終章 一通の手紙を送っただけで大ごとになるとは思わないよね


-51-


騎士団長との話の翌日、俺は早急に手紙を用意した。

事態としては大きなターニングポイントと思い、ルイーンさん経緯で父さん達に話すべき内容と考えたからだ。


朝一番に訪れたのは『ドーニンドー商会』のマークを掲げた商店だ。

店主に、商会の長。ルイーンさん充への手紙を即日で送るようお願いをした。

紋章をルイーンさんに返却したが、俺の特徴を見知った店主は、都市アマチを救ったご本人からの直々の頼み事に嬉々として受け入れてくれた。


手間賃で金貨を渡す。店主はその額を見て驚き、事の大事さに直ぐ対処してくれた。


手紙の内容は、事の発端である新種の魔獣と『黒妖石』絡みの一件、それに対しての対策として俺の持つ『純魔剣』の重要性を明確にした。それに伴って、魔法では劣るグランシェルツがそれを必要としている事を示唆し協力と案の提案並びにアドバイスを求める事だった。この一件に関しては独断では判断できない事態だ・・・。


「わかりました・・・直ぐに商店本部いえ・・・商会長である、ルイーン様に直ぐにお送りいたします!!私も貴方様のお役に立ててうれしい限りですよ!!」


俺が商店から出てくると、店先で待っていた面々が驚いた声を上げていた。


「まさか、ドーニンドー商会と顔パスで・・・。」

「っていうか、うちの上役様と顔利きとは・・・っていうかひょっとして援助を受けているんだスか?」


「前々から・・・色々お世話になって・・・路銀から何から何までね・・・お世話になりっぱなしで頭が上がらないよ・・・」


ヴィラとダルダは心底驚き、その反応を俺は良しとしなかったので脛齧っている事をあからさまに明かした。

少しは無能な一面を晒さないと・・・。いや・・・むしろ事実かぁ・・・。


-52-


『三国街道掃討』でアマチに訪れて一ヶ月弱程経った。


当初の警戒感は、すっかり也を潜めていた。蟻獣郡の報告はおろか、飛行魔獣の存在すら別の世界観のように思える。

アマチに駐在する騎兵や騎士達だけシフトを維持できるようになっていた。

そのお陰か、グランシェルツ、サーヴェランスの学徒派遣は徐々に本国へと戻っていく。人手も乏しいながらもレイグローリー同盟学園のシフトにもオフが出来てしまった。


その日はクラン面子全員が一日中オフとなってしまった。

息抜き代わりに、皆でアマチの観光を楽しむことになった。


春先から夏への下準備と言う段階へシフトするアマチは、この時期から書き入れ時とハルーラは語る。アマチ中央街道の両端には屋台が並び、三国街道の特産品や名物が軒を連ねる。

その一角には、簡易ハウスの様な郡が設けており、屋台から買い揃えて来た名産、特産を並べている。それを各々がとりわけながら、


「ったく・・・今年に入って色々大変だわ・・・」

「しかも、お国の状勢も一気に激変しましたしねぇ・・・」


クシュリナ教官とヴィラはぼやく、実情が耳に入りやすい立ち位置だからだろう。


「しかし、魔法関連も相当情報統制を敷いていたんだな・・・」

「ジーベルはどうも、王宮と所から無断で持ち出し個人で確保していた様ね・・その裏でサーヴェランスの司書官も聴取を受けていてね・・・大事よ・・・」


俺の言葉に心底ウンザリしている言い草に、ヴィラの言葉に続いてネイアが口を開けた。


「その一連で、ナイアド家、ジーベル、ハンスの面々は結託に次ぐ結託で凄まじい程の偽造書類の山になっているそうです・・・。各国の上役の方々はため息をついおり・・・。特に・・・ダルク姉さんも凄い癇癪起こしていましたね・・・シャリーゼがボヤいていました・・・」


「ダルク姉さん?」


「ダルク・サーペント様・・・・サーペント家は母の母方にあたる家系でして。私にとって従姉の方なんです、ちなみにヴェルソー様は母の父方にあたる従兄でして・・・私はダルク姉さんと呼んでいます。」


成る程・・・、しかし大罪人になったヴェルソーを『様付け』で呼ぶとは・・・。


「上役の人たちは大変だスな・・・絡まった紐を元に戻す為に四苦八苦だス」

「ホントホント・・・自分たちで散らかしておいて、その片づけを他の人にやらせて本人らは打ち首でしょ?責任感ないわぁ・・・」

「打ち首・・・なんですか・・?」


ダルダは海鮮丼と思わしき丼ものをガッツリ平らげ、もっともなご意見を語る。ハルーラは芋揚げを齧ってぼやく。ミスティアはフルーツサラダを兎の様に齧って、打ち首と言うワードに戦々恐々していた。

っていうかね、ミスティア・・・君が一番ひどい目にあっているんだよ?もうちょっとザマァて思わないのかな?・・・そう思わない所がミスティアの良い所でもあるが・・・。


「少なくとも、ヴェルソー様は打ち首は免れましたが・・・無期懲役ですよ・・・」


ネイア姫の言葉に唐突に甲高い声が響いた、その声は誰もが聞き覚えのあるあの声だ。


「ネイア様ッーーーーー!!!おお!!皆々様!!ここにいらしたか!!」


シャリーゼだ。血相を変えて現れた、普段ならドリフのコント張りに俺に突っかかろうとするも。今回の優先プログラムはネイア姫様らしい。驚くネイア姫の顔。それに気にも留めず、クシュリナ教官はカップのお茶を煽って一言。


「シャーリィ・・・相変わらずねぇ・・・うちらオフなんだから静かにさせ・・」


だが・・・濁声をかき消す、突飛な声が一面に響いた。それはアニメでしか聞いた事が無いような高笑いだ。


-53-


「おぉーーーーーほっほっほっほっほっほっほ!!愚鈍な無知蒙昧な庶民共!!こうしてワタクシが来た事も理解できますまい・・・」


思わず驚き、ばっとみる。


ネイア姫と似た青髪を持つも、黄金色の瞳に酷く釣り目に八の字眉毛。気の強い顔つきに肌はネイア姫より色白、それは病的に感じさせる。インナーの黒いレザータイツとプロテクターは青縁取りの施しを入れて。その上から長いコートを羽織ったサーヴェランス国のセントナイツウォーリアに通じる重装備兵を彷彿とさせていた。


誰だよ・・・。


「ダ・・・ダルク姉さん!!」


「ダルク様!!」

「えぇ・・・?」

「ダルクって・・ネイアの従姉の?さっき話した・・・。」


「はい・・・」


ネイア姫の叫びにヴィラが驚愕し名を叫ぶ、ダルダはヴィラの反応にワンテンポ理解を遅れて反応。俺はネイア姫に再確認し、ネイアは一呼吸入れて肯定する。


「・・・!!そうよ!!愛しのネイアが私の事を思い出して・・会いたくて・・・話していたからよ!!・・そうよ!!そうよ!!そうなの!!この私が、ネイアが会いたがっていた・・・ネイアの従姉!!ダルク・サーペント侯爵よぉっ!!」


『侯爵』と言うワードに騒然とする、俺ら以外の周辺の人々も彼女の位を聞いた途端。唖然としてする、無理もない・・・。なんせ貴族の位の一つで五爵の中でも侯爵の地位。高位の彼女は威風堂々と雄弁に語る、俺は思わず直立不動となりに頭を垂れて身を引き締めたが・・・。

彼女は整然とする空気に我に返る。


「おっと・・・ふんむぅ・・・ごめんなさいねぇ・・・下々の者どもよ・・・少々私が、はしゃぎ過ぎて皆の者に迷惑をおかけしたわね・・・気にする事は無いっ!・・・此度の災難を聞き、こうしてこの足で視察と援助に参った。私に気にする事も無く、商いに励むがよい!!」


そう言って、皆戸惑いながら、周辺を開放する。どさくさに紛れて、ハウスに上がり込み。俺の皿から肉を一つまみし口に入れる。頬張りながら俺を一瞥し。俺に小声でアラ私好みの味付けね・・・と称賛している。


「気を楽になさい・・・貴殿の活躍と噂はネージュ様から聞き及んでいる。随分と騒がせている様ですが・・・。」

「聞けば・・・そちらにもご迷惑をおかけしたそうで・・・」


ネージュ様伝手かぁ・・・なるほど・・・。俺とそれとなく知っている訳か・・って事は俺の正体も・・・。


「えぇっと・・・ダルク姉さま・・それでお話とは・・・。」

「さっきの話よ・・ヴェルソー筆頭のアホ面ニンジン共と、腐れナスビと素寒貧タマネギの末路よ・・・中々面白い事になってねぇ・・・耳に入れて置いた方が良いと思って・・・さっきも言った様に視察と援助にかこつけて、ネイアの元に来たのよ・・・。」


ヴィルソー家の面子とは違って、随分とネイアに対し人当たりの良い家系だ。


しかし連中の事を毒を吐く様は、アージュさん以上だ・・・。


「この話は、ジード・グランシェルツ皇太子殿から聞いた話なんだがな・・・それはそれは眉唾な話なのよ・・・。なぁに土産話よ・・・ききなさぁ~い・・・」


俺達は、屋台の馳走を肴に、ダルク様も眉唾なお話を聞くことになる。


それは一連の事件の首謀者らの終着点を示している。


「今から二週間前の話なのよ・・・。」


彼女はこうして話し始めた、ジード皇太子殿下の又聞きの話らしい・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る