭のヴェルソーが立っていた。囚人服から兵士の服に着替えたその姿は・・・。


ビュォオオオ!!!ボォオオオオオン・・・・・ジュォオオオオオ!!!


「ったく・・・野宿続きでやぁっと・・・宿に泊まれると思ったのに、まぁったく・・・騒ぎ起こしちゃってぇ・・・」

「母さん・・・せっかくの久々の魔獣だって言うのに・・・っていうか新築囚人城が・・・ぁあ~あぁ~あぁ・・・・・怒られるぞぉ・・・コレ・・・」

「相変わらず・・・こういう事でマッドはやめてほしいね・・・」

「っていうかアンタら夫婦はスる事しか興味ないでしょう—に」

「まったく・・・この夫婦の間によくもまぁ、レージみたいな懸命な子が育ったワイ・・・」


——は?ちょっと待って?アレって今・・・ヴェルソーだよな?しかも無詠唱で魔法放ってた?っていうかレージィ・・・・?奴か?!


「ちょっと待って、俺はマトモだぞ?」

「この城を半壊した奴が何を言う」

「ガラム!!当時はお前も共犯だろ!!」


——男同士で過去の自白のやり取りの中。ヴェルソーが即消炭となって、石が落ちる。ヴェルソーの力で下僕と化した囚人は全員自壊していく。それだけに終わらない。


ズゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオンン・・・・・・ヴォヴォヴォオヴォ・・・・


——凄まじい轟音で気付いた。囚人城の向こう側が吹き飛び、例の無詠唱魔法の貫通力がそのまま突き抜けた様で、山の一部を抉って光のドームが起っていた・・・・はぁあああ???


「おまえ!!こういう事すっから!!処刑されそうになったんだぞ?!わかる?ねぇ?」

「・・・いやぁガッツリ・・・スカッとしたわ!!」

「うっわぁっ!!聞いてぇえええええええええええええ!!!!!」


——夫婦漫才をする二人は、まるでさっきの行いに悪意が無い・・・えぇ・・・えぇっと・・・えぇえええ!!???


「ラグナ、魔獣?・・・がぁ・・・いるぞい!」

「あぁ・・クソ!!そんじゃまぁ、魔獣?・・・をサクサクしちゃいますかねぇ・・・・」

「エルフィ?いぃ~い?さっきの無し、レージに見せた螺閃輪以外は厳禁ヨ?おっけぇ?でアレが魔獣?ねぇ」

「グーパンダメ?」

「「「「ダァ~メ」」」」


——それを皮切りに、彼らは獲物を抜いて囚人城へ突入していく。まるで歩く悪意なき暴力が、その城に入っていく。我々もぼうっとするわけにもいかず、囚人城へ突貫する。しかし、ゼノスが「見ているだけに・・・」と咎める。それは余りにも信じられない光景を繰り出していた。


「四神源流・・・朱雀六爪華!!」


ヒュォッ・・・ヴォヴォヴォヴォ・・・・ギャリィッ!!!


——男の剣は長剣直刀を両手に構えた六連斬撃を繰り出す、その太刀筋は舞の如く美しく見張るものがあった。火とも血とも言えぬ朱に染めており。火の粉の散った先々には豪と言う音共に、一気に炎が燃え上がっていた。

——その傍らでは、耳鳴りの様な音が発した。


「西方虚空扇、衝星!!」


ギュロン・・・・ギュララララ!!!ズッドォオオオオオ!!!


——黒髪の淑女だ、掌を当てると軽く宙に吹き飛ばし。更に吹き飛ばした先で、相手に追いつく。さらにそこから急降下からの叩きつける、その際に鉄扇を広げると螺旋状の衝撃波で無数の傀儡囚人たちを吹き飛ばしていった。


——地人の男は易々と大きな斧を振り回し、あっと言う間に切り伏せていく。一振りで何人もの傀儡囚人が薙ぎ払われ、あっという間に赤黒い血が夥しく染まる。


「手ごたえが悪いのう・・・・硬い?確かに人でないな・・・」


——色素の薄い耳長の男は、弓の弦で次々と切り伏せる。彼の弓の弦は刃のようになっており、その素材が魔銀鋼と同等の機能を持っており、まるで魔剣の様だ。


「例の石とやらか?・・・どうも胡乱うろんな気配を感じる・・・」

「あそこねハイっ!!四斬螺戦刃クアットロ!!」


ギュロッロッロッロッロッロ・・・・ギャリィイイイ!!


——蜂蜜色の淑女が等身以上の光の輪が四つ、耳長が指さした先の壁や天井を切り刻む。石造りの城壁を石膏の如く、当たり前の様にザクザク切り刻む。あっという間に道を作る。

——傀儡囚人を操っている、ジーベルとハンスが姿を見せる。しかしお互いの顔を見て、絶叫とお互いの名前とあだ名を呼び合った。


「ラグナ!!」

「エルシャァ???」

「タマネギ!!」

「クソなすび!!」


——呼び合った刹那に決着は着く。ジーベルもハンスも逃げようとしたらしい。が・・・蜂蜜色の髪の女魔導師の手で、首から下を完全凍結にされ引っ張り出される。地人族の男がそのまま首から上を割って生首にする。


「あぁああああ・・・・ひぃいい!!!!!」

「ラ・・ラグナァ・・・おげんきそうで・・・へへへ・・・・」


——凄まじい程呆気なく、石持ちの個体にしては弱すぎる・・・。いや、間違いなく彼らが強すぎるのだ・・・。


「ったぁっく、打ち首って聞いたから大手を振って『バンザーイ』って喜んだのに・・・オイゴルァ・・・タマネギィ?」

「聞いたぞ?ゴルォア?・・・何でも奴隷の女の子を滅茶苦茶にしたってぇ?いったよネぇ?随分昔にアタシいったわよねぇ・・・ネェ?」


——ハンスは左目に、ジーベルは右目に例の石を植え付けていた。しかし、首から下は凍結され再生できず、生首のまんま。女魔導師の強烈な鉄拳制裁を双方が食らう。轟音が二つ囚人城に響いた。


——事の張本人である。ヴェルソー・ナイアド本人は消滅し、自身の再生の元である石だけとなり。ハンスとジーベルは生(きた)首で確保される。

——地人と耳長、黒髪の淑女が俺に頭を下げる。比較的良識枠の面々らしい。


「スマンのう・・・二度もこういう騒ぎを起こして申し訳ないのう・・・」

「本当に申し訳ない・・・うちの連れが・・・」

「もちっと・・・、きつーく言っておきますんで・・・」


——俺はまぁまぁと抑えていた。夫婦二人を無理やり俺とゼノスの前で謝らせている。

——結果、囚人城はものの見事に半壊。傀儡主人と化した面々の大半は死刑囚ばかりで、さっきまで図に乗っていた連中。それが、冒険者の面々の顔を見て戦々恐々としていた。なんせ、瞬殺にされそこから再生からの瞬殺を何度も繰り返したからだ。

——すっかりトラウマ記憶を持っているせいで、後悔をしていた。その恨みを、ジーベルとハンスが一身(首だけ)で受ける羽目になる。二人の悲鳴だけは絶えない。


——ゼノスはそんな中、パーティーのリーダ格とゆっくり話したいと申し出た。


「相変わらずだな・・・」

「えぇ・・っと・・・騎士団長だっけ?出世したなぁ・・・」


——お互いの会話は聞き取れなかった、少なくともそれは野暮と言うモノだった。

——なぜなら俺は事後報告の為に、城に戻ったからだ。


——その後戻って来たゼノスはボロボロになって酷く疲れていた、聞くと、ラグナの奥さんがスフィア・アーツを滅ぼそうと一悶着あって。総動員で止めていたらしい・・・。


-56-


・・・あぁ・・・反面教師でよかった・・・いやほんっとに・・・・


「眉唾だよぉ・・ちょっと盛ってねぇ?」

「眉唾ですわね」

「眉唾だス」

「眉唾ねぇ・・・」

「眉唾なお話ですねぇ・・・あれ?」


クシュリナ教官、ヴィラ、ダルダ、ハルーラ、ミスティアは皆口をそろえて同じ感想だった。それを聞いたダルク様は声を荒げる。


「いやいやいや・・・ジーク皇太子から直接アンタらに話す様に言われたんだってば!!レージっていう名前も・・・あれ?何で顔反らすの?そこの三人・・・」


俺とネイア姫とシャリーゼは、ダルク様と目を合わそうとしなかった。


俺達が知っているからだ。

国家レベルの爆弾解体は、寸での所で回避できたが自身のやらかしをしてしまい後悔した。

手紙一枚でこうもなるのかと・・・、つくづくうちの家族は規格外だと再認識した。

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